飛矢
妙なことを口走ったのは、ひとえに魔草が蔓延る森のせいだ。
時折顔が急に火照ったり、動悸がしたり、浅葱が脳裏にちらつくのもぜんぶ、ぜんぶ。
(なんたって摩訶不思議森だからな)
ぐっすりと休眠を取り、冴えわたった頭で答えを導き出した史月。ぽよんぽよん寝台から下りて、ぐっと背伸びをし、客間の扉を押し開けた。
ああ、なんて爽やかな昼だろう。
刹那に消える感動を胸に階段を下りて行った。
「こらこらこら。この泡に今はなるべくなら触らない方がいいね。触れた熱に反応して矢が飛び出すから」
「殺傷能力のある矢ですか?」
史月の問いに、桜桃はゆるく首を振った。
「いいや。存命中で会いたい者の元まで飛ばすだけ。殺傷能力はないけどね。今は交換を最優先にしてもらいたいから、行ってもらったら困るんだよ」
「へええ。調合しなくてもそんな便利な魔草があるんですね」
「こらこらこら。そうだねえ」
瞳を爛々にさせる季梨とは対照的に、史月は瞳の彩度がさらに鈍くなった。
遅い朝食兼昼食を食べ終えてから、桜桃を先頭にして本日の結界縄交換場所へと向かった史月と希梨の目の前には、群集する細かく短い棘が点々と空色の茎から生えて、箱みたいに真四角で、青色に白玉模様の葉から豚の蹄痕形の泡を空に地にとぷあぷあ吐き出し、巨大で純白の楕円形の石から生える魔草が控えていたのだ。
「希梨は今会いたい人が居るのかい?」
「ええ。あっちこっち飛び回っている友人に会いたいんですよ」
「こらこらこら。それは会うのが難儀だね」
「ええ。かれこれどれくらい会ってないのか。まあ、元気満々なやつですから、心配はしてないんですけど」
「こらこらこら。仕事が終わったら、使わせてもらうといいよ」
「えっ。うーん。そうですねえ。考えておきます」
「こらこらこら」
結界縄の状態を見ている間に話をする桜桃と希梨に構わず、史月は泡に触れないように細心の注意を払っていた。
幸い、泡は数も少なく、大きすぎず小さすぎず、風に作用されず、動きはのろのろの速度を保ち、何の前触れもなくパチッと消えることもあったが、その場合には矢は出てこない状態だったので、避けるのは困難ではなかった。
「こらこらこら。仕事に熱心で心強いねえ」
「史月ちゃん。頑張りすぎは厳禁だよ」
「そうですね」
適当に返事をした史月。
否定はしないが、それだけが原因で避けているのではないと思ったが、だったら何がこうまで必死に避けさせるのかは、よくわかってはいなかった。
(2021.11.8)




