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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人寄せのバースデイ〜あなたに最もあうギルドを紹介します、少しお高くなりますが〜

作者: ゆに

ここまでお越しいただきありがとうございます。


短編ですが、2つの物語を入れています。


楽しんで頂ければ幸いです。

 王都の闇を一手に担う貧困街、肉が臭り白骨化した死骸の上を渡らねば奥へ進むことも困難なこの街の奥地に一軒の家屋が立ってる。


「うへぇ……本当にこんな所に人が住んでるのかよ」


 貧困街に似つかわしくない下ろし立てのような上質な鋼で仕立てられた鎧を来た青年ルークは家屋の玄関扉の前で立ち止まる。


「すみませーん、どなたかいませんかー!」


 若者らしい精気あふれる声で屋内へ呼びかける。



 すぐに返事はなかった。

 ルークはじとりとした視線を感じ周囲を見渡す。

 姿は見えない……恐らく貧困街の住人達が隠れながらあわよくば金目の物を盗み盗ろうとしているのだろう。



 こんな場所にいたくない、早く中に入りたい。

 そんな気持ちがルークをはやし立てた。


「すみません! いたら出てきてください、依頼があって来たんです!」


 先ほどよりも響く大きな声を出し家の扉を力強く。


「空いているぞ」


 ぶっきらぼうな声で返事が聞こえた。

 聞こえてるならさっさと出てくれればいいのに……


 意地の悪い世帯主に若干の不安を感じつつルークは玄関ドアを開ける。


 そこは貧困街の汚れた世界とは完全に別空間となっていた。

 大理石が敷き詰められた高級感のある通路。


 きれいに掃除も施され進むことを戸惑うほどの上質な室内にルークは思わず息を飲む。


 こんなところで止まってる場合じゃない、我に帰り声の元へ進んでいく。

 通路の先のドアを開くとその先に無造作に伸びた黒髪で目つきの悪い紫色の目をしたスーツ姿の男が椅子に腰掛けていた。


 部屋中の壁全てに敷き詰められた本と何も置かれてない机、腰掛けている椅子のみの部屋。

 明らかに堅気の雰囲気じゃない……ルークは直感で男の危険さを感じ取った。


 こんなことで気圧されてはいけない、この男に依頼にきたのだから……


「ここの噂を聞いてやってきました、バースデイというのはあなたのことですよね?」


 雰囲気に飲まれないようルークは自ら話を切り出す。


 バースデイと呼ばれた男は椅子から立ち上がり紫色の濁った目でルークを見つめる。


「あなたに依頼に来たんです、自分に最も合うギルドを紹介してくれるんですよね?」


「ああ……」


 会話が通じたことにルークは僅かながら安堵した。


「実は俺、ギルドを追放されたんです……ようやく一人前になれたと思ってたのに……もうこんな気持ちになりたくないんです、俺に一番合うギルドを紹介してもらえませんか?」


「ギルドの名は?」


「ギルド名? 追放されたギルドのことなんて必要ですか? まあいいですけど……『ドリアグス=ヘルベル』というところです」


 最近名をあげたばかりの新進気鋭の冒険者ギルドだ、この世界には様々なギルドがごまんと存在する、その中の一つ一つなんて正規の斡旋所だって把握できてないだろうとルークはタカを括っていた。


「最近ギルドランクがEからCに急上昇したギルドだったな、ギルドランクが上がり新規のメンバーが入り古株がふるい落とされるなんてよくあることだ」


 この男、俺のギルドを知ってる……


 名を告げただけでギルドランク事情まで把握していることに驚きが隠せなかった。



 ランクが2段階も上昇することはそうあることではないがCランクのギルドなど掃いて捨てるほど存在する。

 そこからBやAランクになれるギルドはごくわずかで、そのさらに上のSランクともなるとギルドメンバー全員が歴史上の偉人と同等の存在として崇められるほど希少なものとなる。



「その通りです……ギルドランクを上げるためには俺のような低俗スキルしか持たない奴は必要ないと言われてあっさり追放されました……信じられないですよ、今までどれだけギルドに尽くしてきたと思ってるんだ……」


「低俗スキル……」


「はい、俺はのスキルは回……」


「言われなくても分かる」


 ルークの言葉を遮り、バースデイはルークの観察を始める。


 頭頂部から爪先までゆっくりと流し見て後目を閉じた。



 マイペースな人だ……友達とかいるのかな……


 あまりにも独特な間を持つバースデイにルークは違和感しかなかった。

 この人が本当に自分にあったギルドを斡旋してくれるのだろうか?


