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大和魄 奮戦記  作者: 創成児
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大和魄 奮戦記

 


 

           はじめに



 この小説に登場する人物、時代背景、年代、命令系統、兵器等々などは、あくまで作者による創成が主体であり、必ずしも、実在するモノではない事を御理解下さるよう御願い致します。



 作者は、あまり資料や、史料を観ずに90%ぐらいの割合で記憶を頼りに作品を手掛けております。



 よって、大小不適切な言語も時折出てくるかと思いますが、御理解下さいますよう御願い致します。


 

 幼少期の頃から、海軍飛行予備学生だった父の影響と、血を多大に受けて、TVの戦争映画、ミリタリーに興味を持ち、小学生になると、プラモデルや、戦場ジオラマまで作り、また、絵を描かせれば、連合艦隊や零戦、戦車等々、正にミリタリーオタクでした。(笑)



 小説デビューのルーツは、実に中学時代まで遡り、この作品の構想も、実に44年前に遡ります。



 18歳になると、憧れであった陸上自衛隊に入隊し、本物の兵器に触れる機会が訪れて、自然とプラモデル造りなどは卒業してましたが、年齢を重ねる毎に、武士や侍のような生き方が好きになり、次第に国に殉じ、命懸けで戦う兵士などに感銘を受けていきました。



 自衛隊は2任期で退官し、普通予備自衛官を15年間、即応予備自衛官を3年務め、40歳を境に引退しました。

 


 この間、頂いた表彰状は20数枚有りますが、殆どが射撃で取ったモノで、今では所詮過去の栄誉です。



 最後に、何分初めての作品ですので、文章や内容など、乱雑でお見苦しくなるかと思いますが、基本的頭が良くないので、何卒、平に御容赦下さいますよう御願い致します。

 

 


        


          

           1943 東部戦線

 




 [ギュワワワワワ、、、ドドドドーン!]



 カチューシャ(ロケット弾)が近くに着弾した。

 


 [キョルキュルキュルキュル、、、ヴオン、ヴオン、キュルキュルキュル、、、]



 数百両の戦車、自走砲、装甲車のキャタピラ音が地響きを立てていた。



 山中軍曹

 「広瀬大尉、、、物凄く壮観な眺めですね。」



 広瀬大尉

 「、、、ああっ!ノモンハン草原と桁が違いすぎだな。戦車がこれだけ集まると地鳴りがする。」



 山路上等兵

 「ぶるるっ!小便してきます。」



 真田兵長

 「またかよっ!」


 

 吉村上等兵

 「無理有りませんよ。こんな光景一生に一度お目に掛かるかどうか、、、」



  「パンツァーフォー!!(戦車前進)」



 戦車隊が一斉に前進を開始した。



 広瀬大尉

 「あの丘の敵陣地へ一気の総攻めか?これは戦略的に不味いぞ!」



 山中軍曹

 「そうです。無理な力圧しで、味方は大部食われますでしょう!」



 広瀬大尉

 「よし、我が小隊は戦車へ随行せず、対戦車携帯火器を持って、側面で待機する。パンツァーファースト(携帯対戦車火器)は一人で4本持て、持てない者は対戦車地雷を携行せよ。」



 ドイツ将校

 「こらっ、貴様たち何処へ行くか?」



 副官

 「連隊長!あれは日の丸小隊ですよ。」



 ドイツ将校

 「なに?あいつらがか?、、、」



 副官

 「ナニか思惑があるのでは?、、、我らは前進しましょう。」



 ドイツ将校

 「、、、嫌な予感がする。、、急遽作戦を変えて歩兵を前面に出そう。歩兵は前へ!戦車は歩兵を支援せよ。」


 

 副官

 「私も、、、それが最良かと、、彼等は並外れた獣を追う勘がありますから。、、、、、クリューガー1より、連隊へ、歩兵を前面に出せ。繰り返す。歩兵を前面に出せ。戦車隊は減速せよ。」



 無線音

 [連隊了解!、、戦車隊了解!]



 広瀬大尉

 「山中よ。左翼11時方向にある丘は見張らし良さげに見えるが、、、」



 山中

 「はい。恐らくは敵の砲兵観測所が有って、堅固に護られてるかと思われます。」



 広瀬

 「斥候を出したいが、時間が惜しい。ここでの戦闘は、あの丘の占領で決まるとみた。我らは、全力を持って丘を奪取しよう。」



 山中

 「分かりました。ユンカース(急降下爆撃機)に支援爆撃を1発頼みます。、、、通訳頼む。」



 広瀬

 「よし、支援爆撃が始まったら直ぐに突撃する。装備はここへ置いて軽装備でいこう。」


 

 ギュンター無線手

 「連隊本部へ、こちら日の丸小隊、航空支援を要請、親子爆弾1発を敵陣地へ投下を求む、繰り返す、、、」



 無線返信

 [連隊本部了解、3分で来る。無線周波数03-14で交信せよ。]



 ギュンター無線手

 「03-14、、了解!3分後に来ます。」



 山中軍曹

 「敵の陣地中央、座標x-105 y-69ですが、念のため迫撃砲に黄色煙幕弾を準備させます。」



 広瀬大尉

 「よし、頼む。MG(機関銃)を左右に配置。 」



 [クァアアアアアーン、、、]



 山中

 「ユンカース来ました。」



 真田

 「あれ??爆弾を投下しないぞ。」



 ユンカース無線手

 [こちらユンカース335、日の丸小隊へ、硝煙の為、目標確認不可!敵方に黄色煙幕弾を撃ち込んでくれ。味方の陣地には白を頼む。]



 ギュンター無線手→通訳→広瀬


 広瀬大尉

 「了解、白の煙幕弾を炊け。迫撃砲は黄色煙幕弾を発射せよ!」



 [ボムッ!]



 山中

 「、、、、黄色煙幕弾、着弾確認よしっ。」



 ギュンター無線手

 「こちら日の丸小隊、ユンカース335へ、確認可か?どうぞ?」



 [、、ユンカース335、確認せり。突撃する。交信終わり。]



 再びユンカースが急降下し、親子爆弾を投下した。 高度1000で投下した親爆弾は800で300固の子に分裂し、敵の陣地に降り注いだ。



 [ドドドドドドドドドドドドドドドドーンドドドドドドドドーン!]



 山中軍曹

[着弾よしっ!]



 広瀬大尉

 「第一班、及び迫撃砲、MGは援護。 第二班、一分隊は左翼、二分隊は右翼へ展開、前へ!」



 広瀬も自ら陣地数十メートルまで接近した。



 戦車豪が4ヶ所あり、3両の戦車は炎上中、1両が豪から這い出して突っ込んで来た。



 [ブォオン、ブォオン、、、、、、プスン、、、]



 戦車はエンジン部に被弾したらしく、3人の戦車兵が中から飛び出して来た。



 吉村がシュウマイザー(自働拳銃)により、一連射した。


 [タタタタタタタタタタ、、、]

 


 二人が倒れ、一人は脚を撃ち込まれて倒れた。



 広瀬

 「撃ち方やめ!その戦車兵は捕虜にせよ。他の生存者も殺すな。捕虜はトラック前に集めろ。」



 陣地は縦横120メートルに塹壕が掘られ、やはり砲兵観測所で堅固に造られていたが、空からの攻撃には全く無防備だった。



 ソ連兵一個中隊に戦車4両、対戦車ライフル5門と、75㎜対戦車砲3門に迫撃砲二門で護られていた。



 山中上等兵

 「報告します。ソ連兵軽傷9名、重傷11名、戦死38名、武器は戦車3、対戦車ライフル二門、砲は一門が破壊されてます。トラック1台は使用可能です。」



 広瀬大尉

 「無線手、連隊本部へ報告。重傷者をどうしたモノか、、、」



 山中

 「これだけの兵と装備で守ってたコトは、かなり重要地点ですね。恐らく再び敵は奪回の反撃をしてくるかと、、、」



 無線手

 「連隊本部より、丘の確保要請あり、尚、自走砲2両と、砲兵観測班と1個小隊の援軍が直ぐに来るそうです。」



 広瀬

 「たったの1個小隊か?大隊が欲しいくらいだ。、、、、よし、真田、敵の残した武器弾薬を調べてくれ。」



 山中軍曹

 「陣地の向きも真後ろに換えないといけませんね。」



 広瀬

 「陣地変換。急ぎタコツボ(掩たい壕)も深くせよ。土のうも増やせ。」



 吉村

 「隊長、あの戦車、砲弾は満タンですし、手動なら射てますよ。」



 広瀬

 「懲罰(何らかの違反で一時的に、歩兵をやらされてる兵)戦車兵が2名居たな?任せよう。」



 山中

 「ソ連兵重傷者は、どうしますか。?」



 広瀬

 「軽傷の奴にトラックを運転させ、重傷者も追い出そう!1名のみ残して後送だ。」

 


 ソ連兵達は感謝した。てっきり皆殺しになると、全員覚悟していたからだ。



 山路

 「ダワイ、ダワイ。(急げ急げ)」


 

 ソ連兵 

 「スパシーボ、スパシーボ、ダスビ、ダーニャ!(ありがとう さらば)」



 山路

 「礼なぞいらん!さっさと行きやがれロスケ(ロシア兵の敬称)野郎め!」


 


 「パンツァーアラーッ!(戦車警報)」



 広瀬

 「?!もう来たのか?早すぎる!」



 [ッシッシッシシシシ]



 山中

 「皆伏せろっ!!」



 [ドォン!]



 山中

 「た、隊長!?たいちょぁおおぉ、、、、、、、、、、、、」





 

 

             第一章 

     


            極秘任務命令


 



          1942年12月某日、帝都 

 


 海軍横須賀基地から、二人の男が海軍省へ向かっていた。



 伊号潜水艦で勇名を轟かせた、艦長の井上 武少佐と、副長の中野二郎大尉である。



 省の門前で止められ、待っていると、武装した特警(海軍特別警察隊)が四人ほど現れ、前後にピタリと張り付いた。

 


 井上と中野は顔を見合わせ、「何事か?」と、その一人に訪ねた。

 


 すると、特警の一人が 気をつけの姿勢をとり、「失礼しました。水雷、潜水艦司令部まで警護し、御案内するよう命令を受けております。どうぞ こちらです。」

 


 井上は、これは ただ事ではない。

 


 極秘的 最重要な任務を任されるのではないかと、野性的な直感を感じ取っていた。



 六名は水雷潜水艦司令部の前まで案内された。



 その部屋は50メートルほどある廊下のほぼ中央の位置に在った。



 特警がその廊下の両端に1名ずつ張り付き、廊下の通行を遮断していた。



 特警の一人が部屋を三回ずつ二度ノックし、大声で「お着きになられました。」と云うと、中から「おうっ‼入って貰え。」と返事が聞こえた。



 井上

「井上少佐、中野大尉入ります。」

 二人が部屋へ入ると、特警の二名はドア越しに衛兵となっていた。

 


 二人は入るなり、ビシッと10度の敬礼をした。



 出迎えたのは水雷司令部司令 山田少将と副司令の室田大佐で、二人は立ちあがり、井上と中野に両手で握手をした。



 山田少将は米国、ヨーロッパ勤務が永く、洋式癖が染み付いていたようだった。



 山田

「まぁ堅苦しくならず、そこへかけたまえ。室田大佐、早速頼む。」

 


 室田

「はっ!」

 


 室田は滑車の付いた黒板を横からガラガラと三人の前に準備した。



 黒板には日本を中心とした世界地図が貼ってあった。



 室田

 「オホン!、、、えーっ 本日の出頭御苦労である。早速で性急だが、いきなり本題に入らせて頂く。

 


  海軍特別極秘指令(甲種0108号。



 君達両名には極秘任務でドイツ本国へ往って貰う。



 周知の通り、ミッドウェー海戦の大敗より、戦局が傾いてきたいま、乾坤一擲、戦況の逆転をすべく、ドイツの欲してる日本の技術と兵器、物資また、日本もドイツの発達した兵器、技術が欲しいのである。



 航行進路はインドシア~インド洋~マダガスカル沖でドイツ輸送船にて給油と物資の積み降ろし、技術士五名を下船させ、ドイツの新型電探と20ミリ4連装対空機銃を装備のち~南アフリカ~大西洋~ポルトガル沖でドイツ潜水艦より給油、以上だ。



 潜水艦は最新鋭装備型 ハ-101号 極秘に健造された世界最速のタービン発動機の潜水艦である。 



 非常に高い新型艦であるから、壊さんように持ち帰れよ。



 出港は1週間後の早朝マルサン マルマル(03:00)

 


 なお、本作戦名は [疾風] 風の如く速くの意味だ。

 


 以上! 何か質問は有るか?」



 井上

「、、、はっ!ハ-101の最大積載量は、いかほどでありますか?あと、武装も簡潔に聞いておきたいと、、、」 

 


 室田

 「積載量は120トンだ。水上機を二機搭載、3連装25ミリ砲二基、14サンチ連装砲一基、魚雷発射菅 前部8 後部4 魚雷は最新鋭の音響探知式でな、敵艦のエンジン音を捕らえて自動追尾するドイツと日本の共同開発したヤツだ。

 


 魚雷は大中46本、通常酸素魚雷26本、普通の潜水艦の2倍だな。

あとは、潜望鏡が夜間暗視出来るヤツだ。これも共同開発した新型装備だ。」



 二人は顔を見合わせ驚愕した。

 歴戦の猛者である井上と中野は、既にハワイ、マレー作戦、南方作戦と転戦し、連合国艦船を5万トン沈めていた。



 山田司令

 「二人には、鬼に金棒と言ったところかな?選抜されたワケも理解出来たかと思う。



 あと、ドイツに駐在する連絡将校の山口左門大佐をマダガスカル沖まで運んでくれ。



 山口はワシの親友で海兵(海軍兵学校)の同期生であり、井上少佐の海兵時代の教官であったな?」



 井上

 「はい。そうであります。温和な中に鬼神を持つ御方で有ります。」



 山田

「はははっ、、、そうかそうか、、、同期生には恐れられていたようじゃの。、、、まぁ、とにかく極秘中の極秘任務だ。二人共を腹をくくって任務に当たってくれ。」



 井上、中野

 「はっ!必ず御期待に添えますよう命懸けで当たります。」



 室田

「道中の行動指針だが、ハ-101は、水中速力が28ノット出るからな。駆逐艦に追われても振り切れるだろうし、旋回も通常艦の三倍の速さだ。素早い反撃が出来るが、極力戦闘は回避してくれ。

