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いやん
「こんちわ。史月ちゃん」
「帰れ」
「いやん。つれないこと言わないでよ」
浅葱の家の玄関にて。
冷気を醸し出す史月に対し、あっけらかんと笑い出す男性の名は、季梨。
悲しいかな似合わないながらも無精ひげに憧れて生やし続ける、ポニーテルで色白の人物で、史月と同じ結界師である。
「お得意さんが史月ちゃんの結界縄がいいって聞かなくてさ」
「じゃあ作るからさっさと持って帰れ」
「何言ってんだよ。保護対象に近い距離で生産した方が効果は強くなるって基本的なことを忘れたの?」
「忘れてないが、君が居るからいいんだろ」
「だから史月ちゃんがいいって聞かないんだよ。ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰ってくればいいだろう。元々史月ちゃんの結界縄を使っていたところだし。交換時期にお得意さんが史月ちゃんを指名するのは至極当然でしょうが。それとも何?今契約している人が自分以外に結界縄を生産しちゃだめだとか心の狭いことを言ってんの?」
「言うわけないだろうが」
「ならいいじゃん。二、三日あれば大丈夫だから。俺もついていくし」
「………一応、浅葱君に訊いてくるから待っていてくれ」
「りょーかい」
敬礼の姿勢を取った季梨。陣取っていた玄関からようやく身体を動かして、研究室へと向かう史月をにこやかに見送った。
(2021.10.16)




