夏のある暑い日
中学生の内輪ノリ的な感じや意味のわからないあだ名とか色々微妙なところがあるかもしれませんが、生暖かい目で見てください。
銘尾 友朗様主催の『夏・祭り企画』参加作品です(>_<)
ミーンミンミンミンミー
ミーンミンミンミー
蝉の鳴き声が外の暑さを伝えてくる。
夏の午後、俺はクーラーのガンガンに効いた部屋でアイス食って引きこもっている。
親は仕事に出てどちらもいない。
夏休み、非リアでウェイウェイ言わない陰キャな俺は毎年夏は引きこもって過ごす。
親は運動するように言うけれども、こんな暑い日に必要もないのに外に出るなんて、あまつさえ運動とは馬鹿のすることである。そんなの小学生までだ。俺は小学生の時も引きこもっていたがな。
それなら早朝に運動すればいいというが、学校もないのにわざわざ早く起きるとかry(以下略)
それにこの時期の早朝は奴が鳴いているのである────クマゼミ!
奴の鳴き声は「シーネシネシネシネシネシネシネシネシネ」って聞こえてイライラするのである。余命一週間の癖に。お前のせいで家族と友達に鬱を疑われたのだぞ!
通っているのは公立の中学なので宿題の量なんてたかが知れている。マジで何しよ。
積みゲーも積みプラモも別にないしなぁ。
スマホを取り出す。ネットサーフィンもなぁ……、面白くはあるんだけれど未だにちょっと怖いんだよなぁ。怪しいサイトに引っかかった友達の体験談はネット初心者にはとんだ怪談である。しかも何をしてそんなサイトに引っかかったのかも頑なに教えてくれないし。
ヴゥっとスマホが震える。
噂をすればなんとやら、件の友達からSNSでメッセージが飛んできた。
『薫、今日空いてる?』
『てか、どうせお前ヒッキーしているんだろ?』
『祭り』
『行こうぜ』
こいつ何を言っているんだろう……
夏祭りなぞ、人が多くて暑いだけだろ。それにお前、俺と同じ陰キャなはずだ。リア充溢れる夏祭りなんて行って、クラスのリア充に遭遇したらどうするのだ。
そして万が一腐ったトトロ(トトロの異名を持つクラスの腐女子)に男二人で夏祭りなんて行ったことが知られたら何をされるか……妄想の中で。あと紙の上で。
はぁ…今日祭りかよ、絶対外に出ないぞ。いつも出ないが。
その旨を伝えると、
『大丈夫だ。腐ったトトロも一緒に行くから』
何が大丈夫なのだろう。女子枠が腐ったトトロ(見た目がトトロなのだ。体格とか体格とか)なんて何の罰ゲームだ、おい。
『おま、トトロが可哀想だろ(笑)』
あんなのちっとも可哀想じゃない。俺は自分がカップリングされてメチャクチャにされた絵を見せられたことを許していないのだ。
健気受けの性別受けでベッドジプシーとか意味を知りたくはなかった。
『まあまあ、たまにはリア充の真似ごともいいだろう?』
『絶対面白いから』
はぁ……結局俺は折れて行くことになってしまった。憂鬱である。
◆◇◆◇◆
夏祭りはヨットハーバーの辺りで開かれる。俺の家は近いので、毎年夏祭りの夜は家にいても花火の音が聞こえる。生憎見えないが。
集合場所は最近できたパン屋の前だそうだ。トトロにぴったりである。あいつのことだパンを食べて待っているだろう。あそこのパンうまいし。
やはり暑い。午後6時でこれとは……はぁ。
例のパン屋に来たが……二人はまだ来てないようだ。
「かおるっ♪」
っ!?女の子?鈴の鳴るような声(と言ってもボキャブラリーの乏しい俺にはある程度高い女の子の声は大抵鈴の鳴る声)で俺の名前が呼ばれた。……俺の名前だよね?
勘違いなら恥ずかしいのだが思わず振り返ると────
女の子がいた。目も覚めるような美人、ではないけれど、快活な感じのかわいい女の子だ。年は多分俺とそう変わらない。
俺の知り合いにこんな女の子はいない。でも、女の子は確実に俺を見ている。というか目があっている。ヤバい、太陽のような笑顔だっ!
なんだかさっきより暑い気がする。特に顔のあたりが。
これで俺の後ろの人に声をかけているだけであった場合死ねる。
するとにぃっと弧を描いていた口が動いた。
「あれれぇ〜?もしかしてわからないの!?この森野皐月様をお忘れかなぁ〜?」
俺の頭は一気に冷えた。このいやらしいニヤニヤ顔と森野皐月という名前、こいつまさかっ!?