 


 マダガスカルまでは表向き山口大佐に指揮をとって貰うが、戦闘は艦長が指揮をしたまえ。

 


 大物に会敵したら、新型魚雷を発射して即時、戦線離脱するように。なお、戦果の確認は無理にしなくてよい。」



 井上

 「、、了解しました。」



 室田

 「乗員は定員が145名だが、パイロット3名、技術士5名、山口大佐を含めて総員130名とする。日本の荷積みは完了してるが、あとは、インドネシアで天然ゴムを60トン積むだけだ。 他に何か質問は?」



 井上、中野

 「有りません!」

 


 室田

「よし。司令、何か有りますか?」



 山田

「任務はキツいが頼むぞ。」



 井上、中野

「最善を尽くします。」



 室田

 「下がってよし!」



 井上と中野はビシッとかかとを揃え、しっかりとした10度の敬礼をして、部屋を後にした。



 ドアの外の特警は、いつの間にか消えていた。



 二人は歩きながら、雑談を始めた。



 中野

 「艦長、物凄い艦ですね。乗艦が楽しみになってきました♪。」



 井上

 「おいおい、、、極秘指令任務だぞ。オレは気が重いよ。」

 


 中野

 「あれ?いつもの井上艦長らしくないですよ。」



 井上

 「考えてもみろよ。地球の裏側まで往くんだぜ。しかも往復で、、、、


何万海里もの長旅だし、日本やイタリア、ドイツの領域ばかりならともかく、半分以上が敵中突破となるだろ?、、、遺書は書いておけよ。」



 中野

 「否、自分は必ず生きて帰ります。無論、艦長以下全乗員もです!子供も産まれたばかりですし、簡単には死ねません。」

 


 井上

 「、、、責任重大だが、ヤるしかないかっ!、、、よし!今夜は銀座で飲むぞ!中野、下士官に招集かけろ!」

 


 中野

 「はっ!了解!それでこそ、いつもの艦長です!(笑)」



          ハ-101出航す        



         昭和17年12月24日




 午前2時半 暗がりの横須賀港に ハ-101高速潜水艦の横側に艦長以下126名の乗員と、技術士、パイロット、山口大佐、総員135名がピシーッと横二列に勢揃いしていた。



 極秘任務なので、質素に見送りは山田司令官、水雷部長、その他整備兵が数十人ほどだけであった。



 山口大佐

「司令官に敬礼かしらぁ~、、中っ。」

 


 総員の首が一斉に山田司令官へ向いた。



 山口大佐

 「なおれーっ!」



 山田

 「、、、諸君、ここに至って何も云うことはないっ!ただ一言だけを云う。、、、必ず、必ず生還せよ!以上。」



 山口大佐

「気を付けー!  かしらぁ~中っ!」



 山田が総員の端から端まで首を動かし敬礼を返した。

 


 首が正面を向き、手を降ろした。



 山口大佐

「なおれーっ!」


 

 暖気運転をしていた整備兵達が艦から下り始めた。

 


 艦長

「総員乗艦!」

 


 副長

「横隊、右左向け~前へっ!」

 


 総員が小走りに前後に分かれて、それぞれのハッチに向かった。



 山田

「山口!死ぬなよ!」



 山口

「縁起でもない。ドイツ勤務は永くなりそうだから、暫く貴様と飲めなくなるのが心残りだな。」

 


 山田

「おう。来年日本酒を贈ってやるから楽しみに待ってろ。」



 艦長と山口は艦橋に登った。

  


 山口

「おーっ!楽しみにしとる!じゃあ、ちょっと行ってくる。」



 山田

「そこいらへ散歩じゃないぞ。(笑)無事を祈る!」



 山口

「土産買ってくるからなぁ。」



 山田以下の者達が脱帽し、力一杯に帽子を振った。

 


 普通の見送りなら、大声も出すのだが、任務が任務だけに皆、物静かに力強く帽子を振り回していた。



 山田は艦が離岸し、見えなくなるまで敬礼をしていた。



 艦長と山口も同様だった、、、、、、

  


 艦長

 「副長、九州沖から、潜航航行する。インドネシアまで五日で到着出来るように軽く速力試験も行おうか。」



 副長

「はっ!世界記録を更新しましょう。」

 


 山口

 「この艦は駆逐艦並の装備と、最新鋭潜望鏡に新型魚雷も付いてて、発動機もタービン動力三基で高速らしいのぅ?」



 艦長

 「はい。試験では、水上38ノット出たそうで、水中でも28ノットは確実らしいです。」



 山口

 「そうか、、、、戦艦や空母より、この艦が200隻も有れば、戦局を逆転出来るだろうにのぅ、、、」



 艦長

「、、、そうかもしれませんね。、、、一つ質問してよろしいですか?」



 山口

 「なんだ?井上。」



 艦長

 「大佐のドイツ行は命令だったのでありますか?」



 山口

 「そうだ。ドイツ語に堪能な将校は日本には10人と居ないからなぁ。、、、ま、再招集されたワケだ。 

 いまの駐在員が永くなったから、交替の意味も有るが、どうも向こうで不手際があったらしくてなぁ、、、本意では無かったが、引き受けた。」

 


 艦長

 「、、、そうだったんですね。東京の家族と離れて暮らすのは寂しいでしょう?」



 山口

 「いや、、、、、家族は東京から埼玉の秩父に疎開させた。恐らく日本の大都市は一年後、、いや、もっと早く空爆を受けると見てるからだ。」



 井上

 「‼?やはり、そう思われますか?私のカァ(奥さん)と子供達も名古屋から、親戚の山間へ行かせました。大佐が、そう思われてるなら大正解でした。」



 山口

 「頭のキレるヤツは、皆そうしてるだろう。先の見えぬヤツは死ぬのみよ。慧眼は、人間のもっとも大切な野性的な部分だからな。

 井上は、どうして空爆を受けると読んだのだ?」



 井上

 「自分は真珠湾奇襲から、僅か5ヶ月で東京を初空襲した米国の反撃に驚愕しました。大した被害は出なかったですが、私の考えでは末恐ろしさを感じました、、、」



 山口

 「、、、井上よ。全くその通りだよ。上はコトの重大性に気付かず、未だに戦線拡大を計っている。


 司令長官の山本さんは、どこかで反撃し、そして勝利してから、優位に講話に持ってゆく考えであるみたいだが、その上が納得しないから、ややこしくなってゆく。

 

 このまま戦争が長引くと、多勢の国民が若者を中心に死んでゆくだろう。」



 井上

 「御意。同感です。」



 山口

 「ワシは米軍の反撃は、恐らく南方と北方から両面作戦で始まると見てる。山本長官も そうおっしゃられていた。


 大本営は満州軍を南方増強に渋々師団単位で送る決心をしたが、果たして間に合うかどうかだな、、、」

 


 井上

 「、、、間に合うと良いですね。 大佐が教官時代に お教えして下された米国の強大な国力ですが、しっかり脳裏に焼き付けております。」



 山口

 「そうか。それを頭に置いて戦えば、無駄死には決してするまい。ワシとしては教え子は実子と同じだ。訃報は悲しい。」



 井上

 「私も部下に軽々しく死を口にするなと、口を酸っぱくして云ってますから、、、、それに私の部下共は一騎当千のつわもの揃いです」



 山口

 「そいつは頼もしい限りだな。、、、ワシも潜水艦の艦長をやってみたかった。」



 井上

 「、、、それは無理でしょう。山口大佐殿は将来、連合艦隊を背負う方と、私のみならず、上も見てる筈ですし。」



 山口

 「、、、買いかぶり過ぎだよ。ワシは作戦参謀ぐらいが似合ってるわい。」

 

 

 二人は種子島付近で、美しい夕焼けを見ながら、いつまでも話に花が咲いていた。


           

     

            



 ハ-101が、横須賀港を出る二日前に朝鮮の釜山港から輸送船八隻、護衛駆逐艦六隻が南方戦線へと出港の時を迎えていた。



 しかし、一隻の輸送船だけが機関部の故障で12時間程、遅れて単独出港となった。

 


 途中、東シナ海で護衛駆逐艦が一隻就いてくれる予定であるため、単独で出港していた。

 


 船は武器弾薬が8割、兵員は歩兵中隊が150人のみが乗船していた。



 輸送船の名は渓流丸 明治の後期に就航した老朽艦であった。 



 艦長は峯大尉、副艦長は中村中慰であった。


 

 峯

 「まだ機関部から、おかしな音がするな。無事にインドネシアに着けばいいが、、、」

 

 中村

 「、、、ホントですねぇ。外地からの不完全な整備での あわただしい出発でしたし、積み荷も満載、速力も4ノットですからね。航海中の本隊への合流は、まず無理でしょう。」



 峯

 「ま、会敵だけはしたくないが、機関士に これ以上壊れないようにさせておけ。」



 中村

 「はっ!幸い武器は豊富ですし、敵艦が現れたら、どうせ逃げられないし、応戦して、ただの輸送船ではない事を相手にみせてやりましょう。」

 


 峯

 「そうだな。ただでは沈まん。駆逐艦ぐらい道ずれにしてやろうじゃないか。」



 中村

 「はい。」




 

 四日後、ハ-101は、予定通りインドネシアの港に到着し荷役作業を始めていた。

 乗員達は、しばらく遠洋航海に入るため、山口と艦長の許可で、一晩自由外出を貰って外遊を楽しんだ。






            二日後



 渓流丸は南シナ海を過ぎてから機関が停止した。


 

 おまけに通信機、無線機の故障と、3重の不具合が起こっていた。

 

 

 艦長は陸軍の指揮官を艦橋に呼び出した。


 

 陸軍、第335歩兵連隊、1中隊 中隊長の西村と中隊付(世話役)の山室曹長が上ってきた。

 


 峯

 「申し訳無い、、、3重の不測事態が起こりまして、艦は現在漂流中で有ります。

 先ずは通信手段を急ぎ復旧させる事を最優先させております。機関士の話では、機関修理は部品が足りないらしく、難しいそうです。」


 

 西村と山室は、顔を見合わせ大変な事が起きた事を理解した。



 西村

 「我らも全面的に協力しよう。器械に詳しい者も何人か居るだろうし直ぐに手伝わせよう。曹長、早速捜してくれ。」



 山室

 「はっ!器械弄りの特技を持った者達ですね?了解しました。」



 山室は艦橋から素早く降りていった。



 西村

 「その他には?」


 

 峯

 「空襲に備えて重機関銃が有れば、船の6ヶ所に配置願いたいです。



 前に2門、艦橋上部に2門 後部に2門お願いします。」



 西村

 「よし、解った。直ぐに配置させよう。なに、食糧、弾薬は、ぎょうさん有るから、1ヶ月漂流しても大丈夫だ。、、、通信機が早く復旧すると良いですな。では早速かかります。」



 峯

 「本当に申し訳ありません。宜しく頼みます。」

  


 西村は敬礼をして去った。



 山室は中隊員に現状を説明していた。



 8人の元機械工が見つかり、直ぐに機関室に派遣させた。



 そこへ中隊長が現れ重機関銃の配置を命令した。


 

 実際には重機関銃小隊は乗船しておらず、部隊員の内訳は




 備品整備班 16名


 擲弾小隊×3 75名


小銃小隊  46名


 下士官  8名


 士官  4名


という陣容だった。


 

 西村

 「擲弾第一小隊、第2分隊長の山中軍曹、「はいっ‼」真田兵曹長、「はいっ‼」山路上等兵、「はいっ‼吉村上等兵、「はいっ‼」


 

 以上の者は広瀬少尉の指揮下に入り、後部重機関銃座につき、昼間のみ二時間交代で対空警戒をせよ。



 西村は、常に沈着冷静で胆の座った男であり、その小柄な身体からは想像出来ない程の度胸の持ち主であるし、小隊長達からの信頼度も抜群であった。



 広瀬

 「よーし、第2分隊、重機運べ‼土嚢が少ないから、丸太を切って弾除けに代用せい。」



 広瀬のアダ名は別名[親分]であった。



 擲弾筒第一小隊長であり、[別名広瀬一家]と呼ばれていた。



 その名の由来は、中国戦線での陣地防衛戦の時、ヤクザ出身兵が小隊に6名ほど在籍し、共産軍300人の突撃を 僅か一個小隊で撃退したのだ。



 その戦闘で24人の小隊は、18名が戦死し、ヤクザも それぞれ一人当たり10人以上の敵を擲弾で倒して5人が絶命していったが、その勇猛果敢な戦いぶりが、満州新聞や、内地の新聞にも大きく取り上げられ、連隊長が誉れ高き[鬼神広瀬一家]と名付け親になったのであった。



 その一家の生き残りが第二分隊であるが、元ヤクザは船坂軍曹だけになったのだが、船坂の戦いぶりは、また凄まじく 左耳貫通銃創、左脇腹貫通銃創、右足に砲弾破片を多数の重症を負いながら鬼気迫る戦いで、擲弾筒が赤く焼けるまで射ち続け、敵兵60余名を薙ぎ倒した。


 

 他の生き残りは、それ以来山中を不死身の鬼軍曹と呼ばれるようになっていた。



 山中は射撃、銃剣術、柔道に空手に剣道、合気道まで習得した、正に闘神毘沙門天の化身のような無頼漢なのだが、普段は、だんまりで口数も少なく、酒も殆んど飲めず、まだ女も知らない男であった。