 ただ、噂で聞いた限りこの斡旋所の評判はいいらしい……

 詳しくは知らないがその言葉を信じてルークはここまでやってきたのだ。



「わかった……あなたに一番合うギルドを紹介しよう」


「もう? これだけでわかったの?」


 ギルド名と自分の体を一度流し見されただけ、詳しい話なんて何もしていない状態でどうやってベストのギルドが分かるのだろうか。


「紹介前に言っておくが私の紹介料は高いぞ、わかっているんだろうな?」


「そうなんですか? 知りませんでした……ちなみにいくらなんですか?」


「そうだな、今回の紹介であれば5000ユキーチだ」


「ご……5000ユキーチ!?」


 馬鹿げてるとも思えるような、あまりに法外な金額だった。


 下手すれば一生暮らしていけるほどの額。


 Bランクギルドがクエストを達成して得られる報酬がよくて10ユキーチほど、それから比べてもあまりに高すぎる、よほどの富豪でもなければ到底払えないような額だった。

 当然そんな金額をルークが持っているはずがない。


「言っとくが値切るような者に紹介する気はないからな……」


「いや……払いたくてもこんな値段払えません……」


「なぜだ? 自分の人生を左右させる最も大事なことにこの程度の金額も払えないというのか?」


「この程度? はっきり言ってそんな大金見たこともないですよ! 冗談はやめてください、こっちは本気なんです!」


「私だって本気だ、今手元にないのなら新しいギルドから借りればいいじゃないか」


「は? あんたふざけてるだろ! 新しく入れてもらうギルドにずうずうしく金を貸してくれなんて言えるかよ! こっちにだってプライドがあるんだ!」


「なら諦めろ……無理強いをするつもりはない」


 バースデイの紫色の視線はルークを突き刺すようにまっすぐと向けられている。


 普通の斡旋所でもBランクギルドに所属していたものであればいくらでも紹介先なんて用意してもらえるだろう。


 しかしルークはそれを踏みとどまっていた。


ーお前のような低級回復魔法しか使えない奴は用済みなんだよー


 追放される前にギルドマスターから言われた言葉があまりに重くのしかかっていた。

 ギルドはBランクになった、それはルークにとっても自信となっていたがそれに見合う技量を持たないと言われた自分が斡旋されるのであれば、どれほど低いランクのギルドとなるのかがわからない。


 本来の斡旋所には待ち行列ができるほど多くの依頼者が来るのが恒例だ。

 そんな場所で自分のプライドをへし折られるようなギルドを告知されることは耐えられなかった。



 黙り込んだルークに向け、バースデイが告げる。


「うちには契約書は存在しない、もし紹介を受けるなら『う・け・る』と私に告げるだけでいい」


 たった3文字……それだけで契約が成立する。


 これは詐欺なんじゃないか?

