表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

こんな男がいた。

 土砂降りの中を歩きたい。


  飛ばされるような、暴風の中を歩きたい。

 痛いほどの暑さの中を歩きたい。

 吹雪の中に身を置いてみたい。

 事件に遭遇したい。

 不謹慎かもしれないが、こんな願望を持っている男がいた。


 台風が来ても自分がいる場所を避けていく。

 5 分ごとに、スマホで、天候を確認しているが、自分の場所を逸れていく。

 斎藤(あらし)は晴れ男なのである。


 風間平和かざま へいわという友人は、正反対だ。暴風は好んで付いていく。

 平和が敷いたレールを辿るように、暴風はその友人に付いて行くのである。


 天候だけではない。幼い頃からの、その不運振りには年季が入っている。

 小学生の頃、両親の離婚、飛んできたボールに当たり、ジャングルジムから落下し大けがをする。年頃になり、彼女が出来ても、彼女の親の転勤で、それっきり。大人になっても、彼女を知り合いに取られたり、交通事故に遭ったり、結婚しても、嫁には逃げられ、散々な人生なのである。

 かと思うと、商店街の福引で、旅行が当たったり、落とし物で大金を拾い、お礼をもらったりと、幸運もある。ある意味、メリハリのある人生だ。


 自分は、平々凡々な人生を送り、家も持ち、ほどほどの大学に受かり、ほどほどの会社に勤め、何の不満もない人生なのである。


 本人はたまったもんではないだろうが、風間平和みたいな人生を送りたい。平凡な生活を望まない奴がいてもいいではないか。自分がそういう奴なのであるから仕方がない。


 いつも近くで、何か事件が起こらないか、竜巻でも発生しないか、常に、窓と空をチェックしている。すぐにスクープ写真が撮れるように、スマホも待機させているが、何にも起こらない。

 人でも倒れていたら、すぐ助けられるのに。AEDシュミレーションは欠かせないルーティンだ。


 今日は、その友人と旅行に行く約束をして駅で待っていたが、時間になっても来ない。

 痴漢を捕まえたとかで、遅くなったと。


 次の日、新聞に載り、英雄扱いだ。


 この友人といたら、何か起きるのではと思うが、自分の平穏、安定パワーが強いのか、何も起こらないのである。


 そんな今日も静か。のはずだった。


 旅先で、山奥にひっそりと佇む小さな祠を見つけた。大きな神社は観光客がこぞって参拝しているが、ここは人の姿がない。こういう古めかしいのがご利益ありそうだと、風間に促され参拝した。


 いつもなら、日々の報告と感謝をするのだが、この日は何故か、少しは乱暴なお願いも聞いてくれるだろうか。と思ってしまった。


「何か起きますように。」と。


 その時から、状況は一変した。


 帰りに財布は落とすわ、痴漢に間違えられるわ、コンビニに寄れば、いつもの弁当が売り切れるわ、神様が早速、願いを聞いてくれたようだった。


 その些細な不運は続いた。


 ある時、交通事故で両足を骨折、とうとう入院してしまうという目に遭った。


 退院後、あまりにも続く災難に、元の生活に戻してもらおうと、もう一度、その祠のある場所へ行ってみた。


 しかし、どこを探しても、祠は無く、道を間違えたかと、地元の人に尋ねてみるが、そんなものはなかったと話す。


 決定的なのは、一緒に行った風間が、そんなところは行っていないという。


 その都合のいい希望は叶えられない上に、とうとう、自分は頭がいかれたのかと、日々鬱々としていた。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=470305246&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