 


 無論、山中は名誉勲章を授章したのだが、小隊の生き残りは、わずかに5名。山中はしばらく落胆していた。



 それから1週間経過して、直ぐに南方転戦の命令が来た。


 米軍の上陸に備えて、インドネシアを拠点にし、各中隊ごとに南方の島々の防御を担当するのだ。  



 皆、中国兵しか戦った経験しか無かった。上層部は[米兵は身体は大きいが、ウドの大木で臆病、追い散らせば必ず逃げて行く]と教えられていた。



 だが、頭のキレる小隊長の広瀬は、部下達に こう伝えた。


 「次の敵は白人だ。中には臆病なのも少なからず居るだろうが、勇猛なヤツらも必ず居るだろうし体格もバカデカい。だが、日本兵より動きは鈍い筈だ。


 ヤツらの銃剣は短いし、白兵戦では負けないだろうが、おそらく敵は距離を保って機関銃で対抗してくるだろう。


 だから、穴に潜んで ひたすら狙撃しながら敵の接近を待ち受け、近場に来たら、一気に飛び出して銃剣刺突せよ。


 いたずらに命を粗末にするでない。


 敵の火力も侮るべからず。




 山中は小隊長には、絶大の信頼を寄せていた。大軍相手にも一歩も退かない その果敢な行動にも男惚れしていた。



 [この人と死ねるなら本望だ。最後の最期まで、、、地獄の中までお供をしよう]と考えていた。 他の生き残りの皆も同様に考えていた。



 

         12月28日18時


 その頃、ハ-101は荷積みを終えて、インドネシアを出港し、一路インド洋に向かっていた。


 

 艦長

 「進路2-7-10、中速前進。 副長、艦内連絡をする。」



 副長

 「どうぞ。」副長がマイクを渡した。

 


 艦長

 「艦長の井上だ。諸君、これより敵制海域に入って行く。昼夜の警戒は、今までより気を引き締めて、フンドシのヒモも ゆるんで落ちないようにせよ。緊張感を保って一瞬の油断もなきよう。、、以上。」



 艦内では笑い声も聞こえたが、皆一丸となり、気を引き締めていた。



            爆沈




 渓流丸の漂流四日目 午後七時 まだ西の空は明るかった。



 広瀬一家が後甲板のデッキに集まり酒盛りを始めた。無論中隊長の許可は得ていた。

 乗員の半分以上が船酔いでダウンしていたが、広瀬一家は全員ピンピンして元気だった。


 

 吉村と山路が、どこからか、酒を調達してきたからであった。



 真田は酒の肴をリュック一杯に調達して持ってきた。牛缶、鯖缶、漬物、等々、、、



 手拍子が始まり、皆が軍歌を一斉に唄い出した。

 歩兵の本領、関東軍の軍歌、戦友、などを皆で大声を出して熱唱しだした。



 山中は下戸に近かっが、日本酒2杯を飲まされてしまい、フラフラしていた。


 

 真田

 「よーし、次ィ~山路がとても好い歌を唄います‼皆様拍手を願いますぅ~。」



 山路

 「ご指名に預かりまして不詳、山路上等兵一発唄います‼」


 

 全員

 [パチパチパチパチパチパチ、、、]



 山路 

 「一つでたホイのよさホイのホーイ♪一人娘とヤる時にゃ~あぁ親の承諾得にゃならぬぅホイホーイ♪」



 山路は唄いながら、滑稽な踊りをしだした。



 最後の[ホイホーイ]は皆で合唱した。

 


 山路は「ヤる時にゃ~」の節目で腰を前後に振っていたので皆の爆笑を誘っていた。

  

 

 山路

 「二つでたホイのよさホイのホーイ♪二人の女とヤる時にゃ~ハチマキ締め締めせにゃならぬぅホイホーイ♪」



 普段はあまり笑わない山中軍曹は爆笑していた。



 山路は最後の[ホイホーイ]は、皆に大声を出すように両手で あおりながら唄った。



 山路

 「三つでたホイのよさホイのホーイ♪醜い女とヤる時にゃ~バケツ被せてせにゃならぬぅ~ホイホーイ♪」



 山路

 「四つでたホイのよさホイのホー、、」



 [ドドーン!!!]



 突然船の先端から、閃光が走り船が揺れた。



 前部から火災と爆発が次々に起こり、瞬く間に艦橋まで猛火となった。



 元船乗りだった真田が叫んだ。「?!不味いぞ‼皆、海に飛び込め‼」



 広瀬は、予め皆に背のうだけは、肌身離さず持っていろと命令していたので、皆は背のうを肩に担いで次々に船から身を投げ出した。



 広瀬

 「吉村はカナヅチだ。山中頼む‼」



 山中

 「わかりました。小隊長も早く!」



 真田と山中は泳げない吉村の両脇に付いて、ばた足をした。


 

 真田

 「ハァハァハァ、、皆、船から出来るだけ離れろ‼海中に引き込まれるぞ‼」



 山中は軍刀を背中にヒモで固定して、部下が全員飛び込んだのを確認してから、最後に船から跳んだ。



 続いて二度目の爆発が起きた。

 船の積み荷の弾薬が誘爆したのだ。

 [ドドーン‼ドカーン‼]


 

 山路

 「ハァハァ、、小隊長殿~早く!早く!此方です。」



 [ゴオォー]大火災と爆発を繰り返した船は早くも傾き、先端から沈み始めた。



 山中は太い丸太を見つけて、吉村に掴まらせた。



 山路はふっとんできた木の戸板を見つけて、背のうを乗せた。



 皆、船から50メートル以上ほど離れた。



 小隊長が皆の近くまでたどり着き、皆で船の方を観たが、すでに船の姿は消えて破片や浮遊物のみが散乱していた。



 広瀬

 「ハァハァハァハァ、、、皆、怪我は無いか?報告せい。」



 山中 

 「1分隊全員無事です。小隊長は大丈夫ですか?」



 広瀬 

 「ああっ、大丈夫だ。真田の咄嗟の機転で助かった。、、感謝するぞ。」



 真田

 「へへっ、広瀬一家は不死身ですぜ。」



 広瀬

 「?!あそこに人が浮いてる。山路、見てきてくれ。」



 山路

 「はっ!」 



 真田

 「‼俺が行きます!皆はここから動かないで下さい。」



 真田は20メートルほど泳いで板ギレに捕まってた日本兵を視た。


 

 頭部から失血し、左手を失っておびただしい出血をしていた。



 真田

 「、、、名前と部隊は?」


 

 「に、、、し、、、、、、、、こ、こ、これを」



 彼は御守り袋みたいな物を真田に渡した。



 「、、、か、、介錯を、、」



 真田は普段から肌身離さず持ち歩いている自前のナイフを取りだし、彼の首をかき切って海に沈めた。

 ナイフをしまって片手で冥福を祈った。



 真田は皆の所へ戻った。



 小隊長は真田の行動を見ていたが、何も言わなかった。



 山中は理解したような表情で真田の肩をポンと叩いた。



 広瀬

 「真田、何が起きたか解るか?」


 

 真田

 「、、、恐らくは、魚雷か機雷でしょう。」



 山中

 「、、、、我々は数分前には酒盛りしてましたよね?、、」



 広瀬

 「、、、まるで悪い夢を観てるようだ。」 






 


            8分前




 ハ-101は、速力20ノットで潜航航行していた。



 音探手(ソナー)が叫んだ。

 「か、艦長‼ちょっとこの音を聴いて下さい‼」



 ヘッドホンを井上は受け取って耳に当てた。



 艦長

 「何だ?、、、、、、ん?これは?」



 山口

 「どうした?、、、どれ、ワシにも聴かせい。」



 艦長

 「減速‼ 潜望鏡深度へ。艦首12あげ。艦尾10さげ。」



 山口

 「、、、日本陸軍の軍歌だな。近くに味方の輸送船が居るようだが、、、」



 艦長

 「、、、おかしいですよ。この海域に味方が居るのは、、、」



 音探手

 「右舷37度方向、距離、800です。」



 山口

 「接近してみるか?もしかすると、、、、遭難船かもしれん。」


 

 音探手

 「そうなんですか?」



 [ゴツン‼]艦長が音探手の頭を叩いた。



 音探手

 「!?ぁいてっ!」 



 艦長

 「捕虜が移送されてる敵艦というのも考えられますね。」



 山口

 「あんな大声で唄わせるのは考えにくいがなぁ、、」



 航海士

 「潜望鏡深度到達。」



 艦長

 「機関微速。、、、さて、何が出ますか、、、」



 艦長が潜望鏡を覗こうとした、その時、艦が揺れた。



 [ズズーン‼、、ズーン、ズーン‼]

   


 音探手

 「爆発音捕捉‼一回、、、、、続いて二回。」



 艦長が覗くと右舷方向に火柱が見えた。船の後尾が持ち上がり、スクリューと船名が確認できた。



 艦長

 「渓流丸、、、友軍の輸送船を確認。」



 山口

 「、、、見せよ。」



 山口が覗いたら船影は、すでに無かった。



 艦長が暗視装置のスイッチを入れた。



 山口 

 「おお?こりゃーよお見えるわい、、、、、、お?!、、、、、、井上、視よ‼」



 山口は艦長と交替した。



 艦長が視ると数名が浮遊物に捕まって茫然としていた。救命ボートも辺りには無かった。



 井上は山口の顔を見た。山口は井上を見て直ぐにゆっくりと、うなずいた。



 艦長

 「緊急浮上‼ 進路、面舵15度、救命班準備急げ‼」



     

            死中に仏

    



 真田は先程の負傷兵が居た場所から、出来るだけ離れた。フカ(鮫)が心配だったからである。



 ヤツラは遠くからでも血の臭いを嗅ぎ付けて襲ってくる‼


 

 もし、仲間に負傷して出血した者が居れば尚更、全員に危険が及ぶ。


 増して此所は温暖な海域である。真田は、なんとか早く陸地に上がらねばと考えていた。




 突然左手の海面が山のように盛り上がった。[ザザザザザ~~‼]



 山中が叫んだ。



 「!?小隊長。アレを‼」



 皆が一斉に振り向くと巨大な船体が海中から姿を現した。



 広瀬

 「むぅっ‼敵か?、、、、、、皆、得物(武器)は有るのか?」



 真田はナイフを抜き、山中は警棒を出して構え、山路は缶詰を食べてたフォークを手にし、吉村はと、、、スプーンを出していた。



 広瀬

 「、、、なんか、装備を見ると皆で飯屋でも襲撃するみたいだなぁ、、 


 [どっ!一同(笑)]、、、、ま、とにかく皆、最後かもしれん。俺は捕虜には絶対ならん‼」 



 山中

 「小隊長、ワシ等は皆同じですよ。出来るだけ多くの敵を道ずれにしてやりましょう‼」



 全員が[おおおぅっ‼」と気合の雄叫びをあげた。



 皆は死を覚悟して殺気を放ち、潜水艦を睨んだ‼



 潜水艦は10メートルまで近付いて前部のハッチが開いた。



 山中

 「、、、小隊長。先陣はワシが行きます!」



 広瀬

 「よし‼許す。、、、山中よ、靖国で再び会おうぞ!」   



 ハッチから白い服を着た兵が一人、二人、三人、四人、五人と出てきた。



 一人が電灯で海面を照らし、「あんだらーだいぢょうぶけぇ?怪我人は、居るだか?」



 東北弁だが日本語であった。


 全員既に死を覚悟し、目一杯の殺気を放っていた分隊は、[ガクガクガクッ]っと、全員が身体中の力が一気に萎えて、腰を抜かさんばかりになった。



 広瀬

 「、、、、、、あ~、怪我人は居ない。生存者は五名である。私は先任士官の小隊長の広瀬だ。」

 


 皆、手を取り合って感涙した。「おおお♪味方だ味方だぞぅ~‼

♪」



 水兵

「そうけぇ、えがったなぁ‼こん辺り島はまったくねえがらよ。あんだら魚のエサになるとこだぁ‼」



 艦長

 「、、こらっ田中!方言をしゃべるなと、言っただろう?早く収容してヤれ‼」



 田中

 「は‼?ぶったまげだ。艦長様だべ。、、ほれロープさ捕まれ。」



 五名は素早く乗艦し、田中達に礼を述べ、小隊長の誘導により、小走りで艦橋の下に集まった。



 広瀬

 「背のう置け‼整列‼ 番号‼始め!」



 全員 

 「1、2、3、4!」



 広瀬は不動の姿勢を[ビシッ!!]とり、艦橋の艦長に敬礼をした。

 


 広瀬

 「第114師団335歩兵連隊、第七中隊、第一擲弾筒小隊、第一分隊、広瀬少尉以下四名 救命感謝致します。



 艦長は、さっと素早く敬礼を返した。



 続いて山口が顔を出した。



 広瀬は山口の階級章を見て再び敬礼をした。



 山口

 「、、、君らは強運だな!船には何人乗っていた?」



 広瀬

 「は!船員を含めますと、およそ190名くらいかと、、、武器、弾薬、食糧は満載でした。」



 山口

 「そうか、、、爆発の原因は何が起きたか?」

 


 広瀬

 「、、、それは、、、まったく不明であります。」



 山口

 「そうか、取り合えず直ぐに濡れた服を着替えて中へ入れ。」



 水兵の二人が五人分の着替えを持参してきた。海軍の作業着であった。



 広瀬達は艦内に入った。



 山中達は、物珍しさにジロジロ中を舐め回すように観ていた。



 艦長

 「士官のみ話を聞きたい。他の兵は休ませて良い。」



 山中達は奥に案内された。

 

 

 山口と井上は広瀬に輸送船爆沈の事情を全て聞き出し、自分達の秘密任務も話聴かせた。



 山口

 「君らを送還したいが、現在位置からして、一番近くの友軍にも三日かかる距離だ。よって、君らには、一時的に海軍へ編入して貰う。任務が最優先だから仕方無い。理解願えるかな?」



