私はバレンタインに想いを伝える。
私には好きな人がいる。
同じクラスで幼馴染の拓也くん。
中学の時は仲が良くて良く一緒に遊ぶことが多かったし、お互い違う部活だったけど、終わる時間帯が同じだったから毎日一緒に帰っていたのだけど··········。
ところが、同じ高校に入学してからは、彼の部活が忙しくなってしまったせいで一緒に帰ることがなくなり、遊ぶことも減ってしまった。
そんな感じだったけど、高校一年の三学期になってから、隣りのクラスにいるマドンナ的存在の優香が拓也くんのことを好きらしいという噂が流れていて知ってしまった。
「ねぇ、彩乃さぁ、隣りのクラスの優香が拓也くんのこと好きらしい噂があるの知ってる?」
「う、うん··········まぁね」
そりゃ、私だって拓也くんのことが好きだからその子がどんな子なのか気になって仕方がないし、その噂が真実なのか気になっている。
その子に直接拓也くんのことをどう想っているのか聞くことが出来たら良いのだろうけど、怖くて聞くことが出来ずに日々が過ぎ去っていった。
真実を聞けないまま、とうとう二月になってしまった。どうやら噂ではその子と拓也くんが二人きりで話をしているという目撃情報まで出回るようになっていたのだけど··········。
私の中では、二人は同じ図書委員であることを知っているので、そのことで話をしているんじゃないかと思っている。
「ねえ、そんな呑気なこと言ってて大丈夫なのかな? その子に取られちゃうわよ」
親友の里美が心配して言ってくれた。
「そ、そうかな··········」
「彩乃は拓也くんのこと好きなんでしょ?」
「そうだけど··········」
何時も部活のサッカーを頑張っている拓也くん、「恋愛なんて興味無い」と何時も口癖のように言っているのを知っている。
「ねぇ、後少しでバレンタインだけど、拓也くんに作ってあげるんでしょ?」
「う、うん··········まぁね」
「なら、その時にチョコを渡すだけじゃなくて自分の気持ちを伝えなよ」
「うん、でも··········」
「でもって何よ! 後悔しても知らないんだからね。ちゃんと自分の気持ち伝えなさいね」
「うん、分かった。そうだよね、伝えてみるよ··········えへへ」
十四日当日、せっかく朝早く登校したけど、意外と人が多くて下駄箱に手紙を入れることが出来なかった。
でもまだチャンスはある。休み時間にったらこっそり渡そうと思い、一人になるタイミングを伺うも、困ったことに今日はずっと誰かと一緒にいる拓也くん。
とうとうチャンスがなくて手紙を渡すことが出来ないままHRの時間になってしまった。
この状況はヤバすぎる。帰り際に声を掛けて待っていてもらわなくてはいけない。
軈HRが終わると、彼の席に向かおうと思った私は、窓側の一番後ろの席に視線を向ける。
ところがもう彼が居ないでは無いか。
部活があっても何時もそんなに早く席を立つことがない彼。今日は珍しく部活が無いのでまだ教室に居るんじゃないかと思い、教室の中を探してみた。
ところが居ない。
ショックだった私は、里美に「一緒に帰ろう」と言われたけど、先に帰っても貰う。
結局声を掛けることも出来なければ、渡すことも出来なかった。誰も居なくなった教室で取り残された私は、鞄の中からチョコを取りだすと、その箱を見て自然と泪が出てしまい悲しくなった。
────ガラガラ
突然泣いている私がいる教室のドアが開いたので、急いでハンカチで泪を拭う。
その直後、中に入って来たのは拓也くんだった。
息切れをしているのがわかった。どうやら走ってきたらしい。忘れ物でもしたのだろうか?
「彩乃、俺にチョコくれるんだろ!!」
それは予想だにしない一言だった。
「う、うん··········」
「俺、中学ん時からずっとお前のこと好きだったんだ」
「えっ··········」
自然とポロポロ泪が出てしまった。
「ど、どうしたんだよ! 彩乃嫌だったか··········ごめん」
「ううん、嬉しくて··········私も拓也くんのことがずっと前から好きでした。えへへ」
この日、久しぶりに一緒に帰ることに。
噂が流れていた彼女の事を聞くと、バレンタイン当日の今日、拓也くんにチョコを渡そうとしていたらしい。
放課後呼び出されていた拓也くんは、優香からのチョコは貰えないと言って断ったのだという。そのことを知って安心する私。
そのまま帰ろうとしていた所へ、拓也くんのことを探していた里美から、私のことを教えてもらい、急いで教室に戻ってきてくれたのだという。
私は親友の里美にとても感謝しています。私は今とっても幸せです。
帰り道、彼が私の前に手を差し伸べる。私は照れながらその大きくて暖かい手を握りしめた。
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