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≪無能≫のトラ転王子

≪無能≫扱いのトラ転王子は大往生を願う

作者: 晶良 香奈

元々連載予定でしたが背景を練り直しているうちにサラッと短編になりました。

最初は三人称ですが、大部分が一人称です。

設定がゆるゆるです。お気にならなければ一読を。

 その王子は「無能」「出来損ない」と呼ばれていた。

 4歳になるというのに体はまるで2歳児、一向にしゃべろうとしない、何より魔力回路が確認できない。

 ここは魔力のある国、魔法によって成り立つ国。そこで魔力回路がつながらないのは致命的だ。

 誰もがこの王子を蔑み笑い、小突き回した。


 今日もまた、離宮の庭の隅で。

「あははっ、出来損ない。お前なんかゴミだよっ」

「王族の一員なんて、なんて馬鹿なことなのかしらぁ?」

「さっさと死ねよ、オラァッ!」


 ドカッ  ゲシッ  ドゴンッ


「「「あっ」」」

 誰がやったか、蹴り上げられた拍子にそばの庭石に小さな体が叩きつけられた。

 そのまま、動かない。


「死んじゃったか・・・?」

「ま、まさかぁ・・・」

「「「・・・逃げろぉっ!」」」

 脱兎のごとく、走り去った子供たち。静寂が庭を包む。


 その時。

「・・・痛かった、でしゅ・・・」

 むくりと起き上がった小さな影。しきりと頭を撫でている。

「どうしてかな? 打ってないのに、あたま痛い・・・」


 そう、さっきから頭の片隅がジンジンしているのだ。彼らの暴言や乱暴に対処できなかったのも、そのせいで。

「いたい、でしゅ・・・」

 殴られたところより、打ち付けた場所より、その頭の痛みはひどく、そしてどんどん強くなる。


「くう・・・っ」

 頭を抱えてうずくまった。そこへ、

「ユリウスさまぁっ!」

 聞き覚えのある声にハッと顔を上げる。


「ここにいらしたんですね・・・って! どうしたんですかぁっ、その恰好は!」

 母についてくれているミリィだった。

 走り寄って汚れた服をはたく。


「ま~た、あの悪ガキ・・・こほん、上の王子王女様がちょっかいかけてたんですねっ。痛かったでしょう。すぐに治しますからね・・・『天の癒し』」

「力ある言葉」によって発動する魔法が、はらはらと体にかかる。蹴られた痛みも、打った衝撃も消える。

 頭の痛みだけは、何故か、痛みよりも熱を持ってきた・・・?


「ミリィ、あたま、痛い」

「あら、こぶでもできました? ミリィがとってあげますね、はい、痛いの痛いのとんでけ~」

「違う・・・でも、ありがと」

「どういたしまして。さ、お方さまのところに戻りましょうね」

 どこかずれた会話をしながらミリィが抱き上げた、時。


    ギョエエエ・・・


 (おぞ)ましい声が遠くから響いてきた。

「あれはっ! ユリウスさま、急ぎますよっ!」

「う、うん」


 離宮のあちこちでひとが騒ぎ出したのはそのすぐ後だった。



 ※  ※  ※  ※  ※  



「お方様っ・・・こちらへ、お急ぎください!」

「あと、少しの、辛抱でございますっ。どうか、お急ぎを!」


 小声で先導するミリィ。後ろからあえぐように急がせる、もう一人の侍女フラウ。どちらも息を切らせ、それでも大声を上げないように気遣っているのが分かる。けれど、頭の隅に残る痛みが気になって他に注意を向けられない。

 ここは・・・どこだろう? 自分はいま、何をしている・・・?


