余韻
浅葱の家から少し離れたところにある研究室の出入り口となる小屋は、忍灯が土産だと持って来た長方形の大きな岩を削ってできたものであり、後から付け加えられた石の扉を後ろに引いた先には、反響しない岩をくり抜いた小さな空間と地下に続く石の階段がある。
火の力を借りずとも、岩の発光力だけで十分に周囲の景色が見える階段を進めば、平地に辿り着き、少し歩くと今度は木の蔓を編み込んで作られた扉が真正面に登場する。
その傍らには、必ず声をかけて無断で入らないことと注意を促す立て看板があった。
そういえば、この研究室に来るのは、そう多くないな。
何回ほどかと数えようとした史月であったが、覚えていないので早々に諦めて、浅葱の名前を呼んだ。
二、三日留守にする旨を伝えるだけ。
だと云うのに。
何故だろう。
こんなにも動悸がする。
生命維持活動に支障が出るのではと危惧するくらいに速い。
もしかして、何か患っているのではないか。
診てもらった方がいいのではないか。
いやいやいや。無用な心配だ。
この変化は追究しない方がいい気がする。
小骨が喉に引っかかったように気にはなるが、どうせ落ちては消えてなくなる程度だ。
納得させては、扉の前に立ち、口を小さく開けて、やわく閉じて、少し大きく開いた。
「浅葱君。僕は二、三日、別の仕事で留守にするよ」
即座に扉の先に吸収されたように声の余韻が全くない空間に少し居心地の悪さを感じながら、浅葱の返事を待っていた史月。何とはなしに数えていた数字が十八になったところで、わかったとの返事があった。
たった一言。
何やら先程よりも居心地が悪くなったように感じた史月は、それ以上は何も言わずに静かにその場を立ち去った。
(2021.10.17)