 広瀬

 「無論で有ります。異存は全く有りません。命懸けで奉公致しますので、便所掃除でも何でも命じて下さい。」



 艦長

 「君は、、、何処かで見た記憶が有るな。新聞に載った事が有るかね?」



 広瀬

 「いや、何処にでもあるツラかと、、、」



 山口

 「いや、、、、云われてみると、ワシも見覚えがある!包み隠さず本当の事を云いたまえ。」



 広瀬

 「はっ、数年前にノモンハンでソ連軍と戦いました。」



 山口

 「おお?ロスケの戦車を60輛撃破したというあの広瀬一家か?」



 艦長

 「私も存じてます。新聞に鬼神広瀬一家と書かれて大々的に載ってました英雄ですね。」



 広瀬

 「、、はぁ、まぁ」



 広瀬は頭をボリボリかいていた。



 山口

 「そうかそうか。旅は永い。また、ゆっくり武勇を聞かせてくれ。御苦労、ゆっくり休んでくれ。」



 広瀬は敬礼をして部下の所へ戻っていった。



 山口

 「強運な奴等だな。あの状況で助かるなんて、奇跡だ。」



 艦長

 「そうですよね?、、、やはり鬼神が守護神に憑いてるのかも?」



 山口

 「そうかもな。、、、先に休む。後は任す。」



 艦長

 「はっ!御休みください。航海長!5分ほど頼む。彼等にちょっと説明してくる。」


 

 艦長は5人を艦長室へ呼び出した。



 艦長

 「先程山口大佐から聞いた通り、我等の任務は最極秘だ。君らを近くの友軍に送りたいが、そうもいかない。ドイツまで臨時海軍水兵として頑張ってくれ。」


 

 広瀬一家は了承した。



 九死に一生、絶体絶命の危機から現れた味方の艦は、まさに地獄で出会った神様、仏様以外なにものでもなかった。

 



 翌日深夜 時計は現地時間午後11:40



 艦長

 「今夜は月も無い。朝方まで浮上航行しよう。速力25ノット維持。」



 航海長

 「速力25、、、、よーそろー!」



 艦長

 「航海長、順調に行けば、マダガスカル付近まで7日ってトコか?」



 航海長

 「そうですね。燃料を節約すれば、2週間ですが、この速力なら7日前後かと、、、」



 艦長

 「よし。会敵だけは、避けたいからな。先を急ごう。」



      


      1月3日午後6時

   


 副長

 「潜望鏡深度へ浮上。」



 航海長

 「深度5、艦首1上げ~っ艦尾2下げ~っ!」


 

 副長は潜望鏡を左右に廻して周りを見渡した。



 副長

 「、、、0度方向、マダガスカル島を確認。2時方向、停止船影在り。、、、よし、艦長と山口大佐を起こせ。」



 山口が やってきて「もう起きてるよ。井上君も起こしたから、もう来るだろう。」



 山口は前夜、夜間哨戒任務に就いて仮眠をしていた。



 副長

 「はっ!すみません。おはようごさいます。潜望鏡で確認下さい。」



 山口

 「、、、んむ、とうとう着いたか。」



 艦長が正装で現れた。



 副長

 「おはようごさいます。潜望鏡を確認下さい。」



 山口

 「マダガスカルだよ。井上大尉。」



 艦長は潜望鏡を確認し、潜望鏡から停止船へ暗号をライトで信号を打った。



 [ワレ、ニホンテイコク センスイカン、[ハ-101]ナリ、キカンノ ナヲ ツゲタシ、、、]



 直ぐに返信が来た。


 

 



 [ワレ、ドイツ、、、、ミンカンセン、ミュンヘンゴウナリ、、、タダチニセッキンセヨ、、、ミカタシキベツ、、マストニカカゲヨ、、よーし、浮上!鯉のぼり掲げよ。砲手、機関砲手は戦闘配置。]



 艦内が慌ただしくなった。



 


             歓待



 ミュンヘン号のクルツ船長は、12人のコックに急いで食事の支度をさせた。 


 

 民間船を装っているが、実際は軍の御用達であり、連合軍に拿捕されれば、スパイ船とみなされ捕虜扱いになる。



 物資を交換したら、速やかにドイツ占領下に向かわねばならない任務であった。



 海軍司令官のレーダー元帥には、ドイツ最高の料理で歓待せよと厳命をされていた。



 見張り員が叫んだ。「味方識別コイノボリ確認シマシタ。」

 


 ハ-101は、ミュンヘン号に横付けした。



 ドイツの船員達は、潜水艦の巨大さに度肝を抜かれて、ワイワイ騒いでいた。



 「ナ、ナンダコレハ?巡洋艦ジャナイノカ?」

「我ガドイツノ潜水艦ニ コンナ大キサノハ無イナ。」

「120メートルハ アルゼ。ミュンヘン号ヨリ、40メートルハデカイゾ。」



クルツ

 「作業班ハ速ヤカニ迅速カツ、能率ヨク作業ニカカレ。無駄話ヲスルナ!」



 山口と井上が正装して艦橋に現れた。



 クルツ船長は敬礼をした。



 二人は敬礼を返し、下に下りた。



 乗員の半数は荷の交換作業と給油、半数は食事というふうに振り分けされた。



 山口と井上はクルツと握手を交わした。



 山口はドイツ語で

 「出迎えと、補給に感謝します。こちらは艦長の井上です。」



 クルツ船長はニッコリ笑って皆を食堂へ案内した。



 潜水艦の飯炊きが、炊きだした米びつを8つほど、兵に持たせて船へ運んだ。


 

 ドイツ人は米を食べないので料理は飯を欲しがる者が大半だろうと考えたからであった。



 山口が説明すると、クルツは納得し、「ハハハ、、日本人ハ肌ガサラサラデ綺麗ダト聞イテマスガ、米ノ栄養ナノデスネ?」



 山口は「まぁ、古から米が主食の民族でしたから」と説明した。



 艦長が乾杯の音頭を取って晩餐が始まった。



 ドイツのオーケストラ達の生演奏も付いていた。



 陸軍兵5人と海軍パイロット3名は同じテーブルで話が弾んでいた。



 オーケストラに山路が拍手喝采し「イーぞ!ダンケダンケ。」と片言のドイツ語を喋った。

 


 広瀬

 「山路、あまり騒ぐなよ。」



 吉村

 「ピュッピューッ」と口笛を吹いた。



 真田

 「小隊長。このビール、イケますね。ングング、、」



 山中

 [、、、このソーセージ、、美味すぎる。]「ガツガツ」



 パイロットの杉田、管野、西沢は、

もくもくと食事をしていたが、船酔いで、あまり食欲が湧かず、船長に礼をのべて早々と席を立って艦へ戻ってしまった。




 クルツ

 「諸君、今日カラ、ドイツ本国迄ハ-101ニ乗艦スル Uボートノベテラン航海士ノ、ハンス、ヴァルター曹長ト、通訳ノ、へルマン、マイアー准尉ヲ紹介イタシマス。」


 

 山口が通訳し、皆に紹介をした。



 ハンス、へルマン

 「ヨローシク、オネガ、タシマース。」と礼をした。



 一同拍手が起きた。





 ハ-101は給油を終えて、零戦52型エンジンと紫電のエンジンを荷上げしていた。


 あとは天然ゴム5㌧ 薬品、水上戦闘機一機、3号爆弾と酸素魚雷設計図などをドイツ側に渡した。



 ドイツ側からは、特殊新型試作ソナーと20㎜四連装対空機関砲が 艦橋横に取り付けられた。弾薬は2000発が積まれた。



 あとは、ドイツの携行食、缶詰などを500㎏を積載した。



 副長

 「よーし、作業が終わった者は順次食事に行けよ。ドイツの飯はウマイぞ。」



 井上艦長が戻って副長と交代した。



 パイロット3名のうち、西沢飛行曹長、技術士5名と山口大佐がミュンヘン号でドイツに向かうことになっていた。



 艦長は山口大佐に別れを告げた。



 山口は航海の無事を祈って井上に別れを告げていた。



 作業と晩餐は二時間で終わった。



 乗員は久々の御馳走を皆、大変喜んでいた。



 艦長はクルツ船長に厚く礼をして、土産にと短刀を渡した。


 クルツ船長は、箱に入った拳銃ワルサーを井上に手渡した。

 


 艦長

 「離艦準備用意」



 山口大佐、技術士の5名 西沢飛行曹長 船員達の見送るなか、ハ-101はミュンヘン号から離艦した。



 艦長、副長は船が見えなくなるまで

敬礼をしていた。



 艦長

 「さて、、、いよいよ本格的に敵地だな。」



 副長

 「はい。ドイツの配慮でベテラン航海士が乗艦してくれたのが本当に助かりますね。」



 艦長

 「南アフリカ領海に入れば英国圏内だからな。二回くらいは戦闘になるかもしれん。」



 副長

 「新型魚雷を試せますね。」



 艦長

 「なるべく通常装備の酸素魚雷でやりたいがなぁ。まだ、帰りも有ることだし、、、」



 副長

 「そうですね。まぁ、使った分はドイツで補充させて貰いましょう。」



 艦長

 「そうだな、、、副長、あまり仮眠してないだろ?先に休んでくれ。交代は07:30で良いから。」



 副長

 「了解しました。ではお先に。」

 


   

           第三種戦闘配置 




           1月16日08:30




ハ-101は、南アフリカ沖を通過し、大西洋へ入った。


 

 かつて、半世紀前にロシアバルチック艦隊が通過した航路の ほぼ逆を航海していた。



 ドイツ航海士も12時間交代で通訳とともに常勤していた。



 音深手

 「艦隊音探知!、、、距離16000!」



 艦長

 「!!総員、第2種警戒配備!」



 ハ-101潜水艦の戦闘態勢要項



 第1種から始まり第3種まであった。(通常白ランプ)


 第一種=配置準備待機

 (艦内青ランプ)


 第ニ種=警戒しつつ各戦闘部署に展開し準備態勢

 (艦内黄色ランプ点灯)


 第三種=完全戦闘態勢

 (艦内赤ランプ点灯)



 ハンスはソナーを聴いていた。



 へルマン

 「英国ハ輸送船三隻当タリ一隻ノ護衛ヲ付ケマス。」



 ハンス→へルマン

 「駆逐艦ト巡洋艦、輸送船多数感度アリ!」

 

 

 艦長

 「よし、潜望鏡深度へ浮上!」



 へルマン→ハンス

 「艦首12上ゲ~ッ!艦尾8下ゲ~ッ」



 艦長

 「発動機音絞れ。微速前進。」



 へルマン→ハンス

 「潜望鏡深度到達。艦水平。」



 艦長は潜望鏡を観た。艦影12隻であった。ハンスに潜望鏡を見るように促した。



 ハンス→へルマン

 「敵ハ巡洋艦1駆逐艦3輸送船8デス!駆逐艦ガ速力ヲ上ゲテ高速接近中。」



 艦長

 「総員、第3種戦闘体制!

注水、急速潜航!艦首15下げ、艦尾13上げ。深度50で艦水平。」



 乗員が一斉に前部へ走った。



 艦長

 「前部魚雷室へ、一番から八番準備!音響探知中型魚雷を準備。雷速調節全弾43ノット。」



 黄色ランプが赤ランプに切り替わった。乗員に緊張が高まり、艦内は戦闘モード、一色に染まった。



 魚雷室[復唱]



 艦長

 「先ずは番犬共(巡洋艦、駆逐艦)を片付ける!」



 ハンス→へルマン

 「駆逐艦トノ距離12000。」



 艦長

 「調節急げ!」



 魚雷室

 「調節完了!」



 艦長

 「よし、装填したら全菅注水。」



機関長

 「深度50艦水平。」



 ハンス→へルマン

 「駆逐艦トノ距離9500。」



 艦長

 「、、、6000まで引き付ける。」



 ハンス→へルマン

 「駆逐艦トノ距離6600。」



 艦長

 「後部魚雷室へ。酸素魚雷準備。雷速45調節、発射態勢とれ。」



 後部魚雷室[復唱]



 ハンス→へルマン

 駆逐艦トノ距離「5800」



 艦長

 「一番から四番発射っ!!、、、五番から八番発射!!」




 前部魚雷室

 「一番から八番発射!」

[シュバッ!シュバッ!シュバッ!、、、]



 艦長

 「急速潜航!深度ナナマル(70㍍)。」



 へルマン→ハンス

 「艦首9下ゲ艦尾7上ゲ。」



 艦長

 「総員、対爆雷振動姿勢っ!」



 音深手

 「魚雷命中まで10秒。9、8 、、、4、 3、 2、 1 いまっ!!」



 [、、ドドドドーン、ドドーン、、、]



 音深手

 「機関寸断音。、、、全弾命中!左舷20度より、巡洋艦接近、距離およそ8800。」



 艦長

 「後部魚雷室?」



 後部魚雷室

 「注水完了!発射準備よし。」



 艦長

 「よし。そのまま待機。前部魚雷室へ、音響探知魚雷を一番二番へ、雷速45調節。調節終了したら注水、待機。」



 前部魚雷室

 「復唱、了解。」



 ハンス→へルマン

 「艦長、全艦沈メルノデスカ?」



 艦長

 「無論。食い残すのは嫌いでな。

 前部魚雷室へ、三番から八番へ中型魚雷装填!雷速45ノット調節、発射準備!」



 ハンスは[ニヤリ]と笑った。



 音深手

 「巡洋艦 三時方向より接近、距離6600。」



 艦長

 「深度フタマル(20㍍)へ浮上、面舵45度。一番、二番発射用意!」



 へルマン→ハンス

 「面舵45、、、戻セ~ッ。ヨーソロー。」



 艦長

 「一番発射!」


 

 前部魚雷室「一番発射!」

 [シュバッ!]



 音深手

 「魚雷命中まで14秒前、、、10秒前、、、5、4、3、2、1 いま!」


 [、、ズーン!!]