 こんな寂れた場所でどう見てもあやしい男から紹介されるギルド。


 それにありえないほどの金額。



「もちろん紹介はしてもらいたい、でもこんな額じゃ……」


「なら帰るんだな……あなたの熱意もそれだけだったということだろう」


 ごく普通にバースデイの口からこぼれた言葉がルークには嫌に突き刺さった。

 熱意があるからここまで来た。

 紹介されることを嫌がっているのは金額の問題だけだ……


 追放されたとは言え、ルーク自身はギルドに貢献しているつもりだった。

 低級とはいえ適切なタイミングで回復を行なっていたから参加したクエストで死者や重傷者を出したこともない、そんな自分がどうしてこんなに合うのか不満ですらあった。



 ここが確実に自分に合うギルドを紹介してくれるのなら……


 上位ランクともなれば5000ユキーチくらい返せない額ではない。



「受ける! お願いします、俺に合うギルドを紹介してください」



「クックックッ……」


 バースデイは不敵な笑みを浮かべた。


 葛藤を見透かしたような笑みを前にしてもルークの意思が揺らぐことはなかった。



「承知した、では紹介しよう……」


 バースデイがスーツの内ポケットからメモ帳とペンを取り出し何か書き出してから手渡した。


「この場所でギルドがあなたのことを待つことになる、依頼料は自分から届けてくれれば助かるが、しばらくここに来ないようならいただきに伺うことになるからな」


「もちろん払います、いきなり全額払えるかわからないけど……逆に払う価値のあるギルドを紹介してくれているんでしょうね?」


「最もあなたにあっているところを紹介した……私が自信を持っておすすめするギルドだ」




 こうしてギルドを紹介されたルークは部屋を出て行った。

 受け取ったメモに書かれた住所、はやる気持ちを抑えてそこへ向かって聞くのだった。




★ ★ ★ ★ ★



 数日後、バースデイの斡旋所にルークは立っていた。


「入るぞ!」


 前回のおどおどした様子から打って変わり怒りにも感じられる態度でバースデイまで向かって行った。


「だましたな、この詐欺師め!」


 バースデイを見るやルークは怒鳴りこむ。


 以前とまったく変化のない壁中に本が並べられた部屋の中で椅子に座っているバースデイが何も語らずルークを見つめた。


 当人を目の前にしても怒りの治らないルークはバースデイに近づき、胸ぐらを掴む。


「ずいぶんだな……支払いに来たにしては乱暴だ……」


 飄々としたバースデイの態度にルークの怒りはなお加速する。


「ふざけるな! 誰が金なんて支払うもんか! なんで追放されたギルドを紹介されなきゃいけないんだ!」


 バースデイの渡したメモに書かれた場所にいたのはルークを追放した張本人、『ドリアグス=ヘルベル』のギルドリーダーだった。


「俺の紹介するギルドはお気に召さなかったか?」


「気にいるわけないだろ! 顔も見たくない相手だぞ、見た瞬間帰ってきた」


「会話もせずにか……」


「ああそうだ、話すことなんてないからな! これで5000ユキーチ? ふざけてるだろ! 絶対に金なんて支払わないからな!」


「結構だ……もう支払い示談は成立している……」


「はぁ……?」


 示談が成立? 自分の聴き間違いを疑い首を傾げた。


「成立なんてするかよ、俺は払わない、こんなふざけた紹介に支払ってたまるかよ!」


 興奮するルークの背後から扉の開く音がした。


 こんな場所に自分以外の客が?

 とっさにルークは落ち着きを取り戻し音の方向へ顔を向けた。


「あっ……」


 そこにいたのは『ドリアグス=ヘルベル』のギルドリーダーだった。


「なんでここにギルドリーダーが……?」


 この人の顔を見た直後に文句を言いにバースデイの家までやってきた、ギルドリーダーがここにいるということは自分を追いかけてきた以外には考えられない。


「ルーク……ようやく追いついた……」


 ギルドリーダーは声をつまらせながら話始めた。


「お前がいなくなってからうちのギルドはボロボロになってしまったよ」


「何を言ってるんですか……守りのギルドだったうちがそう簡単にボロボロになるわけが……」


「そう思ってた……うちは守りのギルドだってな、鉄壁の守りでどんな困難も乗り越えていくのがうちのモットーだったはずだった」


「そうです、そんなうちのギルドがボロボロになるなんてよほどのことがなければありえない」




「起きたんだよ、そのよほどのことが……あなたが抜けたっていう大事態がね」


 二人の会話にバースデイが割り込んだ。

 ルークの頭は火を吹きそうだった、どれだけ考えを巡らせても今起きていることが理解できない……


 そんなルークにギルドマスターが語りかける。


「ルーク、お前は低級魔法しか使えないのではなく持続回復グローラルのスキルを持っていたんだ」


持続回復グローラルだって? パーティを手助けする上級スキルじゃないですか、それを俺が?」


「そうだ……どうやら隠れた才能でルーク自身、そして俺達も気付けなかったみたいだ……だがその片鱗だけの力で常時回復させてもらっていたからここまでやってこれたことに間違いはない、それを教えてくれたのはバースデイさんだ」


「バースデイさんが?」


「クックックッ……事情を話たら紹介料は全てギルドマスターが支払ってくれることになった、これで取引は完全に終了だ」


 バースデイの発言にルークは首をふった。

 