 見回せば小さな手。生成りの服をまとい、同じ素材のものを着た腕に抱かれている。柔らく、でもしっかりと支えられていることから、自分はかばわれていることを知る。

 でもなぜ? 一体何から? そう思ううちにも頭の痛みは広がって。


   ギョエエェェッッ~~


「これはっ! お方様、こちらへ!」


 先導するミリィの声に恐怖が混じり、進む方向が変えられた。脇道の途中にある小部屋に導かれ、みんなで息をひそめるようにうずくまる。フラウからは焦りと恐れが感じられ、それでもアドレナリンが生み出す危機察知能力でこの事態を乗り切ろうとしているようだ。


 まて、何を考えた? アドレナリン、だと・・・?

 聞いたことのない名称だが・・・


 いや、知っている。人体の防衛機構のひとつ、だ。生命の危機に対して細胞レベルで活性化し、瞬発力や反射を上げる、原始的ともいえる方法。

 だが、ここでは知っている者が、いないはずだ。


 ここ? とは、どこだ? そもそも・・・


  オ レ は だ れ な ん だ  ?


 訳の分からない混乱がさらに拍車をかけてくる。


 オレは・・・オレの、名は。


 そこまで考えた時点で、思考が途絶えた。いや、正しくは記憶に飲み込まれた。

 頭に残った痛みが広がり、その隙間から見える記憶の海へ、文字通り真っ逆さまに投げ落とされてしまった。


 四方八方から押し寄せ、叩き、振り回してくる記憶の渦の中、伸ばした手に触れたものがあった。

 それを抱え込み、背を丸めてうずくまる。

 手にあるのは、二つの名前。

 甲斐凪隼人かいなぎ はやととユリウス・シャスラン。

 どちらも、自分を指していると直感的にわかった。


 名前を意識したことで記憶の渦が二つに分かれ、それぞれに向かって収束していった。


 甲斐凪隼人・・・これは自分の前世だった。

 地球の日本で生まれ、育ち、学んだ高校生。お約束のトラック死亡による異世界転生となったようだ。


 ユリウス・シャスラン・・・こちらが転生先の自分だ。

 アケンドラ王国の第三側室ミケイラ妃の子。現在4年目の生を受けているはずだが、体格から見ても2歳前後にしか見えない。前世なら『知恵遅れ』『発達障害』と言われる状態だ。


 だが、ここ・・・魔法があり魔力が存在しているこの世界では、成長速度に大きな違いが生じる。

 魔力を多く持つ者の成長は遅く、その分寿命は長くなる。王族や貴族は魔力が高いものとの婚姻を繰り返し、総じて寿命も長く保たれる。当然、一夫多妻もしくは一妻多夫が推奨される。


 まあ、その中でもオレはちょっと異端児のようだ。というのは、魔力の体内回路が確認できなかったため『無能』と言われていた、らしい。母親は相当の魔力持ちだというので側室にしたのに、子供はダメダメだと正妃やほかの側室たち、王の側近連中からも散々に罵倒されていた。

 さっきも上の王子王女たちに小突かれて・・・。


(そうか。ミリィにかけてもらった癒しが頭にあった回路も直してくれたんだ)

 あの痛みは治る前のサインだったかもしれない。『癒し』の魔法で速度があがり、回路がつながったんだろう。あれほど痛かった頭は今すっきりと澄み渡り、思考どころか視力までよくなったかのような錯覚を覚えていた。


(それにしてもなぁ・・・ここの人たち大丈夫か?)

 何故回路がおかしいのか、確認できないのか考えなかったんだろうか。


 前世を思い出した今なら分かる。魔力回路は精神に準じ、イメージが基本となる。記憶回路が不完全なら、魔力回路だって通じるはずがない。前世の記憶を取り戻したオレには、遊びつくしたゲーム感覚がある。イメージばっち来い!