 音深手

 「命中。機関寸断音響を確認せり。」



 艦長

 「よし。浮上!潜望鏡深度へ。」



 ハンス→へルマン

 「潜望鏡深度到達。艦水平ヨーソロー。」



 艦長

 「、、、駆逐艦は全艦轟沈みたいだな。巡洋艦は、、、火災を起こして傾いてる、、、よし。とどめを差す。後部魚雷室、一番、二番、発射用意、、、、」



 後部魚雷室

 「用意よし。」



 艦長

 「一番、二番発射!」



 後部魚雷室

 「一番、二番、発射!」



 艦長

 「よし。輸送船団の横に付けよう。両玄全速。タービン発動機始動。前部魚雷室?」



 前部魚雷室

 「三番~八番、中型魚雷 全弾発射準備よし。」


 

 ハンス→へルマン

 「両玄全速。速力、、、!?22ノット?」



 ハンスとへルマンは速度計器を見て目を剥いて驚いた。何か計器が狂ってるのかと、、、[ヒュイイイィィーン、、、]



 タービンエンジンが唸りを上げていた。



 ハンスとへルマンが初めて聞く音響であったが、乗員も同じくであった。

 

 

 艦長

 「、、、ふぅ~っ。後は赤子の手を捻るようなモノだ。両君に任せる。至近距離まで近づいて、一発ずつで仕留めてくれ。私はちょっと休む。」



 ハンス、へルマン

 「ヤボール!(了解)一番発射用意。」



 艦長は艦長室へ入り、戦闘日誌を書き始めた。


      昭和18年1月17日 


 08:30 南アフリカ沖にて英国船団と会敵  ハ-101における初戦なり。

 

 爆雷攻撃の前に先制魚雷攻撃す。


 敵艦 巡洋艦1 駆逐艦3 輸送船8の艦隊を殲滅せり。

 

 航海、既に14300海里となるも、乗員の指揮旺盛なり。


残り3200海里余り、万難を期し、任務完遂にあたる所存。



                     

艦長 井上大尉




 [ズズーン!、、、ズズーン!]



 計八回の爆発音を聴いた艦長は[終わったか、、、]と思い、再び指令室へ向かった。



 ハンス、へルマンが敬礼し、戦闘終了報告をした。



 わずか23分間の戦闘で敵艦12隻を撃沈 重量にすれば約40000㌧だ。



 ハンス→へルマン

 「スミマセン、魚雷一発ヲ外シマシタ。」



 艦長

 「ははは、、、私は3発は外すとみてたから上出来さ。よくやってくれた。」



 ハンス→へルマン

 「、、、艦長サン、ヒトガワルイ。ワタシ、ベテランネ。一発マッスグニ ハシラナカッタ。」



 艦長

 「おうそうか?スクリューに不備があったかもしれんな。 各魚雷室へ通達、魚雷のスクリューを点検をせよ。」

 


 魚雷室

 「前部魚雷室了解。、、後部魚雷室了解。」



 艦長

 「水深ヨンマル、3舷全速前進。最高速を試みる。」



 機関長

 「3舷ぜんそーく!タービン発動機始動。」



 機関員

 [ガチャッガチャッ。]「タービン始動よーし。出力上昇中。機関音正常。」



 [ヒュイイイイイイ、、、ンンン、、、]



 ハンス→へルマン

 「速力12、、、、、14、、、17、、、、20、、、24、、、26、、、スゴイ、、、28、、、、、」



 [ヴイイイイイイイイ、、、キィンキィンキィン、、]



 ハンス→へルマン

 「速力30」



 ハ-101の船体を異常な振動が襲い始めた。



 艦長

 「よーし。タービン発動機ゆっくり圧力下げ~。第1、2発動機も出力落とせ。」



 ハンス→へルマン

 「艦長、世界記録ヲ大幅更新オメデトゴザマス。」



 艦長

 「ありがとう。ここで壊したら大変だからなぁ、、、それにしてもハ-101はスゴいのぅ!」



 ハンス→へルマン

 「ドイツニモ ゼヒホシイデス。コレガ100隻アレバ戦イハ オワリマス。」



 艦長

 「、、、日本は大艦巨砲主義なのだ。戦艦大和の建造費で1500機の戦闘機が作れて、この艦が30隻出来るそうだよ。」



 ハンス→へルマン

 「ドイツモ、ロシアニ進行シテ情況ハ ワルクナル一方デス。モスクワ近郊ノ 大工業地帯ヲ空爆デキナカッタノハ 大失態デス。ロシアノ工業力ハ、ドイツノ10倍デス!」



 艦長

 「ドイツもコイツも苦労だなぁ。ここでの話は最高機密って事にして墓場まで持っていこう。」



 へルマンはハンスに通訳し、ハンスは、にっこり笑いを返した。





            第二障


       


            初陣晴嵐 




           1月21日早朝




 ハ-101はポルトガル沖まで来ていた。ドイツまで約2500㎞  



 艦長の井上は、ここからの海域は常に危険を伴い、常に戦闘体勢となるため、戦闘機をフランスの独軍基地に先行させて機密書類と、各種設計図を届けることを優先にした。



 戦闘機パイロットの管野中尉と杉田飛行曹長は飛行服に身を包み、試作新型戦闘機[晴嵐改水上機]を整備していた。



 日本初の翼折りたたみ式の戦闘機で複座に改良してあり、

単座で

 最大上昇力12100メートル、


 最大速度677㎞(フロート無し)


 爆装最大500㎏


 武装13㎜機銃×2、25㎜砲×1


1200馬力


 フロート(浮船)切り離しが可能


航続距離 増装タンク装備で5800㎞


ナカシマ、カワサキ飛行機苦心の協同開発した最高傑作機であった。


 運動性も零戦並の旋回が可であり、機体下に45㎜砲も取り付け可、また、急降下爆撃もこなす機体の強さに軽合金防弾板まで装備されていた。



 管野

 「杉田よ、いよいよ日本初の欧州初飛行やのぅ。」



 杉田

 「はい。ブルブル、、、武者震いしますね。」



 管野

 「アホウ!気合い入れたらんかい!日本の戦闘機は無敵やさかい、英軍機のスピットバイアと、はよぅヤってみたいもんや」



 杉田

 「、、、あの、スピットファイアーですよ。ファイア、、、」



 管野

 「やかましっ!ンなもンどーでもえーわい。とにかく出合うたら、弾の有る限り全部ブチ墜としたるわ!」



 杉田

 「ち、中尉殿、任務優先にして下さいよ。」



 管野

 「解っとるわい。お前にもヤらしたるさけ、ちっと目ぇつむっとけ。」



 杉田

 「はっ!楽しみで有ります♪」

 

 

 管野

 「くぅ~っ!血が騒ぐぜぇ。1ヶ月もネズミみたいな生活やったからのぅ。」



 杉田

 「潜水艦乗りは皆凄い精神力なんだと思いました。でもやはり、死ぬなら大空が良いですね。」



 管野

 「そうだとも。戦闘機乗りは、第一次大戦から、信念を元に大空に散っていったんやさかい。」



 杉田

 「はい。

  命を粗末にするな。


  燃料が有る限り飛べ。


  弾が一発でも有れば敵を射て。   


  心臓が停まるまで戦え。


  弾が無くなれば体当たりしてでも敵を墜とせ。

  そして必ず生きて帰還せよ。、、ですね。」



 管野

 「そうだとも。命さえ有れば、また次の奉公が出来るのだ。我らは志道を貫くのみよ。」



 艦長

 「管野少尉、杉田飛行曹長、発艦準備が完了した。大陸の海岸線に沿って飛行すれば、二機のメッサーシュミットがフランス領空で出迎えてくれる手筈だ。ドイツ空軍のマークは記憶したな?」



 管野は敬礼しながら

 「はっ!鍵十字マーク間違いなく頭に叩き込みました。」



 艦長

 「よし。設計図を破損せぬように

頼むぞ。ではまた向こうで会おう。よし発艦せよ。」



 旗手が白旗を振った。



 エンジンが唸りを上げ40メートルのカタパルトから晴嵐は発艦した。  [グォオオオーーーン、、、]



 艦長以下、ハンスとへルマン、乗員10数名が帽子を力強く振って別れを告げた。



 晴嵐はハ-101の周りを旋回し、最後に翼を左右に振って地平線へと消えていった。



 管野

 「杉田、巡行速度200ノットで一時間も飛べば、フランス領空やと言うてたのぅ?」



 杉田

 「はい。右四時方向、日の出です。」



 管野

 「軍艦旗や!拝んどこか?」



 管野と杉田は朝日に向かって祈った。

 晴嵐は海岸線ギリギリを高度1000メートルで飛行を続けた。



 杉田

 「そろそろフランス領空です。」



 !!管野は一時方向を二回指差した。



 二機の機影が高速で近付いてきて、晴嵐の両脇にピタリと並んだ。



 鍵十字マーク、、、ドイツ空軍のメッサーシュミットだった。



 二人は左右のメッサーシュミットに敬礼をした。



 返礼したドイツパイロットは[こっちだと指を差して指示をした。]



 管野はうなずいて拳を半分上げた。



 杉田が無線で叫んだ。

 「太陽方向から機影8、高速接近!」



 杉田も管野も視力は並外れていて、2.0以上を目視出来た。



 真珠湾、ラバウル、フィリピンと転戦し、管野が撃墜77機、共同撃墜36機、杉田は撃墜56機、共同撃墜45機と、海軍屈指の両エースであった。



 管野は杉田が叫ぶと同時に機首を上げ、全速上昇していた。



 すでに気づいていたのだ。



 両脇にいたメッサーシュミットも数秒後に敵機に気付いて急旋回をしていた。



 二機のメッサーシュミットは、正面から撃ち合いを始めた。



 管野

 「♪空戦じゃ!空戦じゃ~っ♪♪2ヶ月ぶりじゃ~っ♪」



 杉田

 「少尉殿、浮船(フロート)と増装(燃料タンク)が重すぎますよ!回避しましょう!」



 管野は上からメッサーシュミットと英軍機の空戦を見た。



 敵はホーカーハリケーン2機と、スピットファイア6機だった。



 最初にメッサーシュミットの一撃でハリケーンが1機とスピット1機が火を噴いて離脱した。



 管野

 「おおっ、やるのぅ!あヤツら。」



 だが、メッサーシュミット1機はスピット3機から猛射を次々に受けて被弾していた。



 ホーカーハリケーン1機が晴嵐に近付いて目を白黒させていた。



[何故、日本戦闘機が?]と言った顔つきだった。



 杉田が旋回機銃で操縦席を狙い撃った。



 杉田「こん畜生めが!!」

 [ダダダダダダダダダダ、、、]



 ハリケーンはパイロットに被弾し、切り揉み回転しながら墜落していった。

 


 杉田

 「ぃやったぁ!少尉、当たりました。」



 管野

 「杉田!ズルいぞ。俺より先にヤりやがって。」



 管野は更に上昇し、高度をとった。



 杉田

 「は?!し、、少尉まさかアレをやるつもりで?(゜ロ゜;)」



 管野

 「、、ひひひ、そのまさかよ!イッたれーっ!」



 杉田

 「ひ~っ後部座席に私が居ること忘れないで下さいよう~っ!」


 

 [ウォオオオオオーンオンオン、、、]

 管野は垂直降下を始めた。



 杉田は遠心力で身体が浮きそうになっていた。



 この攻撃法は、管野の優れた身体的能力とクソ度胸で形成されていて、真似出来るのは、杉田のみであった。

 


 しかも射撃可能時間は、まさにまばたきの一瞬であるから、外したりすると手痛い反撃を受ける羽目になりかねぬ戦法だった。


 

 管野「、、、今だっ!」

 [ドドドッ!]



 直上からから25㎜砲の三連射を喰らったスピット1機は真っ二つになり、空中爆発して墜ちていった。



 管野

 「一丁上がりや!次っ。」



 急降下した晴嵐を単機でスピットの6門機銃が掃射してきたが、管野は機首を素早く返して回避した。



 メッサーシュミットが1機、黒煙を吐いてパイロットがパラシュートで脱出したのが杉田の視界にはいった。



 杉田

 「!?あっ畜生!メッサーが1機ヤられました。」



 管野

 「ちょい待て。仇とったるさけ!」



 管野は思った。軟らかい砂浜に増装と浮船を落として置けば、後で回収出来るだろうと、、、



 管野は高度25メートルまで砂浜に降下し、タンクとフロートを切り離し落下させた。



 そこはドイツ陸軍のフランス海岸防衛線のノルマンディ海岸であった。



早朝から、低空飛行エンジン音で叩き起こされた兵士たちが、各トーチカ陣地から多数出てきて空中戦を見物しはじめた。



 管野

 「うらぁっ!身軽になったでぇ!次イッたる!ナンボでも来んかい。」



 管野は機首を起こし、追尾してきたスピットを引き付け、急上昇旋回をして、背面射撃を加えた。



 [ギュギューン、、ドドドドドド、、、、、、、]



 スピットはパイロットに被弾し、低高度だったので、あっという間に砂浜に墜落した。


 

 管野

「二丁目上がりぃ♪」



 杉田

 「ひぃい~っ、、、」



 管野は直ぐ様、急上昇に入り、メッサーシュミットを追尾していた3機のスピットの背後を奪い引き金を絞った。



 管野

 「そりゃあ喰らわんかーい!」[ドドドドドド、、、]



 管野は今度は翼の根元を狙い撃ちにした。スピットは翼がもぎ取られ、切り揉みしながら墜ちた。



 管野

 「三機目じゃあ!」



 メッサーシュミットを追っていたスピット1機が、いつの間にか晴嵐の背後にピタリと着いて、射撃体勢に入っていた。



 杉田は射とうとしたが、管野は機を失速させた。



 [ガクン!]杉田「!??うわわっ!!」



 再度起こしてスピットの背後をとっていた。



 管野

 「観たか?必殺木の葉反し。」



 スピットのパイロットは、ナニが起こったのか解らなかった。



 ただ、照準器に入っていた筈の敵が視界から突然消えて背後に着いていたのだ。



 地上の兵士が拍手喝采していた。

 [わぁわぁー♪♪]