「全然納得できない……そもそも自覚がないんだ……俺がそんな上級スキルを使ってたなんて」


 狐にばかされたような話だった……死ぬ前にみる幻の方がまだ現実感があると感じるほどだった。


「そうだろうな、無自覚の潜在スキルなんてそう気付けるものではない、私の元に来なければあなたは標準スキルだけを見てそこらのEランクギルドあたりを斡旋されていただろうな」


「それをバースデイさんは見抜いたと……」


「ククク……もう私からの話は終わりだ、あとはギルドの者同士で話してくれないか……」


 

 追い出されるような形でルークとギルドマスターはバースデイの家屋から出て行かされた。


 残された二人からは神妙な空気が流れていた。


「この依頼料でうちのギルドの有り金は全部なくなっちまった……」


 ボソリと話だしたのはギルドマスターからだった。

 

「俺なんかのために全財産を払ってくれたんですか?」


「ああ……酷いこと言って追放しちまった手前、こんなこというのは身勝手だってわかってる……でもルーク、うちのギルドにはお前が必要なんだ、戻ってきてくれないか?」


 悔しい……


 鈍感なルークにだってわかっていた、必要とされているのは自分ではなく、隠されていたスキルだということに……

 それでも長年連れ添ってきた厳しかったギルドマスターがギルドの全財産をはたいてまで自分を必要としている。


 プライドがズタズタになるほどバカにされたはずなのに、隠しきれないほど喜びに満ちている自分の気持ちが悔しくてたまらなかった。


 自然と涙が止まらなくなっていた……


「俺……ドリアグス=ヘルベルが好きです……」


 もらい泣きしていたギルドマスターがルークの胸にコツンと拳を打ち付ける。


「今のうちはボロボロな上に金も底を尽きたどん底の状態だ、これからのし上がっていくぞ」


 ゼロからのスタート。

 新進気鋭のギルド『ドリアグス=ヘルベル』は今、二度目の誕生を迎えた。


 無敵の防御を誇る鋼鉄のギルド。

 そう冠されるこのギルドがAランクに名を刻むようになるのはもうしばらく先の話……











 ある日バースデイは自慢の椅子に腰掛け腕と足を組み寡黙に待機していた。



 遅い……


 バースデイは誰かを待っていた。


 おもむろに右手のひらを上に向けるとどこからともなくコーヒーの入ったカップが乗せられた。


 心を落ち着かせるための一杯のはずだったが、穏やかでない心のせいか組んだ足は小刻みに揺れている。



 一月前に紹介した者が一向に支払いに来ない。


 悪いギルドを紹介したことがないと自負するバースデイにとって支払いを反故する者は許せなかった。



 支払い能力の問題ではない。

 ここへ来ない理由を聞かなければ納得ができない。



『主人様、出発はいかがされますか?』


 部屋のいずれから声がしバースデイに問いかける。


「今すぐだ」


『すでに準備は整っております』


 バースデイの手元からコーヒーカップが消えてなくなった。


 苛立ちを噛み締めるようにゆっくりと椅子から立ち上がると、バースデイには紫色のコートが羽織らされていた。



『お早いお戻りを……』


 いずれから聞こえる声がそう告げるとバースデイは骨董品の立ち並ぶ部屋の中に立っていた。


 部屋が暗く、とても静かだ……


 外からはフクロウの鳴き声が聞こえている。

 この場所では深夜の時間帯のようだ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 