「お方様、もう大丈夫のようですわ。行きましょう」

 あれこれ考えているうちに当面の危機は去ったようだ。そっと扉を開けて、侍女たちが移動を開始する。


 オレは母さまに抱かれたまま、周りを見る。

(ここは確か王国の西にある避暑地のひとつだったよな。確か、魔獣の目撃証言があったからここへ来たはずだ)

 王族の義務は国民の生活と命を守ること。それを脅かす存在は排除しなくてはならない。父王カイラス・シャスランはその誓いどおり、一同を引き連れてやってきたのだ。

(今日の朝早く、ここに着いたんだっけ)


 それから朝食をとって、魔獣の居場所を確定しようとしたら。

(そいつらが逆に襲ってきた、んだよな、これはどう見ても)

 母のミケイラ妃は疎まれていたから、別棟にいた。で、父さまのもとへ逃げ込む最中に、記憶回路がつながった。で、イマココな訳だ。

(冗談じゃない。また死んでたまるかってんだ)


 母さまに抱かれながら、オレは魔力を探る。回路の修復が成った時点で、イメージができるはずだ。まずは魔力を感知することから。でも、今の母さまたちを驚かせないようにしないと。

(今まで助けてくれた人たちだもんな。どうするか)


 魔法にもアクティブとパッシブがあるはずだ。パッシブモードならそう問題なくできるだろう。

 自分という自我を消し、周りの環境に溶け込ませる。まずは母さまの呼吸を息遣いを感じる。その次に侍女たちのそれを。そうやって周りに浸透させていくと、移動していく先に大きな反応があった。


(これは多分父さまたち、だな。ひときわ大きいのが父さま、その前にあるやや小さいふたつが、ギル兄さまとアルテ姉さまかな)

 ギルバード・シャスランは第一王子で王太子、アルティシア・シャスランは第二王女だ。どちらも子供の中では一番の魔力を誇っている。そのはずだが。

(あるぇ? 今のオレにはそんな風に感じられないぞ? どうしてだ?)


 父さまの輝きは確かにすごい。明るくて大きくて、まるで真夏の太陽のように見える。それに比べて、ふたりは…

(北極星、までいかないな。せいぜい2等星、それもガスバーナーではなく焚火の明かりだ。もう少し練度をあげないと魔法が収束しないんじゃ)

 そして、父さまの後ろに、たくさんのきらめきがある。


(3等星から5等星あたり。他の側室や子供たちってところだな。ええと、確か等星の差は2,5倍ずつ違ったんだっけ。1等星から6等星では100倍になるって、理科の知識だよな。なら、兄さまと他の子どもたちでは15倍以上の差がある訳だ。父さまとは比べようがないけど)


 その時、意識の端に大きな塊が入り込んできた。高速で動いているらしく、まっすぐに父さまの方へ向かっていく。

(これが魔獣かな。魔力の塊だからわかりやすい。それにしてもおっきいな)

 その塊に向かって、父さま(ほぼ確定)からまっすぐに魔力が打ち出される。

(へえ、まるでレーザービームのようだな。それも大口径の)

 その先端が魔力の塊に当たって、貫く。魔力がそのレーザービームに開けられた穴から外に漏れ出て行って、消える。後に残った小さな塊が下へ落ちていった。


(なるほど。魔力が生命を維持しているから、それが抜けて死ぬ。後の塊は魔石、かな)

 そう考えると納得できた。

(それにしても父さまはすごいな。あんな大きな塊にあてて貫通させるなんて、やっぱり強いんだ)

 感心しているうちに、その父さまのところへ合流できたようだ。


「お方様、こちらです」

 到着したことに気づいて、護衛の騎士たちが誘導してくれる。父さまの後ろ、広場の隅に固まって座り、やっと安堵の吐息が漏れた。


「ふん、役立たずがいたとはね。忘れていたわ」

「あれらも一応は側室ですから、来ていたはずですけど」

「気が付きませんでしたわ。それくらいでいいのでは」

 あはは、オホホと嫌味な笑い声が響く。おい、お気楽すぎるぞ、あんたたち。


「お前たち、力が無いなりに自衛せよ。今回の魔獣は数が多い故にな」

 父さまから言われて顔が一変。あ、悲壮な顔色になってる奴がいる。

 あいつ、さっきオレを蹴っ飛ばした奴じゃないか。


(ん? この気配・・・後ろかっ!)