 管野

 「南無阿弥陀仏、、、」


 

 管野は無駄撃ちを避けて敵機の尾翼に25㎜を浴びせて4機目を撃墜した。



 残りの一機が逃走し始めた。



 管野

 「!?逃がすかい!」



 管野は全速で追尾し、沖合いで5機目を仕留めた。



 メッサーシュミットが横に着いて、パイロットが横に首を振りながら、何度も何度も敬礼をしていた。



 管野

 「わっはっはぁ!観たかドイツ人諸君、コレが侍の戦いよ。」


 

 落下傘降下していたパイロットに僚機が翼を振った。



 パイロットは怪我は無さそうで、手を振って[くそったれめ!]と言って悔しがってるようにも見えた。



 地上から、この空中戦を最初から観ていた将がいた。



 たまたま防御陣地の視察に来て、トーチカで部下と共に仮眠を取っていた、かの有名なロンメル元帥であった。



 ロンメル

 「、、、ぅうむ、実に見事、圧巻な空中戦であった。こんな近くで生の戦いが観られるとは感無量である。


 大迫力であった。 、、、昨日、連絡があった例の日本軍戦闘機だな?」



 副官

 「はい。翼と胴体に赤い丸標(しるし)は間違い在りません。」



 ロンメル

 「あのパイロット達と是非、夕食を囲みたい。予定を組んでくれんか?」



 副官

 「閣下、彼等はフランスのヴィラクブレー基地に1週間程、滞在予定です。明後日、元帥も基地を慰問予定ですから、何とか時間を調整出来るかと。」

 


 ロンメル

 「おおっ♪そうだったか。ワシはツいておる。アフリカでは物量にヤられたが、今の空戦を見て騎士魂に灯が再度点った想いだ。まだまだワシは枯れんぞ。」



 副官

 「はっ!必ず閣下の灯は再燃すると信じてました。」

 


 ロンメル

 「はっはっは。明後日が楽しみだ。、、、今日の実戦ショーの礼に彼等に何か上等な土産を渡したいが、何が好いだろうか?」



 副官

 「、、、日本通の友人が近くの司令部に居ますから、早速今夜にでも聞いて参りしょう。」



 ロンメル

 「おお♪宜しく頼むぞ。あ、ソレから日本戦闘機が砂浜に落としたアレ、、、何か知らんが直ぐに回収するように手配をな。」



 副官

 「ヤボール。(了解)」



 杉田

 「、、、ぅおえっ、、吐きそうです少尉。」



 管野

 「どんくさいやっちゃのう。風防開けて吐けや!あまり機体にかけるなや。」



 杉田は吐いた。腹の中の物を全部出しつくした。



 杉田

 「おえっ、、、、、やっぱり、、、、自分は操縦席が一番良いです。後ろは地獄ですわ。」



 管野

 「ワハハハ、、、とにかく1機落とせて良かったやんけ?記録に入れといたるぞ。」



 杉田

 「地上で沢山の野次馬が観てましたよ。いきなりの実戦で、一躍名を売った感じです。」



 管野

 「、、、フランス娘も観てくれたかのぅ?」



 杉田

 「、、早朝ですから、野郎共ばかりでは?」



 管野

 「だあ~っ!?次は真っ昼間にやったるぅ。」



 杉田

 「あ、ほら、基地が見えましたよ。」



 メッサーシュミットが、先に着陸し、格納庫へ着けずに司令塔前に停めた。



 パイロットは素早く降りて司令塔へ走っていた。



 晴嵐は多数のドイツ兵士や整備士、士官達の出迎えを受けた。



 メッサーシュミットのパイロットが司令塔から、私服を着こんだ若い青年を連れて晴嵐に走り寄った。



 エンジンを止めたら、パイロットが青年にベラベラベラと勢いよく話しかけていた。



 青年はどうやら通訳のようだ。



 通訳

 「彼が弟子にしてくれと、言ってますが、、、空中戦で興奮してます。あのような戦いは初めて観たそうで、脳裏に鮮明に焼き付いたと、また、見事な戦いだったと、、、」



 管野は操縦席から軍刀片手に降りながら頭を掻いて、「ワシみたいなパイロットは日本に掃いて捨てるほど居ると伝えたりぃ!」と、言い放った。



 あっという間にドイツ兵士の人だかりが晴嵐を取り囲んだ。



 皆が我も我もと、握手を管野と杉田に求めてきて二人は、もみくちゃになった。



 ドイツ軍の報道班がカメラで撮りまくっていた。



 尾翼に集まってた兵達は、ナニか臭そうに鼻をつまんでいた。杉田の吐いた汚物が尾翼にかかっていたようだった。



 杉田は、工具で胴体の横蓋を開けて各種設計図を取り出した。



 憲兵が20名程現れて、人垣を整理し始めた。



 管野と杉田は何故、こんな騒ぎになったのか分からなかった。



 通訳と共に基地司令官の応接に通されて、いっとき待たされた。



 司令官の副官が、入ってきた。



 かかとをビシッと合わせ鳴らし、「ハイルヒトラー!」と右手を伸ばして挨拶を交わした。



 管野と杉田もバシッと気をつけの姿勢から海軍式敬礼を交わした。



 副官→通訳

 「騒ぎになって大変失礼しました。基地司令官が不在中なので私が説明させて頂きます。


 実は、ノルマンディー海岸に視察に来ている陸軍のロンメル元帥が空中戦をたまたま見掛けまして、基地に連絡をしてきましてね。


 あと、迎えのパイロットからの無線連絡も神業を観たと、興奮気味で、、、話が伝わり騒ぎが大きくなったのですよ。」

 


 管野と杉田は納得した。



 副官→通訳

 「それで元帥は明日この基地を視察予定なので、是非とも貴君らと夕食を捕りたいということです。」



 管野

 「杉田よ、かの有名なロンメル元帥だとよ、、、超大物やん?」



 杉田

 「身に有り余る光栄ですね。好い冥土の土産話になりますよ。」



 副官→通訳

 「で、日本軍パイロットの武勇伝を是非とも聞かせて欲しいという訳です。


 元帥は多忙ですから、30分くらいで退席すると思いますが、ドイツの新聞には大々的に報道されるでしょう。」



 管野

 「心得ました。元帥との謁見が楽しみであります。」



 管野と副官は握手を交わした。



 管野

 「あー、、風呂へ早く入りたいんだが、よろしいかな?1ヶ月入って無くて臭くてかなわんのやが、、」



 通訳→副官

 「はっはっは。直ぐにシャワーへ案内します。その後、直ぐに軍の報道班と面会を40分くらいお願いします。


 あとは夕方まで御休みください。夜は晩餐会を予定してますから。」



 管野

 「貴国の御配慮に感謝します。」



 杉田は、思わず吹き出しそうに口を押さえた。



 管野は普段から、隊内、戦地問わず素行が悪く、上官にも思い切り自分の意見を述べるタイプであり、大胆不敵かつ、豪勇無双な男であったからだ。



 酒は殆んど飲めないが、無類の女好きであり、隊内では[荒種馬]と呼ぶ上官も居たくらいだった。



 そんな管野が異国で真面目な会話をしていると、笑いが込み上げて来るのである。



 しかし、管野は空戦では絶対的信頼があり、部下の面倒見も良く、腕も群を抜いており、尊敬する部下は、数多く居たくらいだった。



 また、部下に対して決して鉄拳制裁をせず、口頭にて叱責注意するだけであった。



 部下が他部隊と喧嘩をすると必ず仲裁に入り、部下が憲兵に連れて行かれると、一人で憲兵隊本部に乗り込んで部下を連れ戻したりもした。



 杉田は、そんな管野に男惚れし、地獄の果てまで付いていくと、言い出し、現在に至っていた。



 ドイツに往かせるなら、日本屈指の実績の有る、恥じないパイロットをと選抜された経緯であった。



 杉田

 「わははははは、、、少尉が真面目な会話をしてると、可笑しくなります。」



 管野

 「やかましっ!好きで言うてんちゃうわっ!」



 通訳

 「???、、今の日本語よく解りませんが?」



 杉田

 「関西弁という方言ですよ。」



 管野は杉田に耳打ちした。



 [おい、女は抱けんのか聞いたれや。]



 杉田

 「え"~っ?日本の恥になりますよ?」



 管野

 「かまへん。いつ空で死ぬか判らん身じゃ!外人娘と、一戦交えたい。」



 通訳→副官→通訳

 「、、、ワハハハ!女が入り用ですか?解りました。明日の会食後に若いフランス娘を二人御用意致しましょう。副官もかなりのスキモノですから(笑)



 管野は思わず拳を上げて歓び、副官に抱きついた。



 管野

 「流石にドイツじゃ!話が分かる。」



 杉田は片手で顔を押さえて恥ずかしそうにした。



 通訳

 「私は隣の部屋に常に居ますから、なんなりと御用は仰ってください。では、また今夜」



 二人が去って管野は、子供のようにはしゃぎ出した。



 管野

 「明日はフランス娘とオ〇コ~♪嬉しいなっと♪」



 杉田

 「、、、私は顔から火が出るほど、恥ずかしかったですよぉ。」



 管野

 「えーやんけ。お前もいよいよ童貞とおさらばやで!、、命令じゃ。見事突撃して散ったれ!」



 杉田は先が思いやられるとおもった、、、、、



 管野

 「?!せや、機体をかたさなあかんやん?」 



 杉田

 「ドイツのパイロットが格納してるんじゃないですか?」



 管野

 「アホッ!ヘタされて壊されたら、どないすんね?」



 管野は走って滑走路へ向かった。



 通訳が慌てる管野を見て、直ぐに後を追いかけた。



 杉田も走って管野を追いかけた。



 晴嵐は整備士が数人で機体を洗浄してくれていた。



 管野

 「おーっ。ありがと、ありがとねー♪」


 

 整備士→通訳

 「日本の戦闘機、ちょっと臭ったので洗いましたと(笑)」


 

 管野

 「ぁあっ!?そりゃ、コイツのゲロのニオイだて。」



 通訳→整備士

 「、、、あっはっはっはぁ。」



 管野

 「ドコか、格納庫へ移動させるんけ?」



 通訳

 「16番へ入れてください。」



 管野

 「杉田やっとけ!」



 杉田

 「はいっ!」



 通訳

 「明日にでも今日落下した物が全部届くそうですよ。」



 管野

 「おう、忝ない!アレが無いと水上に離着水が出来ひんからのぅ。」



 通訳

 「ロンメル元帥が直ぐに回収するように伝えたそうですよ。」



 管野

 「、、、そこまで御覧になられてたのか?明日礼をのべなきゃいかんわなぁ。」



 


           夕方6時





 ヴィラクブレー基地司令官が昼に帰隊し、管野、杉田の武勇を聞いて、大いに歓び、夕食に招待された。



 ヒトラー総統より祝電までが入って、管野と杉田は恐縮した。



 二人はドイツ料理に舌づつみをうち、女性の歌声を堪能した。



 杉田は酔っ払い、管野を引っ張って壇上に上がり、[同期の桜]を熱唱し始めた。



 ドイツ将官達は拍手喝采した。



 歌好きな副司令官も壇上に上がってきて管野と杉田の間に入り、肩をよせ合い唄った。



 最後は将兵全部が、ドイツ空軍歌を熱唱して御開きになった。



 管野

 「杉田よ。いま何時だ?」



 杉田

 「日本時間なら夜中のニ時ですが?」



 管野

 「ほーか、、、」



 通訳

 「お二方、副官が今夜女性は、どうかと聞いて来いと仰ってますが。?」



 管野

 「!!?ななんと、今夜?」



 管野の目の色が変わった。



 通訳

 「隣のホテルにフランス女性を二人待機させてるそうです。お疲れなら明日にさせますが、、、」



 管野

 「いやいやいや!ヤる。ハメる。入れる。オメコする。なぁ杉田よ!」



 通訳

 「???えっ???ムズカシイ日本語ですね。」



 杉田

 「御好意に甘えるそうです、、、」



 管野は膨らんだ股間を押さえていた。



 杉田

 「、、また始まった、、、」


 

 通訳

 「では、外へ行きましょう。」



 管野は気をつけをし、通訳に敬礼をした。、、、




 



 翌朝、早朝から基地内が騒がしく、杉田は目覚めた。



 [そうか、今日はロンメル元帥の視察だから、起床ラッパ前に準備だな?]