 泉や木々が生茂る森の中に巨大な屋敷が建っている。


 月明かりのない完全な暗闇の空にはホーホーと鳥のなく音のみが不気味に響いていた。



 3人の男が屋敷の裏口扉の前でたたずんでいた。



 トレジャーハントギルド。


 本来ならこの3名はダンジョンなどに潜りそこに埋れている財宝をハントすることを目的に集まる者だった。


 ところが最近入ったマルクの持つスキルの力で3人の目的は大きく変化してしまった。


「いくぞ」


 の言葉とともに古株のデミトールが屋敷の扉に手を触れる。

 当然施錠がされていて扉は開かない。


 そこでデミトールはもう片方の手を鍵穴を覆うように触れる。

 無音のまま口を動かしていると鍵穴を覆う手が光だしガチャリと音がして鍵が外され扉が開いた。


 トレジャーハンターにとって最も優先順位の高い上級スキル『解錠ワルド』をデミトールは極めていた。

 本来長い詠唱を必要とするこの魔法だが、もう一人の古株オルガのスキル『消音フィーン』により詠唱の声を外に漏れないように消すことができる。

 これで慎重な行動が要求される高ランクダンジョンであっても音が漏れることなく宝箱の鍵を開けることが可能だった。



 屋敷に侵入する前に新入りのマルクが持っていた長布を3人がかぶさるように空に広げた。


 長布が3人を包むと景色と混じりだしそこにいたはずの3人の姿が見えなくなった。

 これが新しくギルドに加わったマルクのスキル『透明キュリア』の効果によるものだった。



 デミトールの鍵開け、オルガの消音、マルクの透明化を駆使すればこれまで以上のダンジョンも攻略できるほど噛み合うスキルの組み合わせだった。

 だが3人はトレジャーハントよりも効率が良くリスクの低い金儲け方法に気付いてしまった……



 透明キュリアの布から屋敷の中を覗き込むとそこら中に高額な骨董品が並べられている。

 一つ一つが高ランクダンジョンでしか手に入らないような貴重な品々ばかり……


 この屋敷に住むのは相当な富豪なのだろう……

 屋敷の警備もしっかりしており、見回りの警備員もかなりの数徘徊しているが、姿の見えない3人は見つかることなく目的の場所に向かっていく。


 目的の者は屋敷の中心で厳重に管理している『一粒の銀河』と呼ばれる宝石。


 予めの調べだと、その宝石が管理されている部屋には警備員すら入ることも許されていないらしい。

 複数名の警備員が厳重に扉を守っていた。



 しかし姿も物音もない3人が警備員に気付かれることはなかった。

 時間は深夜……


 平和な警備活動に警備員の気は緩み、うとうとしながら扉に背を向け部外者の侵入に備えていたため背中越しに本丸の扉がわずかに開いたことに気付かなかった。



 目的の場所にたどり着いた。

 素早く扉を閉めたデミトールは親指を立て成功をアピールした。



 これが3人がトレジャーハントをやめた理由。

 危険なダンジョンに潜るより、人の集めた財物を奪い取る方がリスクが格段に低い。


 3つのスキルが合わさればバレることもほぼないだろう。


「もう俺達、リスクを負うことなく優雅に生きていけるんだ、最高だな、ククククク……」


「全くだ、もう危険なダンジョンなんて懲り懲りだ」


「アンタ達に会えてよかった、これで俺も大富豪になれるってもんだ」



「なるほどな……ギルドそろって迷走していたら依頼料も払えなくなるはずだ……」


 3人が言葉を失った。


 今の会話が聞かれている?

 

