第16話 対決の行方
思い出す。
思い出す、思い出す、思い出す。
この施設で受けた数々の暴力や暴言。
気が狂うような、毎日の『教育』。
この施設に来る前の、自分。
そして――――――
「に、へへ…………アタシの魔法が解けて、思い出した? 『11番』くん?」
チェルミーナは、哀れそうに言った。
「ここに居た時より、もっと可哀想な自分の記憶をさぁ! あ、ははははははは!」
「な、あぐ……ぼ、僕は……そん、な……」
今見た記憶は、紛れもなく真実だ。
ミコルは思わずチェルミーナから離れて、よろよろと後ろへ下がった。
「ミコル? 大丈夫か? ミコル!」
いつの間にか立ち上がっていた雨目に抱き止められて、肩を揺すられる。
「ねえ思い出したでしょ! 『11番』くぅん! アタシは、キミみたいな可哀想で行き場の無い子供達を拾って! 思い出したくもない過去を消してあげて! 生き延びられる『武器』を与えてあげたんだ! 感謝してよ! ねえ! よくやったって、褒めてよ! ……ねえ!」
雨目がミコルに気を取られている間に、チェルミーナが足を引き摺りながら立ち上がり、いつの間にか後ろ手にスマートフォンを握っていた。
「アタシは、諦めない! 世界中の子供達を、助けるんだっ!」
そして、何か表示されている画面をタップした。
――――ビーッ! ビーッ! と。
施設内に設置されたスピーカーから、大音量の警告音が流れ始める。
「チェルミーナ……何をした」
「…………当然、こうなった時の手段だって考えてたよ。交渉するための、切り札ってやつだね」
「前置きはいい。この警告音は、何だ?」
「施設全体の焼却装置だよ」
「なっ……?」
「書類もPCもデータもぜーんぶ、燃やしちゃうためのね。焼却まで、あと10分も無い。解除のパスワードはアタシだけが知ってる。魔法を使ってないから、ソラちゃんでも[調]べられない。さあ、条件は分かった? 交渉タイムだよ」
「交渉……だと」
「うん。このまま捕まってもどーせ死刑だし。後が無いんだよ。この手錠を解いてアタシを見逃すなら、施設の焼却は止めてあげる。そうじゃなかったら、ここで一緒に死ぬ……さあ、今すぐ選んで?」
「う、くっ……」
「ほら、選択の余地ないでしょ!」
チェルミーナが、スマホをぷらぷらと振った。
「ソラちゃん……アタシには、使命があるんだよ。こんなところで死ねないよ。他の都市でもさ…………子供達を、助けなきゃ」
「っ! そんなの、駄目だ!」
ミコルの言葉に、チェルミーナがかくん、と頭を横に傾けた。
「え? 何で? キミがそんなこと言うの? 思い出したんでしょ? アタシのおかげで、マシな人生になったのにさぁ?」
「思い出したよ……賭けのことも、思い出した! 僕の勝ちだ! それなのに、まだこんなこと続けるの!?」
「甘いなあ……勝負はまだついてないんだよ? アタシは手錠を掛けられて、魔法を停止されただけで、まだ逮捕されてない」
「っく……それでも! それでも……あなたのやり方は、間違ってる。もう良いじゃないか! 本当に僕たちみたいな子供を助けたいなら、暴力とか威圧とかじゃなくて、他に方法があるはずだろ!」
「ないよ? キミには前にも言ったけどね?」
チェルミーナは、嘲笑するように言った。
「これしか無いんだよ? というか何で……キミたちは、感謝してくれないの? アタシの凄さが、分かんないの? どれだけ危険を冒して、人生を捧げて、みんなを救って育ててると思ってるの? ねえどうして? どうし――――――」
そして半ば取り乱し、ミコルに詰め寄ろうとしたとき、
ダァァン! と。
1発の銃声が、聞こえた。
「――――へ?」
ミコルでも、雨目でもない。
チェルミーナの腹から、じわりと血が滲んだ。
銃声は、牢へ続く扉の方から聞こえた。
全員の視線が、そちらを向く。
そこには、
4人の子供が、憎しみのこもった表情でチェルミーナを見ていた。
「は、はは、にへ……」
奴隷として育てられていた子供だ。
記憶の戻ったミコルには、分かる。
特に厳しく戦闘系の『教育』を受けていた4人だ。
その中の1人が、銃口から白煙を上げる拳銃を握っていた。
腹を撃たれたチェルミーナはスマホを取り落とし、膝をついた。
唖然としたような顔で、自分を睨みつける子供達を見つめ返す。
「ねえ……なんで? 何で……そんな目で、見るの? ねえ……」
ぶつぶつと呟きながら、チェルミーナは腹から血を流し続ける。
そして床に頭をこすりつける様に倒れて、
「誰も、褒めてくれない……何で? アタシ……がんばったよ? なん――――――」
チェルミーナは、動かなくなった。
「………………」
「………………チェル」
思わず、チェルミーナから取り上げた魔法カタログを握る手に、力が入る。
どたどたと、廊下の奥から足音が近づいてきた。
「あ! おいお前ら! こんな所に居たか! 出口は逆だぞ! ……っておい、銃なんか持って何やってん――――」
逆走をした子供達を追ってきたナイトウが部屋に入り、チェルミーナの姿を見て立ち止まった。
「チェルミーナ…………?」
そしてピクリとも動かない身体と、腹から流れる血を見て、残念そうに息を吐いた。
「そうか……こうなっちまったか」
ナイトウは静かに、かつての部下に向けて手を合わせた。
「…………すまねえ。こいつらが逆走したのにもう少し早く気づいてりゃ」
「いや。私の力量不足だよ。こちらこそすまない」
皆が視線を落として、沈黙が流れるが、
――――ビーッ! ビーッ! とけたたましい音に、ナイトウが顔を上げた。
「っと……しんみりするのは後だな。この警告音って、たぶんやべえやつだろ?」
「ああ。急いで脱出しよう。あと5分くらいでこの施設は丸焼きになる」
「はあっ!? 何だそれ」
「……後で、骨は拾いに来るからな」
「チェル、さん」
「急げ! お前たちも走るんだ!」
「……さようなら」
そうして雨目達はチェルミーナを残して、部屋を後にした。