 

 隣を見ると管野は、まだ高いびきをかいていた。



 杉田は整備服を着込み、格納庫へと向かった。



 格納庫付近は大掃除をしていた。



 通訳

 「グーテンモーゲン杉田。早いね。」



 杉田

 「??ぐ、ぐーたらもうげん?」

 


 通訳

 「ハッハッハ。今日の私は多忙になりそうだよ。」



 杉田

 「、、いや、身体がナマる!ナニかさせてくれ。」



 通訳

 「、、、そうか、ならば晴嵐を出してあの位置へ並べてくれ。」



 杉田

 「了解。」



 飛行場の戦闘機、爆撃機、偵察機、輸送機などが、既にピシーッと綺麗に整列していた。



 横から視ると、寸分の狂いもなく排列されていた。



 杉田

 [これぞ、精強ドイツ空軍だな。]



 軍隊では、ナニを並べるのもピシッと歪みのない配列をする。1センチでも歪みや、出っ張りが有れば、何度でもやり直す。揃うまで永遠にやる。人にしても車輌でも、飛行機も例外ではない。



 それを視て軍隊の資質と精強さが判るのである。

 現代の企業にしても全く同様だと言えよう。


 

 管野が頭をボリボリ掻きながら飛行服を着てやって来た。



 管野

 「おーっ。素晴らしい!見事に並んで圧巻やの。」



 杉田が晴嵐を格納庫から出して、ゆっくり滑走してきた。



 管野は誘導をした。



 管野

 「ドコヘヤるんかの?」



 整備兵が[こっちこっち]と、指を指して手招きした。

 


 石灰で書かれたラインへ晴嵐を付けた。



 管野はドイツ機と合わせて歪みが無いか、離れて再度確認した。



 整備兵が良好サインを出した。



 杉田はエンジンを停めた。



 「少尉、おはようございます。」



 管野

 「おおッス!杉田よ。実に壮観な眺めやなぁ。、、、、、ゆんべのオナゴは、好かったのぅ」



 杉田

 「はい。空戦より、緊張しちゃいまして、ナニがナンだか(笑)、、、整列は素晴らしいですが、いま空襲されたら、全滅間違いなしですね。」



 管野

 「ドイツには最新レーダー電探が有るんやで、その前に迎撃出来るやろ。」



 通訳

 「管野少尉、おはようございます、、、実は司令からお二人に観閲式に出て頂きたいと、御願いがあったのですが?」



 管野は敬礼しながら

 「無論です。喜んで参列さしてもらいまっさ。のぅ杉田」



 杉田

 「はい。天下のロンメル元帥ですしね。」



 通訳

 「感謝します。司令に早速報告してきます。」



 [ピーーーッ!]笛の合図と共にドイツパイロット達が一斉に駆け足で飛行機の前に整列し始めた。



 管野

 「杉田行くぞ!」



 二人も晴嵐の前に整列した。



 副官が閲兵を始めた。



 副官は管野達の前で立ち止まり、ウィンクをした。



 管野と杉田は真っ直ぐ前を見たまま不動の姿勢で、管野が[敬礼!]っと命じ、二人が副官に敬礼をした。



 副官→通訳

 「昨日は大変御苦労であったと、、、体調に差し障りは無いかと?」



 管野

 「はっ!有りません!大変有り難く美味しく、ご馳走になりましたっ!」



 杉田は笑いをこらえた。



 通訳→副官

 「それは良かったと申されてます。私がもし、日本へ行った時は宜しく頼むと、、」



 管野

 「はい。飛びきりの美人を御用意致しまして、御待ち申し上げてます、、、です。」



 杉田は我慢出来ずに後ろ向きになってしゃがんでしまった。



 通訳→副官

 「、、、うんうん。」



 副官はニッコリ笑って閲兵を再開した。



 座ってしまった杉田を視て副官に付いていた参謀が聞いてきた。



 「彼は気分が悪いのか?貧血か?」



 通訳 

 「はいっ?いやその、、問題有りません!」



 参謀

 「そうか、?本番では座り込む事が無いようにな!」



 通訳

 「伝えておきます。」



 観閲訓練が終わり、管野は気付いた。

 晴嵐の機体には撃墜マークが6個が描かれていた。



 管野

 「杉田見ろよ!」



 杉田

 「、、、少尉はドイツでもエース(5機撃墜の称号)になったのですね。」



 管野

 「杉田、次の空戦は任すからな。」

 

  

 通訳

 「観閲式は、10:00からですから、それまで、ゆっくりして下さい。あと、司令官から、一つお願いが、、、」



 管野

 「なんです?」



 通訳

 「司令官から、模擬空戦をお願い出来ないかと、、、」



 管野

 「心得申した。杉田!任せるぞ。」



 杉田

 「はい!分かりました。」



 通訳

 「有り難い。宜しくお願いします。我が空軍は3機予定で、全員が70機撃墜以上の猛者ですが、よろしいか?」



 管野

 「10対1でも構わないよなぁ杉田!?」



 杉田

 「また、そんな無茶を、、、多数で模擬空戦やったら味方同士で衝突ですよ。」



 通訳

 「余裕ですね。ではお願いします。」



 


        午前10時




 ロンメル元帥が到着。観閲式が始まり、閲兵が始まった。



 左端からロンメルがゆっくりと徒歩でパイロット達を閲兵し始めた。



 最右翼の日の丸晴嵐の前に元帥が来て足を止めた。



 ロンメル

 「昨日の空戦をやってのけたのは、どちらか?」



 通訳

 「はっ!向かって右側の管野少尉であります。」



 ロンメル

 「、、そうであるか、、」



 ロンメルは直立不動の管野のに近づき、顔を近づけて来た。



 ロンメル→通訳

 「貴君の昨日の見事な戦いに感服した。日本の侍らしく、天晴れであった。今夜の食事会で是非武勇を聞かせてくれたまえ。」


 

 管野→通訳

 「はっ!身に余る光栄であります。」


 

 ロンメルは管野と杉田に握手した。



 従軍記者が写真を撮りまくり、八ミリキャメラの記録映像も撮られた。


 

 ロンメル

 「今日の模擬空戦は管野がやるのかね?」



 副官

 「いえ。杉田がヤるそうです。」



 ロンメル

 「そうなのか?」



 副官

 「杉田は管野の教え子でして、技量的にも変わらないと聞きました。」



 ロンメル

 「それはまた、楽しみだ♪」



 ロンメルは上機嫌で閲兵を終えて、来賓席に座った。



 一人のドイツパイロットが小走りに晴嵐に近づいた。



 通訳

 「昨日撃墜された、ラインダース少尉です。」



 ラインダース

 「昨日はヤられたが、今日は負けないぞ。宜しく頼む」



 杉田、管野と握手を交わして行った。



 フォッケウルフ三機が空に舞い上がった。



 通訳

 「下から審判が6名で判断します。背後を5秒間取られたら撃墜と見なすルールだそうです。」



 杉田

 「了解!あれ?管野少尉、後部座席が空いてますが?」



 管野

 「お前のケツなんぞに乗ったら、ゲロまみれじゃ!全部叩き墜としてこんかい!」



 杉田は黙って拳を挙げた。



 [ブォオオーン、、、、、、]



 晴嵐は地面を蹴って飛び立った。



 杉田は上がって直ぐに切りもみ飛行をし、小回りな旋回運動、曲乗りを魅せた。



 ロンメル

「むぅ、、、手足の如く自由自在に飛行機を操りおる。我軍の戦闘機は、あれほど運動性は無いのではないか?」



 基地司令官 

 「恐るべき性能ですが、馬力と加速力は我が戦闘機のが勝ります。あとはパイロットの技量でしょう。」



 ロンメル

 「成る程。おっ!始まったな。」



 模擬空戦が開始された。



 フォッケウルフは、ふた手に分かれた。



 晴嵐は先ず単機の方を狙うフリをし、急旋回して二機の背後を取ったが二機は左右に散った。



 杉田はそれを先読みしていて、左の機に付いて撃墜。



 背後を5秒取られたフォッケウルフは離脱着陸した。



 晴嵐は、間髪入れずに単機だったラインダースと正面から、全速で擦れ違った。



 地上から大きな歓声が湧いた。

 [おおおーっ!]



 ロンメル

 「まさに騎士と武士の闘いだ。素晴らしい!パチパチパチ、、、」



 晴嵐は、上部から加速してきた一機を急上昇旋回で、あっさり交わして二機目を仕止めた。



 杉田

 「残るは、ラインダースだな、、、ちょっと遊ぶか、、、」



 杉田とラインダースは、ぐるぐると背後の奪い合いを始めだした。



 地上の観覧者達は、ハラハラしながら観てたが、自分まで眼が回りそうになってしまいそうだった。



 観衆

 [ドッ!おおっ!?]




 二機は、10回転程、旋回し、根負けしたラインダースが旋回を止めて勝負が決着した。


  

 ロンメル元帥は、拍手喝采した。



 「あの者達に、是非空軍を指南して欲しいものだのぅ。ゲーリングに話を通してやろう。」



 司令官

 「ははっ!是非とも元帥の口添えを御願い致したいです。」


 

 二機は着陸したが、興奮した観衆が取り囲み、大変な騒ぎになっていた。



 杉田と管野は従軍記者が、通訳を通じて質問責めにあった。



 ロンメルが近寄り、「今夜の食事を楽しみにしてる。」と通訳を通じて言った。



 ふたりは気を付けをして、元帥を見送った。




    

         ドイツへ入国す




 艦長の井上は、陸軍兵5名を呼び出し話をした。




 艦長

 「、、、君達は既に内地では戦死扱いになってるはずだ。恥を忍んで帰国するか、ドイツに残って連合国と戦うか、選択は任せる。」  


 広瀬

 「わたくしはドイツでロシアと戦う決意をしてます。、、、皆はどうするか?」



 山中

 「小隊長に死ぬまで付いてくに決まってますがね。なぁみんな!」



 真田、山路、吉村

 「おおうっ!」



 広瀬

 「、、、御覧の通りです。」



 艦長

 「分かった。君達の健闘を祈る。入港前に連絡して、受け入れ先を確保して貰うからな。」



 広瀬

 「御願いいたします。」

        

         




 数日後、ハ-101は、キール軍港にゆっくり入って来ていた。



 艦長以下乗員は、正装し甲板に2列で並び、艦長、副長は艦橋から敬礼をしていた。



 ドイツの軍楽隊が日本の軍艦マーチを奏でて、続いて海ゆかばを演奏し、乗員は感無量に感激していた。



 接岸すると、早速基地司令官が出迎えてくれた。



 通訳

 「長い旅の無事到着を御祝いします。総統閣下より、祝電も入ってます。荷作業が終わったら、食事をしましょう。」



 艦長

 「貴国の配慮に痛み入ります。宜しくお願いいたします。」



 副長の指揮で直ぐに荷役作業が始まった。ドイツがもっとも欲していた、天然ゴムなどが、次々に卸された。



 ドイツの魚雷も10本程、早速積まれた。



 艦長は基地司令官の部屋へ招かれていた。



 晴嵐の管野と杉田の活躍が大きく掲載された新聞を見せられ、井上は驚いたが、自分達の活躍の記事も掲載されていて、更に驚いた。



 基地司令官→通訳 

 「ドイツのワインで乾杯しましょう。貴国の武士の活躍は実に素晴らしい!総統も、ことのほか、お喜びしてます。また、物資に感謝してます。乗員の方々には、戦時下では、有りますがベルリンを御案内致しますので、御ゆるりと観光を楽しんで行ってください。」



 艦長→通訳

 「ご配慮、大変感謝致します。まだ、帰途が有りますから、派手には観光を楽しめませんが、乗員には楽しませてやりたいかと、思っておりますので、宜しくお願いいたします。」



 基地司令官→通訳

 「解りました。今夜はパーティを儲けて有りますので、副長と航海長共々、出席をお願いします。」



 艦長

 「承知しました。ありがとうございます。あと、陸軍兵5名の受け入れを御願いしてありましたが?」



 基地司令官

 「連絡は受けております。明日に訓練過程学校より、士官が参ります。」



 井上は基地司令官と堅く握手を交わした。



 基地司令官は部屋を後にした。



 通訳

 「お伝えします。ミュンヘン号ですが、地中海の港を出て、いま。フランス沖に達してるそうですから、明日の夕方には到着する予定だそうですよ。」



 艦長

 「おおっ!そうですか。良かった良かった。」



 通訳

 「基地内を見学なされますか?」



 艦長

 「はい。是非、お願いします。」



 通訳は、基地内の広報幹部将校のハンシュタイン大尉を紹介した。



 ふたりは挨拶を交わし、軽く珈琲を飲んでから基地内へと向かった。

 


 ハンシュタイン

 「では、御案内致します。参りましょう。」



 そこへ駆け足で連絡員がやってきて、なにやらハンシュタインに耳打ちをしていた。



 ハンシュタイン→通訳

 「井上艦長、日本大使館の栗田大使がおみえになられました。いまから、面会してください。」



 艦長

 「そうですか、分かりました。」



 通訳

 「どうぞこちらです。」



 井上はハンシュタインに礼を述べて一旦別れた。



 通訳は司令部の応接室に井上を通した。



 通訳

 「では、私は隣室に居ますので。」



 艦長

 「ありがとう。」



 栗田

 「やあやあ、初めまして在ドイツ大使の栗田です。遠路遙々御苦労様です。」



 艦長

 「井上です。早速で、性急なんですが、大使に御願いが有ります。実は航海途中で、、、」



 井上はインドネシア沖で回収した5名の事を説明した。



 栗田

 「、、、なるほど、、、で、その5名はドイツ軍に編入して、ロシアと戦いたいという事なんですな?」



 艦長

 「はい。彼等は死より名誉を重んじておりますし、決意は堅そうです。この希望が通らずば、5名とも自決するは間違いないでしょう。」



 栗田

 「、、、解った。総統側近のゲッペルスに御願いしてみよう。大本営には一応、生存連絡してみるが、恐らく死んでこい。と云うような返答が来るだろうな。」



 艦長

 「はい、、、私もそう思います。」



 栗田

 「了解した。彼等の事は、私に一任したまえ。ゲッペルスとは親しいから、なんとかなるでしょう。」



 艦長

 「感謝します。御願いいたします。これで私も肩の荷が下りました。ですが彼等は、歴戦の猛者揃いですから、必ず日本へ戻ると思います。」



 栗田

 「私もニュースで聞いてるからね。簡単には死なない連中だよキミ。」



 艦長は、しばらく大使と雑談を交わした。



 その夜、盛大な歓迎パーティーが開かれ、杉田、管野もフランスから飛んできて合流していた。

 