 消音フィーンの効力で布の外には音は絶対に漏れていないはず……

 そもそもここに人がいるはずないのになぜ声が聞こえてくる……



 恐る恐る布越しに姿を覗き込んだマルクは言葉を失った……


 そこにいたのは露頭に迷った時に泣きつき、今のギルドを教えてくれた紫の瞳の男だった。




「な、何故アンタがこんな場所にいるんだ……?」


 依頼をした時からこの男は不気味だった。

 何を考えているかわからない奇妙な雰囲気を持ち、獲物を捕食するヘビのようにじとりとして外れない視線。


「俺を覚えているということは紹介料も忘れてないはずだな……」


 依頼に行った時と同じ……

 むしろその時以上に研ぎ澄まされた恐ろしい目で布越しに目があっている。


「いや、それは……そ、そうだ! あんなすぐに払えるわけないだろ、8000ユキーチだぞ……」


「誠意は見せられたはずだ、一括でなくとも現状可能な一部であれば返せただろう? むしろ掻き集めればすでに全額返済できる額が貯まってそうだがな……」


「そ、そんなことは……」


 事実だった。

 マルクが入り窃盗を行うようになってからの成果はトレジャーハントをしていた頃がバカバカしく思えるほどの金品を手に入れられた。

 手にした額で言えば10000ユキーチは優に超えているだろう。

 それであるのにも関わらず、マルクは目先の欲に溺れ手にした宝を換金しては豪遊し、手元には殆ど残っていないような状況だった。



「なぁ……さっきからなんでこいつはマルクと会話ができてるんだ? 俺はまだ消音フィーンを解いてないんだぞ」


 不可解な状況にオルガは声を振るわす。


「俺らの姿だって見えてないはずなんだ……」


 警備員達は誰一人気付くことなくここまでやってきた。

 スキルにぬかりはないはずだった……



 固まる3人に向けバースデイが歩き出す。


「どうするんだよ……こんな事態はじめてだぞ……」


「こいつマルクを紹介した斡旋所の男だよな?」


「払わなきゃ帰りそうにないぞ」


「あるわけないだろ、8000ユキーチなんて」


 慌てて3人が話をするもまとまらない。


 その間にもバースデイとの距離は詰まっていく。


「払う! 払うつもりだったんだ、遅れてすまなかった……ここの宝が売れれば一気に返済できるくらいの額に届くはずだ!」


 マルクはプレッシャーに負けバースデイに支払いを告げる。


 それを受けてもバースデイは無言のまま布越しにマルクの目を見つめ続けた。



「おいマルク、勝手に決めるんじゃねぇよ、宝は誰にも渡さねぇ」


「でもそれじゃ……」


 怯えるマルクとは違いデミトールは強気だった。


 透明キュリアの布を自ら剥ぎ、バースデイと対面する。


「どうせ見えてるんだろ、姿を隠しても意味ねぇよな」


 デミトールに続きオルガも布から出て、両腕を広げ詠唱を始めた。


 部屋の中に曇った空気が張り詰める。


消音フィーンをこの部屋に展開した、これで外に音は漏れない」


 開き直るデミトールとオルガにマルクは困惑していた。


「お……おい、なんでそんなことを?」


「なあマルク、考えてみろよ。この紫コートがどうやってここに入り込んだか知らねぇが今は1対3だぞ」


「そういうことだ、大声でも出せばドア越しの警備員に気付いてもらえるとでも思ったのかもしれないが外に音は聞こえない、こいつがどれだけ悲鳴をあげてもな」


 マルクもようやく理解した。

 デミトールとオルガは紹介料を踏み倒すつもりだ……


 二人が忍ばせていたナイフを取り出したところでマルクは気付く。

 踏み倒すだけじゃない……ここでバースデイを殺すつもりだ。


「トレジャーハンターは弱くちゃ務まらない、急にモンスターに襲われることなんて日常茶飯事だからな」


「あの世で後悔するんだな、調子に乗ってここまで来ちまったことを」


 殺意に満ちた二人とは違いマルクは不安だった。

 ここまで表情も変えず無口なバースデイが。


「それでいいんだな?」


 ここにきてようやくバースデイが口を開いた。


 ナイフを向けられているのに冷静なバースデイに対しオルガが呆れるように笑う。


「この状況で上からの態度……お前は感覚がぶっ壊れて流んだろうな、素直に怯えてればこっちも手加減してやる気にもなったかもしれないのにな」


「ナイフ、足に刺さってるぞ……」


「はぁ?」


 バースデイの言葉を不可解な顔をしつつオルガは足を覗きこむとデミトールのナイフが右太腿に突き刺さっていた。


「なにぃぃぃぃ!? おい! デミトールなんで俺に刺さってるんだよ!」


 突然起こる事態にデミトールはナイフを握っていた手を確認する。


「お、俺は何もしてない! さっきまでナイフを持ってたはずなのに……」


「あっ! 今度は俺のナイフが!」


 オルガのナイフが手を離れ宙をユラユラと動いている。


「なんだこれ……? まさかこの紫コートの仕業か?」


「こいつ、マリクやオルガのスキルも見破ってたよな? 本当に何者なんだよ……」


 目の前で起こる不可解な事象にデミトールの心は一気に萎えていた。



「全てのものには魂が宿っている……俺はそれと対話し動かすことができる」


 バースデイのスキル『万物の精霊』はものに宿る魂との対話を行い命令を下すことのできるスキルで、魂を見ることができるバースデイにとって姿が透明になったとしても魂まで見えなくことはないため3人を確認することは容易だった。

