薬巌師
(僕はこれからどうなるんだろうか)
いがらいがらする喉と、ぼんやりとした頭と、少しだけごつごつした岩に沿って反り返る体勢を取っている史月は、ふと思った。
このまま火あぶりにされて岩の効果や何やらで美味しく頂かれるのだろうか。と。ぼんやりと。
薬草の調合の仕事が入ったから一週間ほど家を空ける。
史月が浅葱にそう言われたのは、屋根の上で夜を過ごし迎えた朝であった。
ぼんやりするのは寝不足ゆえだろうと思いながら、ああと返事をして屋根から下りて、浅葱を見送りもせずベッドに入り込んだまでは記憶があるのだが。
何がどうしてこうなっているんだっけ。
今となっては恐らく風邪をひいているのだろうと予測はできるのだが。
何がどうして少しごつごつする丸い岩の上に寝かされることになっているのか。
そしてこの岩はどうしてこんなにも心地いいのか。
まるで今押してほしい身体のツボを正確に把握しているかのように。
視界に映るのは、果てしなく続く薄雲がかかる淡い空と。
常に口の端を上げて、片目を三日月のような前髪で隠す健康そうな身体の人物。
「お。目が覚めたようですね」
「はあ」
「初めまして。俺っちの名前は忍灯。薬巌師で、あんたの風邪を治すようにと浅葱に頼まれたんで、今治療しています。すみません、寝ていたのに勝手に動かして。どうですか?どこか嫌だなーとか思う箇所はありますか?」
「ああ、いえ。とても心地いいです」
「天気もいいですし、一時間このまま寝てもらって、あとはベッドで寝れば明日には回復していますから」
「そうですか。それはどうもありがとうございます」
「いえいえ。ではどうぞまたお眠りください。時間が来たら運びますんで」
「ああそれはどうも」
忍灯の心地いい声音に誘われるまま瞑った史月。
かすれゆく意識の中で思ったのは、薬草師のくせに何で君が治療しないのか。であった。
(2021.10.9)