 艦長

 「杉田少尉、管野曹長、しばらく。端から大活躍しとるなぁ?」



 杉田

 「あ、これは井上艦長殿、その節は御世話になりました。」



 管野も井上に敬礼をした。



 艦長

 「流石に日本が誇る撃墜王だ。、、、君達はドイツに留まるのかね?」



 杉田

 「、、、私は出来れば、祖父の仇である赤軍と戦いたいのですが、本国の許可が下りるか微妙ナンです。」



 管野

 「私は杉田少尉殿、次第で地獄まで共をするだけです。」



 艦長

 「そうか、西沢上飛曹も明日には紫電と共に合流するそうだし、3人でよく協議したまえ。私的な意見を云えば、残った方が良いだろう。陸軍の5名とも残留するそうだ。」



 杉田

 「それならば、尚更残留したいですね。」



 艦長

 「うむ、深海に沈むより賢明な選択だ。生きて再び会えたなら日本で会おう。」



 杉田、管野は、井上と堅く握手を交わして別れた。



 パーティーは賑やかに夜遅くまで続いた。



 


 翌日早朝、SS(ナチス親衛隊) 士官学校(ベルガー大尉)と傭兵学校(シュルツ中尉)、特殊部隊養成学校(スコルツェニー中佐)から、教官が3名やってきた。



 立ち会い通訳にはへルマンが就いた。



 広瀬達の希望としては、1ヶ月の短期でドイツの対戦車兵器の使い方を覚えて、直ぐにでも東部戦線に出して欲しいという事であった。



 スコルツェニー中佐→へルマン

 「、、、話は概ね解りました。貴殿方は柔術、空手などを習得されてると聞いてます。模範技を是非とも見せて頂きたいと、用意して来ましたので御願いします。」



 広瀬

 「、、、分かりました。真田、山中準備せよ。」



 山中、真田

 「ゥオッス!」


 

 厚さ20㎜の板が30枚に赤レンガが20個程、ビール瓶5本が準備されていた。山路と吉村は、それぞれレンガと板を持って、それを種も仕掛けも無いモノである証明の為に教官達に触らせた。


 ベルガー

 「あの硬い板とレンガを割るのか?まさかな?」



 シュルツ

 「、、、ハハハ悪い冗談だろう?」



 スコルツェニー

 「黙って観ておきたまえ。君達は今から神業を視て仰天する事になる。」



 ベルガー

 「中佐、もし、日本人が、あの硬いレンガを素手で割ったら、今夜10杯でも20杯でもオゴリますよ。」



 シュルツ

 「私も一口乗りましょう。」



 「その言葉忘れるな。へルマン、君が証人だ。」



 へルマン

 「畏まりました。私も割れない方に一口賭けましょう。」



 山中は上半身裸になり、全身鋼のような筋肉を露にした。



 「きええーっ!!はっ!むーっ!つぁ!とぉっ!」



 山中は空手の型を演武し始めた。


 正面正拳突き


 拳払い


 後ろ廻し蹴り


 手刀技


 跳び蹴り



 スコルツェニーは「見事だ。」と拍手した。



 他の3人には、ちょっと変わったダンスにしか見えて無かった。



 [ドヤドヤドヤ、、、]基地司令官と非番の部下が100人程、見学にやってきた。



 スコルツェニー

 「気をつけ!!」



 司令官

 「休め。、、、あ~っ、そのままそのまま、続けてくれたまえ。」



 山中は司令官に一礼をして、型を続けた。



 山中を中心に三角ん作り、吉村は板を中段に構え、山路はレンガを中段に、真田は板2枚を上段に高く構えた。



 広瀬は通訳に耳打ちした。



 へルマン

 「皆さん、レンガなどの破片が飛び散るので気をつけて下さい。」



 山中は呼吸を整え[す~~はぁ~~す~~はぁ~~、、、、]集中力を高めていた。



 シーンとした緊迫の中の それは一瞬の気合いだった。


 

 山中

 「きええーっっっ!」 右正拳突き。[バキッ!]



 「とりゃーっ!」 左正拳突き。[ガツッ!]



 「とあーっ!」 右足跳び蹴り。[バキバキッ!]



 僅か5秒の間で板3枚レンガ一個は真っ二つに割られた。



 [どおおっ!!]観衆のどよめきが起きて、大拍手が続いた。



 [ヤられた!!]3人の教官は目を剥いて驚愕していた。いた。



 山中はへルマンに再びナニやら耳打ちし、へルマンは二人の兵士に何かを頼み、二人の兵士は外へ消えた。



 へルマン

 「誰か、この日本兵に仕合を挑む者は居ないか?、、、何なら手足を折っても構わないそうだ。」



 [ざわざわざわ、、、]



 二人の巨漢が前に出てきた。二人共に身長2メートルを超え、体重も100キロ以上の大男であった。



 [わぁ~~!]と、大歓声が湧いた。



 普段、沈着冷静なスコルツェニー中佐はゾクゾクワクワクし、血が沸騰する思いだった。



 へルマンは硬い床にマットを二重に敷かせた。兵士の怪我を避けるための配慮である。



 広瀬

 「真田、貴様一人ヤりたいか?」



 真田

 「はいっ!是非♪♪」



 広瀬

 「よし、行けッ!」



 へルマン

 「噛みつきや、目潰しのみ反則。降参はマットを2回叩く事とする。」



 山中の身長は178センチ、体重は75キロだが、日本兵の中では巨漢の方に入る。

 

 

 広瀬が審判を務めた。



 兵士達

 「カール軍曹、ぶっ倒せ!軽くひねってヤれ~っ!相手は小さいぞ!」などとヤジが飛び交った。



 広瀬

 「始めっ!」

 


 山中 

 [なんと、デカイヤツだのぅ、、、どう料理するか、、ちょっと見せ場を作ってヤるかな?]



 カール

 「ぅおおお~っ!!」



 カールは山中を掴み、軽々と真上に持ち上げ、放り投げようとしていた。その一瞬、山中はカールの首に足を絡めカールの身体を引き倒して、首4の字堅めを決めてしまった。



 カールは腕力で山中の足を外そうと、必死にもがいたが、タップする前に泡を吹いて落ちてしまった。



 広瀬

 「勝負有り!」



 観衆

 「お~っ!?」



 山中は落ちたカールに背中から、渇を入れてカールを正気に戻した。



 「スゴいぞ日本人!」大きな拍手が起こった。



 真田がマットに上がり、基地随一の力持ちのグスタフ軍曹がマットに仁王立ちした。



 真田の身長は167センチで、グスタフが205センチ、まる大人と、子供のようだった。



 広瀬

 「始めっ!」



 グスタフはニヤニヤ笑いながら、真田を掴み、投げ飛ばそうしたが、真田は投げられる度に身体をひねって立ち、グスタフの懐に入って一本背負いを決めていた。



 グスタフはなにが起こったのか、分からないままに投げられていた。



 「!?わああ~っ!パチパチパチパチパチパチ、、、、」



 二人の兵士が石とニンジンを持参して戻ってきた。



 広瀬は上半身裸になり、レンガの上に石を置いて、手刀で次々に石を割り出した。



 「せいっ!せいっ!せいっ!」



 [バキッ!バキッ!バキッ!]



 石の割れる音に観衆は驚愕していた。



 スコルツェニー中佐は興奮して身を乗り出していた。



 シュルツもベルガーも口を開けて茫然と観ていた。



 山路が日本刀を抜いた。



 吉村が両手にニンジンを長く持ち、山路が気合いと共にニンジンを左右から、、ぶつ切りにした。



 山路

 「りゃりゃりゃりゃあ~っ!」



 [スパッスパッスパッ]と、切られたニンジンが兵士達に飛び散り、兵士達は、その切り口を視て仰天していた。



 山路は刀を構えて、山中に対峙した。



 建物内に緊張感がはしり、[シーン]と、空気が張り詰めた。



 山路

 「とりゃー!」



 上段から、山中目掛けて刀が振り下ろされた。「ヒィイ!」数十人の兵士は目を背けた。



 山中

 「はぁっ!」



 山中は両手で白刃を挟み、刀を山路から、奪い、蹴りを一撃加えた。



 [おお~っ!?パチパチパチパチパチパチ、、、]



 広瀬→通訳

 「此れにて、模範演武を終わります。」



 再び大拍手が起きて、兵士達は大喝采し、大興奮しながら、退出して行った。



 基地司令官(ロンシュタット少将)は大感激し、日本兵一人一人と、握手を交わして「サーカスより見事な演武だった」と感激していた。



 ベルガー

 「欲しい!彼等は是非ともSSの格闘教官として迎えたい。」



 シュルツ

 「いや、彼等は外国人ですから、傭兵学校にこそ相応しい。うちで預かりたい。」



 スコルツェニー

 「何を言うのだ!彼等は特殊部隊に必要不可欠な人材だ。わが隊に来てもらう。」



 ロンシュタット少将

 「これはこれは、、、大変な争奪戦になってしまったモノだな~っ。海軍にも欲しいが、、却下されるは間違い無いから、辞めておこう。後は当事者同士で話し合いしなされ。」



 広瀬は通訳のへルマンに争奪戦が始まった事を伝えた。



 広瀬は気持ちは嬉しいが我々はモノではないと、怒りを露にし、へルマンに伝えた。



 へルマンは、とりあえず、ドイツ語を1ヶ月習わせ、それから配属先を決めてはどうかと意見してみた。



 スコルツェニー

 「確かにドイツ語を話せねば、何かと支障が有る。皆もそれで良いかな?」



 シュルツ、ベルガー

 「意義なし、では1ヶ月後に!」



 広瀬

 「、、、我らは、一体どうなるのか?」



 へルマン

 「まぁ、なるようになるでしょう。ひょっとすると、国防軍司令部からも誘いの手が来るかもしれませんが、、、」



 山中

 「早く戦場に出たい!身体かナマってしまう。」



 へルマン

 「しばらくドイツ観光でも楽しんで下さい。お呼び出しは、それから対処しましょう。」



 広瀬

 「まぁ、井上艦長の話では、大使の栗田から、ドイツの有力な御偉いさんに頼んでくれたらしいし、その内お呼びがかかるだろう、、、皆、しばしの辛抱だ。」



 


 翌日から五名は、ベルリンに移送され、ヒムラー長官と面会 



 長官は空手と柔道を見学され、大いに喜ばれ、彼等を2ヶ月間、格種戦闘学校へ分散、その間彼等は、ドイツ製武器の取り扱いを覚え、またドイツ語の勉強もさせられた。



 そして1943年4月ついに念願の東部戦線への配属が決まった。



 は-101は無事に日本へ到着。



 杉田、管野、西沢は、撃墜数を競いあっていたが、西沢が戦死し、杉田は重傷、管野は晴嵐の故障で、勝手のいかないドイツ機での戦いに明け暮れていた。



 ベルリンの病院に入院していた杉田を五名は見舞い、東部戦線行きを伝えた。



 五名の配属部隊は、精強SS第7装甲擲弾連隊 第1中隊 第3小隊となった。



 尚、第3小隊長は広瀬が率いる事になり、小隊は18~21歳の新兵ばかりであった。、


 

 だが、新兵ばかりでは何かと不都合なので、実戦で、実戦経験の有るドイツ兵の伍長と軍曹が各分隊に2名ほど、配属された。



山中が第3分隊長、真田が第4分隊長で山路と吉村は、小隊長の直属となった。



 


        第十話 ロシアの最前線へ




 [ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、、、、]



 広瀬一家は汽車に揺られて東へ東へと向かっていた。



 三日目には、広大な大地の あちこちに黒煙が立ち上ぼり、火薬と肉の焼ける匂いが鼻を突くようになり、いよいよ最前線が近くなって来たのだ。

 


 山中

 「少尉殿、いよいよ懐かしの戦場に来ましたね。腕が鳴ります。」



 広瀬

 「、、、俺達は、生きてはいるが、実際は死人だ。だが、貴様たちは一人たりとも死なせるつもりは一切ない。必ず祖国の土を再び踏ますつもりだ。だから、命を粗末にしてくれるな。」



 山中

 「広瀬一家は、皆不死身です。なぁみんな!」



 真田

 「そうですよ。」



 山路

 「簡単には死にません。」



 吉村

 「小隊長に殉じます。」



 [総員、下車準備にかかれ。総員、下車準備にかかれ。]



 広瀬

 「よしっ!野郎共、ロスケをやっつけに行くぞ!」



 全員

 「おうっ!!」



 広瀬は駅に降り立ち、直ぐに現地士官を探し、現地の戦況と情勢を聞いてみた。



 現地の少尉

 「戦況?大きな声では云えないが、どうもこうも無い。敗走だよ。軍は混乱しつつ、カタチを成してない部隊もある。北も中央も南方軍集団も後退を始めてるそうだ。」



 「2月のスターリングラードの第6軍の降伏でで、流れが代わってしまった感じだ。」



 広瀬

 「、、、ありがとう。よく分かった。」



 現地の少尉

 「、、、君らは見たところ、アジア系だが、義勇軍か傭兵なのか?」

 


 広瀬

 「ふっ、、、SS死人部隊さ。ロシア兵に会ったら、云っといてくれ。太平洋から、死神が東欧の お前達を殺しにやって来たとね、、、」



 現地少尉

 「、、、ん、て事は君達は、日本兵?」



 広瀬は小隊をまとめ、中隊に合流した。新兵達は、モタモタと動きが鈍かったので、大声で渇を入れた。


 

 連隊長 オットー.リッヒ、中隊長 ハルス.マイアーは、歴戦の猛者であった。

 二人は鉄十字勲章を授賞している。



 広瀬達が到着した場所は、中央軍集団で、ハリコフ付近であり、奪取、奪回されを繰り返していた。



 既にドイツ軍の戦線は崩壊しつつあり、局地的に反撃はあるものの、後退をが始まっていた。



 だが、ヒトラーと、軍令部は夏季の大攻勢を計画中であった。



 マイアー

 「ヒロセ、連隊長の作戦説明があるそうだ。集合しよう。」



 連隊長

 「諸君、我軍は近々大攻勢に出る予定だ。反撃は士官の諸君の双肩にかかっていると思え。各員、鉄十字を手にするつもりで粉骨砕身努力せよ。」


 

 全員

 「オオーッ!」



  


      

 



 


 

 




 






 


 





 






 

 



 

 



 



 

 


 

 

 

 

 


 

 

 



 

 

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