「トトロかっ!?」
「そう、って誰がトトロかっ!!」
うわぁ…ないわー。千年の恋も冷めるわー。外見が良くても中身がトトロとかないわぁ…
「けっ、一回見惚れた癖に……」
「トトロじゃなければ危なかった……」
腹に一発貰った。理不尽である。
閑話休題
「あれ、もう一人は?」
「あそこで多分ニヤニヤしている」
そう言ってトトロ、いや今は違うから森野と呼ぶべきか、が指を指した先には不審者がいた。
夏なのにマスクをつけ、サングラスに帽子を被りパン屋の陰から顔を出している。おいおい、お前に気づいた人たちギョッとしているぞ。
陰から出てきた陰キャラ仲間の友達である彼はマスクとサングラスを外して歩いてきた。
「面白かったぜ」
「くたばれ平行キノコ」
平行キノコというのは彼のエリンギのような髪型が由来のあだ名である。
「ひでぇ、俺には河合憲明っつう名前があるってのに。お前もムニエルって呼ばれたら嫌だろう」
ムニエルというのは俺のあだ名である。付けた奴によるとなんかムニエルっぽいからとか。誰が魚の切り身かっ!マジで許さねぇ西口……
「俺が言われるのは嫌だが言うのは好きだ」
「最低だな」
「今更だ」
「違いねぇ」
そう言ってお互いににこりと笑い合う。こいつとはいつもこんな感じだ。
「おいおいおい、お二人さーん。可愛い女の子放っぽいて何薔薇咲かせちゃってんですか〜?」
なんだか可愛いらしく頰を膨らます森野。ただまあ可愛いと思ってしまったのが腹たつ。
「咲いてるのはお前の頭の中だろうが」
「そうそう。でもその薔薇園、腐臭がしそうだな……」
「うるせー、キノコとムニエルの癖に生意気だぞー」
ウガーっとするのがまた可愛い。なんてことだ……
◆◇◆◇◆
「で、どうしてトトロはこんなに痩せたんだ?」
祭り会場に向かいつつ二人に疑問を投げかける。
「トトロじゃないって!」
「悪りぃ」
「そっか、薫は皐月と知り合ったの今年か。実は今までも度々痩せてたんだ。まあこれほど痩せたのは初めてだが」
「そそ。毎回リバウンドしちゃうんだよね」
森野とは憲明との繋がりで知り合った。俺が憲明と友達になるよりも前から交流があったのだろう。当然あいつらはお互いを俺よりも良く知っているのだろう。
そのことが俺の二人との関係が浅いのだと感じさせて何となく寂しく思えた。
「なんで今回はそんなに痩せたんだ?」
ただ、そう思うのは筋違いだと分かっているから、努めて感じさせないように振る舞う。
「ハハっ、ダイジョーブだよ。暗い理由じゃないから」
ただまあ隠しきれてなかったのか、看破されてしまった。理由は勘違いしてくれているようだが。
「十分暗い理由だよ!私には一大事なんだから!!」
「ただの夏バテとアニメの推しキャラの死亡だろうが」
「なぁっ──!君はシーシーちゃんの死をなんだと思っているんだい!────かおるはどう思う!?」
相変わらず仲のいいことだ。自分では仲良くなれたと思っていたがここまでではない。だから少し寂しい。────けれど仲のいい二人を見ているのも楽しくもある。
「薫は何でニヤニヤと気持ち悪い顔してんだよ」
「いや、二人は仲が良いなぁーーーっと」
「「よくない!!!」」
願わくばもう少し自分も仲良くなりたいものだ。
◆◇◆◇◆
祭りはクライマックスだ。堤防に三人並んで腰掛けてじっと花火を待つ。
人が多く、屋台を周るのは大変であったが楽しくはあった。ただまあ、かなり疲れたけれど。こういうのもたまには悪くない、そう思えた。
何気に友達と夏祭りなんて初めてだったんだなぁーって気付いて少しショックだったが、まあ今経験しているんだから構わないだろう。
そんなことを考えている内に花火の開始を告げるアナウンスが始まる。どこどこの提供だとか、県知事のメッセージだとかそんな感じの割とどうでもいいアナウンスが終わって花火が始まる。
花火をここまで近くで見るのはいつ以来だろうか?毎年音だけは聞いていたからな、あまり花火を見ていない気もしなかった。
花火の音はとても大きくて空気を震わせていた。色もテレビで見るよりもずっと綺麗だ。心にグッとくるものがある。これはみんなわざわざ見にくるわけだ。
ふと、隣を見ると。花火の明かりに照らされた森野がいた。こうしてみるとまた違って見える。とても不思議だ。何が違うのかわからないけれど、とても魅力的に見えた。
来年は────受験だけれど、三人でまた来れたらいいな。その時は今よりもずっと仲が良いだろうか?
こうしていつものくだらない夏のある暑い日は、特別な思い出の日へと変わった。
皆さんは学生時代の夏休みはどのように過ごしたでしょうか?私は引きこもってゲームしてゴロゴロして夏休みが終わる直前に宿題の答えを写す作業に精を出していました。今思えばかなりもったいない過ごし方だったなぁーって思います(ノ_<)