 とっさに広げていた自分の気配をぎゅっと凝縮して板状にし、自分と母、侍女を囲むように半円状にめぐらす。一瞬ののちに、吐き出された炎がそこに当たって跳ね返された。


「うおっ!?」「なに!?」「どこだっ!?}「あつつつっ!」

「お、お方様っ!」


 たちまち辺りには怒号と悲鳴が飛び交い、やけどを負った騎士を後ろに下げる者、剣を抜いて対応する者、魔法を展開する者とが右往左往して大混乱に陥った。


「い、今のバリアを張ったのはあなたたちなの?」

 母が自分を抱きしめながら侍女たちに尋ねるが。

「いいえっ、お方様ではないのですか?」

「わ、私たちはてっきりそうだとっ」

「ワタクシには無理だわ。出来ても受け止めるのがやっとよ。跳ね返すなんて」

 そう言いつつ、オレの顔を見てハッとする。

「え、まさか、ユリウス、なの?」

 気付いてくれてうれしかったが、今はそれどころじゃない。肝心の魔獣がそこにいるんだから、気を抜くわけにはいかないよな。


 その魔獣、炎を防がれたことに(いた)くお怒りのようだ。鼻息がものすごい。

 さっき父さまが倒した魔獣は空を飛んでいたけど、こいつは地を走る奴のようだ。だからみんな気が付かなかったんだろう。ちらりと見ると、笑っていた奴ら、顔を真っ青にして固まっている。


「退きなさいっ、私がやるわっ!」

 いきなり割って入ってきたのは・・・ああ、アルテ姉さまか。

 確か姉さまの得意なのは氷の槍・・・アイススピアとでもいうのかな。

 かなり精度は高いはず、だけど。


(さっきの魔力の反応から見て、大丈夫かなぁ?)

「行けっ、≪氷原の牙≫!!」

(う~わ~、中二病満点の命名だ~)

 内心脱力しているオレをよそに、複数の尖った氷柱が発動して魔獣に迫る。それをあの魔獣ときたら、腕を一振りして氷柱を粉々にしてしまった。


「なっ! 私の牙が!!」

(そうだよな~。あの練度じゃ硬さが足りないよ)


「アルティシア、もっと集中せねば貫けぬぞ。このようにな」

 声と共に一筋の光が走り、魔獣を貫いた。


 ギュオオォォッッ・・・・・・


 苦し気な声を上げ、魔獣が倒れる。やはり魔力が霧散していくのが感じられる。ふと思いついて、広げていた自分の意識を一部フックのようにして魔力を引っ張ってみる。


(おおお~、できるもんだな、これ!・・・って!)

 接触したところから、魔獣の魔力が自分の方へ流れ込んでくる!

(ん? 苦しくもないし、変化もない? どうなってるんだ、これ)

 ただ、満腹感が残った。軽くげっぷが出そうだ。

(え? え? これって、オレ、食事なの? 魔獣の魔力で食事って、なんか寂しくねぇ?)


 自分自身に思いっきり引いていると、ぎゅっと抱きしめられる。

 驚いて上を向いたら、母が瞳を潤ませている。

(え、やべっ。オレ母さまを泣かせたの!?)


 変なことやってしまったかとワタワタしていたら。

「ユリウス。貴方、≪魔力喰らい≫の能力を得たのね」

(なんだそれ。≪魔力喰らい≫? これも中二クサい)


「貴方の高祖母がその能力を持っていたわ。魔獣の魔力を自分の糧として成長していく力。貴方、すごい力を持っていたのね。うれしいわっ!」

「おめでとうございますお方様っ!」

「ううっ! 今までの努力が報われましたぁっ!」

(あ、ああ、なるほど。これも能力のひとつなんだ。よかった~)


 安心した途端、残っていた意識に次の魔獣が現れる。今度は正面、飛ぶ魔獣のようだ。

「ギルバード、今度はお前だ。あれを打ち落として見せよ」

「は! わかりました!」


 正面を向き、集中するギルバード。魔獣はどんどん近づいてくる。

(ん~、この練度ならたぶんイケるかな? ギル兄さまだし)

「よぉしっ! いくぞっ! ≪紅蓮の剣≫!」

(あ、やっぱりこの流れなんだ・・・中二病かぁ、この世界は)


 思っていた通りの魔法名に脱力再び。発動した魔力は燃える剣となって魔獣に突き進み、脳天をかち割った。


 グゲゲゲェェェ・・・・


(今度は引っ張れるかな? うん、大丈夫イケる、ってまたこれかよ!)

