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第15話 最終対決

「ソラちゃんには、()()()()()()()()()()()()のになぁ」



「っ! ソラさんっ!?」


「なっ……あ、が……」


 雨目は苦しそうに喘ぎ、拳銃を握った右腕を震わせ始めた。


 さっきのナイトウのように、強烈な自殺願望の記憶を擦り込まれているのだ。


「もう知ってると思うけど、ワタシの魔法はね、()()()()()()()()()の『記録』や『記憶』を消したり、書き換えたりするんだ…………気づかなかったかもしれないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」


 チェルミーナは寂しそうに笑いながら、遮蔽物から出てきた。


「っ!」


 ミコルが銃口を向けるが、


「ごめんね?」


 先読みされていた。


「あぐっ」




 焼けるような痛みが、右胸に走った。




 ヒュッ。と。胸から空気が漏れる音がする。


 肺だ。


 右の肺を、撃たれた。


「…………がっ」


 気道から血が逆流して、吐血する。


「ミコ……ルっ!」


「さっきはどーゆーワケか、先輩自殺させるの失敗しちゃったからね…………何か気持ち悪いから、ソラちゃんは直接殺すよ?」


 まずい。


 チェルミーナは、確実に雨目を仕留められる距離まで近づこうとしている。


 ミコルは、何とか動こうとするが、


(あ、う……力が、入ら……ない)


 瀕死の身体は、言うことを聞かない。


 そうこうしているうちに、チェルミーナが雨目まで2mの距離にまで接近した。


 雨目は必死に腕を押さえつけながら、何故か口をモゴモゴと動かしている。


 今必死に、チェルミーナの精神操作と戦っているのだろうか。


 しかしあんな状態では、自殺までの時間は稼げても、チェルミーナから直接撃たれてしまう。


 ……打つ手が無い。


 ミコルは諦めて、脱力した。


 しかし、


「んぐぁっ!」




 雨目が()()()()()()()()()()()()()()()




「んぁ()()()!」


 そう叫んだ雨目は涙を浮かべて顔を歪めるが、対照的に動きが軽くなった。


「うぇっ!? 何でっ!?」


 意表を突かれたチェルミーナに、雨目が発砲する。


 チェルミーナも慌てて撃ち返した。


「っ!」


「あっ!」


 雨目の弾丸はチェルミーナの右手に当たり、またしても拳銃を取り落とさせた。


 しかしチェルミーナの弾丸は雨目の左腿に当たって、雨目の機動力を奪った。

 

 バランスを崩しながら放った雨目の次弾は当たらず、驚異的な脚力で前進したチェルミーナの蹴りによって、拳銃を弾き飛ばされる。


 これで2人とも、武器を失ってしまった。


 チェルミーナがすぐに体を回転させて蹴りを放ち、雨目はそれを腕で受け流す。


「なによ、それっ! 何か食べて、アタシが与えた『自殺願望』をすぐ忘れたってこと!?」


 凄まじい素手での格闘が、始まった。


 利き手を負傷したチェルミーナは蹴り中心で、脚を負傷した雨目は拳中心の攻防である。


 殴ったり蹴られたり。実力は均衡しているが、機動力の確保ができているチェルミーナの方がやや押していた。


(早く、僕も加勢しないとっ……)


「ふふん……今から手首を切ろうとしている自殺志願者の口一杯に唐辛子を放り込んだらどうなる? 彼は()()()()()()()()()()て、とりあえず口の中の(から)さを鎮めようとするだろう。それと、同じだっ!」


「メチャクチャな理論じゃん! ソラちゃんらしくないっ!」


「だろうな! ()()()()()()()で閃いた!」


(僕の……おかげ? でも、そんなアドバイスなんか…………いや、それよりも……)


 ミコルは、上手く息ができない中で、思考を巡らせた。


「あぐ、あ……」


 ミコルは、徐々に冷たくなっていく自分の身体を、拳で叩いた。


 できるはずだ。


 できる。


 一度はやれた。


 この身体には既に、カタログ魔法が宿っているのだ。


(戻れ……戻れっ……[戻]れぇっ!!)


 早く、この傷を治すのだ。


 雨目を救って、チェルミーナを逮捕するんだ。


 すると、


(……よしっ!)




 空気中の魔力粒子が光り、ミコルに集まり始めた。




 魔法が、機能したのだ。


 じりじりじりと、魔法によって破損した細胞が元へ[戻]り、空いた傷口が塞がっていく。


 次第に呼吸が楽になり、身体を動かせる力が湧いてくる。


 しかし、2人の方を見ると、


(まずい)


「っ、はっ! ああっ! これで、どうだっ!」


 チェルミーナが、雨目に馬乗りになっていた。


 左の拳を、何度も振り下ろしている。

 

 雨目は必死にガードしているが、このままでは不利なのは明らかだ。


(助け、なきゃ!)