 また、大気と対話することで体を自らを移動させることも可能となり、3人よりも先にこの場所に忍び込むこともできたのだった。



 オルガが突然震えだし、話始める。


「確かだけど、昔Sランクギルドのリーダーにあらゆるものと会話することができるやつがいたって聞いたことがある……しかもそいつ消息をくらませて今はどこにいるのかわからないとか……」


「まさか、この紫コート……そのSランクギルドのリーダーだったんじゃ……」


「なあ、あんたそうなんだろ?」



「知らないな……俺はただのギルド紹介屋だ」


 そういうとバースデイはマルクの目の前に立った。


「最後にもう一度だけ聞いておく、紹介料を払う気はあるのか?」


 マルクの頭は真っ白になっていた。

 Sランクギルドなんて見たこともない、実在することすら聞いたことがないほどのものだ。


 そんな相手に勝てる見込みなんてない……


「払う! どんなことがあっても絶対に払うから待ってくれ!」


 こんな目にあったが、マルクはまだデミトール、オルガとのスキルの組み合わせには可能性を感じていた。

 この3人でならまだまだ稼ぐことができる、あわよくばここを回避することあってできるかもしれない……


 もうバースデイに合わずに生きていくことだって……

 そうここさえ回避できればいくらでも稼いでいける!

 とにかくここを……


「払う気はなさそうだな……」


「えっ……? いや、払う! 絶対に払うつもりなんだ……もう少しだけ待ってもらえれば……」


「あなたの魂はそう言ってなかった、紹介した時は魂も支払うと言っていたが、このギルドに入って変わってしまったらしいな」


 バースデイはマルクに背を向けた。


「素直にトレジャーハントをしていればよかったものを……」


 そういうとバースデイは部屋から姿を消した。



「いなくなった?」


 部屋中と見渡してもすでにバースデイは見つからない。


「なんだったんだあいつは……」


 幻ではない……オルガの足にはナイフの傷が生々しく残っている。


「よくわからないが、いなくなったんだからさっさと目標のお宝を奪ってズラかるぞ」



 部屋の隅には宝石『一粒の銀河』が管理された鍵のされた透明なケースが置かれていた。


 あたりを見回し改めてバースデイがもういないことを確認するとデミトールは急ぎ足で『一粒の銀河』へ近付き手を伸ばす。



 屋敷最大の宝を守る鍵、相当複雑なものなのだろうがデミトールの解錠ワルドさえあれば問題ない。


 オルガとマルクは息をのみ鍵が開くのを待っていた。


「ん……? おかしいな……」


 デミトールが首を傾げる。

 解錠ワルドが発動しない。


 普段なら即座に終わるデミトールのスキルが終わらない、さすがにオルガ達も異変に気づく。


「どうした? さすがのデミトールも緊張するのか?」


「いやまさか……さっきのこともあって心が乱れちまったのかもな」



「おい、誰か部屋の中にいないか!?」


「鍵があいてる! いつの間に」


 外から警備員達の慌てたざわめきが聞こえてきた。



「まずい! 俺達の声が聞こえてる見たいだ……」


「バカな、まだ消音フィーンは解いてないのに」


「このままじゃ見つかるぞ、透明キュリアの布に急いで入れ!」


 慌てながら3人は長布に包まった。


 開き警備員達が入ってくる。


「おい! お前ら何やってんだ!」


 見つかった……あっという間に警備員に囲まれた。


「なぜだ! なんで俺達のスキルが使えなくなってるんだよ!?」


「あいつだ、あの紫コートが何かして行きやがったんだ!」


 話す間もなく、警備員達に抑えられ3人は通報された。



 魂との対話を使い、バースデイは3人それぞれの魂に問いかけスキルを使えなくさせていた。





 素性の知れない男バースデイ。


 彼の紹介するギルドに間違いはない。

 但し人の心は変化する。


 彼がなぜギルド斡旋をしているのか、過去に何をしていたのかを知るものはいない。


 それでも得体の知れない彼を求めて貧困街の奥地まで足を踏み入れる者は尽きない。


最後までお読みいただきありがとうございました。


感想や気になった点などをご指摘いただけると今後の励みになりますのでぜひよろしくお願いします。


加えてブクマや評価も頂ければありがたいです。


他作品も含め今後もお読みいただければ幸いです。

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