 魔力が再び流れ込み、再度の満腹感。

(あるぇ? でも、すぐに治まるんだな、これ。どれだけ入るんだろ?)


「やりました、父上!」

「うむ、よくやった。なかなかの力だ。アルティシアももう少し集中すれば行けたであろう。気を落とさずに訓練を続けるがよい」

「「はい!」」


「油断するな、次が来る。ギルバードは正面右、アルティシアは正面左を。見事退治して見せよ」

「「わかりました!」」


(オレの意識でもそうだな。っと、真後ろからまた来たな!)

「後ろにもおるぞ。退治せよ」

 ふと見上げると、父さまがオレの方を見ている。これ、オレに言ったのかな?

 期待されたなら答えないと。

(さて、どうする?)


 まだ攻撃をしたことはない。出来たことを考えて・・・

(あ! ならばこうすればいい、かな)

 意識のフックを魔獣の口に向ける。炎を吐き出そうとして開けた口から中へ、魔力を求めて打ち込んだ。

(おしっ、うまくいったっ! ・・・ぐはっ、生きてるやつは”濃い”な~)


 流れ込んできた魔力の濃度が、今までになく高かった。そして、魔力を引っこ抜かれた魔獣はというと。

(お~お、空気の抜けた風船だね、こりゃ。それで消えるのか)

 巨体が見る見るうちにしぼみ、核を残して消えていった。だが、その魔石の輝きが強い。

(倒し方で魔石も違うのかな)


 考えている間に、正面の方も片が付いた。今度はアルテ姉さまの集中もうまくいったようだ。

 これですべての魔獣が居なくなった。辺りに広げていた意識を自分の中に収める。


「よし、討伐を終了する。騎士は周辺を捜索、異常があれば報告せよ。我らは中へ行こうぞ」

「「「「はっ!」」」」


「ギルバード、アルティシア、それとそこの者たち。確かミケイラであったな。ついて参れ」

 父さまが立ち、それにつれて捜索する騎士と護衛の騎士に分かれて動き出した。

 あ、さっき青くなってた奴ら、今度は睨んでる。いい加減にしろよ、お前ら。



 ※  ※  ※  ※  ※  



 今、オレは緊張している。何故って、目の前にいるのは父さまだぜ? あの凄い攻撃を繰り出した本人の正面に座るなんて、思いもよらなかった。まあ母さまの膝の上ではあるんだが。

