シャーベット
「はい。苺のシャーベット」
「悪い」
忍灯が買い物に行って二時間弱。
顔色がだいぶよくなった浅葱を見て小さく頷いた忍灯。起き上がり寝台の傍に置いている背もたれ付きの幅の狭い椅子に腰を掛けた浅葱に、買ってきた苺のシャーベットとスプーンを手渡した。
「他にも色々買ってきましたから、一気に食べないで、少しずつ食べてくださいよ。普段食べない反動か何か知りませんけど、あんた。視界に入れたもの全部食べてしまうんですから」
「薬草を全部食べたことはない」
「何を当たり前なことを堂々と言っているんですか」
「仕方ないだろう。見たら食べたくなるんだから」
「普段から規則正しい生活を送って栄養を正しく取っていればそうはならないでしょうよ」
「じゃあ一生無理だな」
「また堂々と言わないでください」
「美味い」
「それはよかったですね」
「ああ」
よくなったとしても未だに悪い顔色からわかるように、まだ本調子ではないのだろう。ちびちび、スプーンの先でほんの少し削った苺のシャーベットを口に運んでは、少し間を置いてまたスプーンで削って口に運ぶ動作をゆったりと続ける浅葱を見ながら、さて、今日はどうしようかと忍灯は考えた。
帰るか、帰らないか。
幼子でもあるまいし、身体の調子も少しずつよくなっているようだし、必要なものは買ってきているし、留まる必要はないのだが。
「………俺っち、もう一度出かけてきますね」
「もう帰っていいぞ」
「いえ。岩を持ってきます。少し雲行きが怪しかったので家の中用に板岩を」
「………」
不意に食べる動作を止めた浅葱。無言が続いたかと思えば、小さく忍灯に会釈をして、また食べ始めた。
忍灯はひらりと手を振って、行ってきますと言い部屋を後にした。
(2021.10.27)