 ミコルは立ち上がり、落としていた拳銃を拾った。


「あああああっ!」


 チェルミーナの左肩を狙って、引き金を引く。


 しかし、


「っ!?」


 異常な察知力でチェルミーナは横へ転がり、ミコルの弾を避けた。


「なんっで! 治ってんの!?」


 そして近くに倒れていた死体の拳銃をもぎ取り、撃ち返してきた。


 ミコルには、この距離で放たれた弾丸を避ける身体能力も勘もない。


 ブシュッ、と。




 心臓を、弾が貫通した。




 即死級の、致命傷だ。


 穿たれたミコルの小さな体は、後ろへ傾き、




「…………()使()




 ――――踏み止まった。




()()ぉぉっ!」




 左手に召喚していた魔法カタログが、強烈な光を放つ。



[戻] 2/3 ()使()/()() 操作(20) 吸収(40) 生成(40)



 ミコルの胸に空いた穴が、一瞬で塞がった。


「カタログ魔法っ!? いつの間に、そんなもの――――」


 ミコルの弾丸が、チェルミーナの頬を掠める。


「っ! こんなの聞いてな――――」


 チェルミーナは立ち上がろうとしたが、何かに引っかかったように地面に膝をついた。


「んに……逃がさ、ないぞ」


 這いつくばる雨目が、残った気力を振り絞ってチェルミーナの足首を掴んでいたのだ。


「こ、の」


 終始どこか余裕を隠していた顔が、一気に青ざめた。


「チェルミーナァ!」


 ミコルは、まだ酸素の足りない身体を引きずって前進する。


「来、る、なぁ!」


 チェルミーナは、何度も何度も何度も、ミコルを撃った。

 

 動揺して震える手の中から放たれた弾丸はしかし、ミコルの胸や腹や首に命中する。

 

(痛い、痛いっ!)


 その度にミコルは、何度も何度も何度も無傷に[戻]りながら、前進し続ける。


(痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!)


 何度も押し寄せてくる致命傷の痛みに、気が狂いそうだ。


(でも、死にはしない! 死なない!)


 そしてついに、


「――――なっ!?」


 カキン、と。


 チェルミーナの拳銃の弾が切れた。


 そしてミコルは、


「おおおおぉっ!」



 チェルミーナの襟を掴んで、その額に銃口を向けた。



 このまま引き金を引けば、45口径の弾丸がこの女性の頭蓋を割り、脳味噌をぐちゃぐちゃにすることができる。


 因縁の相手の命を、自らの手で終わらせることができる。


 その相手から鍛えられた、戦闘能力を使って。



「――――――にへ」



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 まるでプレゼントの包みを開く直前の、少女のように。


 そしてミコルは引き金を、


「だああああっ!」



 ()()()()()()



 銃口ではなく、銃のグリップ底部をチェルミーナに向ける。



 そして()()()()()()()()()()()()()()()()



 チェルミーナが雨目とミコルを騙すために、ナイトウに殴らせた所だ。


 ゴッ。と頭蓋に響く鈍い音がして、チェルミーナは白目を剥いてのけ反る。


「なぁ、ん、で……?」


 それでもミコルに反撃しようとして、立ち上がろうとした脚に1発。


「ぎゃっ!?」


 45口径の弾丸を、撃ち込んだ。


「っ……ミコル!」


 そして、雨目が投げて寄越した『魔封手錠』を掴む。


「僕はもう人殺しの奴隷じゃない! 探偵の、ソラさんの! 助手なんだ!」


 チェルミーナの後ろに回り、その両手首に手錠を嵌めた。


 手順は、この1週間で雨目から何度も学んだ。


「だからあなたを生かして、逮捕する!」


 そして、




 チェルミーナの手から、青い魔力粒子が放出された。




 手錠による、強制的な魔法カタログの排出だ。



[(しるし)] 13/22 極使/不可  操作(50) 吸収(20) 生成(30)



 自動的に開かれたページには、紛れもなく真犯人を示す『魔法単語』が刻まれていた。


 ミコルはそのカタログを、チェルミーナの手から奪った。


「『魔法停止』!」


 そして、宣言する。


「あ、ああ、う……アタシ、のカタログ魔法…………」


 これで、完全決着だ。


 誰かがもう一度このカタログに直接触れて『魔法停止』の解除を宣言しない限り、彼女は再び[記]の魔法を使うことはできない。




 終わった。




 ミコルと雨目の、勝ちだ。


 その瞬間。



「――――っ!?」



 ダムが決壊したかのように、失っていた記憶が押し寄せて来た。


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