 ここには父さまのほかに、ギル兄さまとアルテ姉さまが居る。邪魔された食後の一服、その続きをしている感じだ。


 香りのよい茶が鼻をくすぐる。でもここでは静かにしていよう。母さまの評価に関わるからな。オレは膝に乗ったまま、周りを観察していた。


「ギルバード、アルティシア。今回の討伐、見事であった。日頃の訓練の成果がよく表れていたな」

「ありがとうございます父上!」

「お父様に褒められるなんて。うれしいですわ」

「これからも良く励み、わが国の治安に貢献してくれることを願う。よいな」

「「はい!!」」

「褒美はそちたちの望むものを与えよう。考えておけ。それと」

 そう言うと、父さまはオレたち、いや、オレの方を向いた。


「その子は・・・ユリウス、であったな」

 いよいよ、か。

「はい、陛下。第八王子のユリウスでございます」

 母さまが代わりに答えてくれた。


「今までは何も能力がなかったと聞いているが」

「恐れながら陛下、ユリウスにはどうやら≪魔力喰らい≫が出たようでございます」

「何、≪魔力喰らい≫だと?」


「ワタクシの高祖母に当たるシリル・ノードスがこの能力を持っておりました。魔獣の持つ魔力を自分のものとすることで成長していくのでございます」

「なるほど。あまり聞かぬ能力だな」

「はい。現れることが稀少であるため検証しにくいのが難点でございます。高祖母も相当苦労しておりました」


「ふむ。? 待て。高祖母、となると、そなたとは年代が違うのではないか?」

「お気づきになられましたか。高祖母はワタクシがここに参る1年前まで存命しておりました」

「なんと・・・」

「なんでも魔力を身に溜めることで生命力が伸びるのだとか。詳しいことは分かりませんが、お抱えの魔法技士がそのようなことを言っていたのを覚えています」


「そうか。それはまた得難い能力のようだな。だが、ユリウスにはそれとは違う能力があるように思うが」

「え? あ、そう言えばあのバリア・・・」


「そうだ。炎を跳ね返すくらいのバリアを張れるのは稀ぞ。その前に、あ奴の接近を察しておったようだしの。いろいろ器用ではあるな」

「父上、よろしいですか」

 ギル兄さまが父さまに尋ねる。


「お言葉だとユリウスがやったことはかなり多いようですが、本当ですか?」

「お父様の仰ること、私もよくわかりませんわ」

 アルテ姉さまも納得いかない顔をしている。うん、当然だな。

 自分でもびっくりしているんだから。


「フフ、わからぬかもしれぬな、これは。個人の魔力を感じ取れねば無理であろう」

「個人の魔力を感じる、とは。訓練の時に行う操作とは違うのですか?」

「そうよの。魔力を感じるのは同じだが、それが誰のものか、どのように動いているか、そこまでわからぬと難しいだろうな」


「お父様は読み取ることができるのですね。私にもできるのでしょうかっ?」

 アルティシアが目を輝かせて父さまを見つめる。

「うむ。訓練次第だが、できるであろう」

「! 私、頑張りますわっ!」

 アルテ姉さま、両手を握って気合を入れている。可愛い、と言ったら不敬かな?


「では父上、ユリウスの能力はどのようなものだと?」

 ギル兄さまはオレを見て、父さまに再度尋ねる。

「うむ。周りの気配を察知できる力、向けられた魔法を跳ね返す力、先ほど見せた≪魔力喰らい≫、であるかな。だが、これだけとは思えぬような?」

「なっ! それだけでも凄いと思うのですが!」

「≪魔力喰らい≫がどのような能力かわからぬ以上、今は確定できぬ、な」

 周りの人の目が一斉にオレに集まる。うは~、居心地悪い。


 これは早々にはっきりしておかないとマズい、な。

 オレは抱いてくれている母さまの手をそっと押しのけた。


「? ユリウス? どうしたの」

 母さまの声を置き去りに、オレは自分の足で立って父さまの前まで行き、見様見真似で跪いた。


「ふむ。何用だ、ユリウス」

「は、はちゅげんを、お許しください」

 うわぁ、舌かんだ! ま、ドンマイでいくか!


「うむ、許す。申せ」

「わたくしの能力は、自分でもよくわかりましぇん。でも、わたくしは父さまのことを、尊敬しておりましゅ。父さまの御代に貢献できるよう、末席から力の限り、父さまにお仕えすることを誓いましゅ」


「ああ、ユリウス・・・!」

 感極まった涙声で母さまがつぶやいている。

「ほう、よくぞ申した。ユリウス、この国の治安に貢献せよ。よいか」

「は、はい。お言葉ありがとうごじゃいました」


 もう一度深く一礼して、今度は向きを変え。

「ギル兄さま、アルテ姉さま、よろしくお願いしましゅ」

 く~っ、最後までかんじまったぜ……。


「お、おう。一緒に頑張ろう」

「まあっ、なんて可愛いんですのっ。お姉さまなんて」

 うん、これで大丈夫かな。いや、最後にとどめを。

 顔をあげて、二人ににっこりと笑顔を作る。どやぁっ。


「! か、かわいい・・・!」

「はあぁぁっ・・・癒されますわぁ」

 子供の笑顔に勝る武器はないのだ! ふん、完全勝利だぁっ!

 そうやってとことこと母さまのところに戻る。膝に抱き着き、ほっと息をつく。


 いや~、疲れたわ、ホント。中学の時に、全校生徒の前で論文発表した時くらいに緊張しちまった。もう一度母さまの膝に抱きかかえられて、焼き菓子をもらう。やれやれ、もう気を抜いてもいいかな。


「それにしても、このごろ魔獣の出現が多くないですか?」

 ギル兄さまが茶を口にしながらそんなことを言っている。

「カーン山脈の麓付近での目撃情報が多いですわね」

 アルテ姉さまも眉をしかめている。


 カーン山脈というのは、ああ、ここの西に連なる山々だったっけ。結構高い山ばかりで、麓には樹海が広がってるって言ってたような。


 樹海、か。前の人生で聞いていた富士山の麓みたいなもんかな。だとすると。

 ひょっとすると、氷穴か鍾乳洞がありそうだよな。

 でもって、そのうちのどれかが山脈の向こうに続いていたりして。


 そこまで考えて、背筋に冷気が走った。いや待て、オレ。

 今、何を考えていた?

 氷穴か鍾乳洞、はいいよな。当たり前だ。そのあとは。

 ・・・山脈の向こうに、続いている、だと?

 再び、背筋が寒くなる。これは、予感、か。


 オレは焼き菓子を手に持ったまま、顔を上げる。正面には父さまの顔。

 俺と父さまの視線が絡んだ。そして父さまのやや黒い笑顔も。

「ユリウスもそう思うか。やはりそこが問題よの」


 父さま、貴方は読心術もお持ちですか?



 ※  ※  ※  ※  ※  



 結果を言えば、当たりだった。騎士団を派遣して目撃情報の多い樹海付近を徹底して探らせたら、氷穴のひとつが山を貫いて反対側へ続いていることが分かった。

 向こう側は王権を巡って揉めており、軍事的な研究が盛んにおこなわれていた。今回は氷穴に一番近い地域を占めていた派閥が、この穴を利用して魔獣を送り込んできた、らしい。確定できないのは、騎士団が向こうに着いた時、その国の中枢が麻痺していたから。


 何の冗談かと思うだろ? 突き詰めてみれば、魔獣が原因だったそうだ。


 要するに、魔獣を操る技術を見つけ、その実験もかねて山のこちらへ送り込んでいたのだけれど、技術そのものが未完成だったようで、暴走したんだそうだ。

 結果、箍の外れた魔獣があちこちで暴れて王族や他の主だった貴族が軒並みやられ、国としての機能を果たさなくなったんだと。


 魔獣を操る研究をしていた派閥だけでなく、周りじゅうに被害を及ぼして大混乱に陥っていた真っ最中にうちの騎士団が着いたみたいで、魔獣をしとめたり復興に力を貸したりで大活躍したんだが、これはまた別の話。


 とにかくそのことで向こう側の住民に途轍もない貸しを作ることができた我が国は、すンごく有利な条件で通商契約を交わすことができた。で、その国は今、住民たちの代表が合議制で動かしている。もう王侯貴族に任せておけないんだとさ。

 発端となった氷穴はきちんと整備され、山脈の向こうとこちらを結ぶ重要な街道となっている。


 この道を見つけるに至った遠因がオレだという事で、父さまから褒められたんだが・・・どうもそのせいで敵視する奴があちこちにいるようだ。

 オレを守ってくれていた母さまや侍女たちを、今度はオレが守らねば。


 一度若くして死んだんだから、今度こそは人生を全うして大往生する!

 そのために、頑張って訓練すっぞ!!






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― 新着の感想 ―
できましたら続きを読みたいです。どう成長し、どう話が流れて行くのか、続きがどうなるのかを思うとわくわくします。
[一言] 気が向いたらでかまいませんので、続きをおねがい申し上げます。
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