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ゾンビの恋人  作者: 鳥原 麻生
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魔女の最期

 エル・ラーナは店じまいをし、カウンターで一人ニヤニヤしながら晩酌をしてい

た。

 小娘から大金をせしめ、老後が安泰になったような満足感に浸っていたのだ。


「人間をゾンビに変える……一生使うことの無い魔術だと思っていたが、うまくい

ったもんだ。自分で自分を誉めてあげたいよ。あの執念深い小娘のお陰で、少ない

年金でもやっていけそうだ」


 シワの寄った唇から思わず笑い声を漏らしたその時、何か妙な気配を感じて顔を

上げた。

「誰かいるのかい?」

 ラーナは鋭い目を光らせる。話しかけた相手は、もちろん霊的存在だ。


 空中でパシッと音がすると、太兵衛の霊が現れた。背中を丸め、しょんぼりして

いる。

「お前さんか。仕事はうまくいったんだろうね」

「それが……しくじりました」


「なんだって、留奈を殺しそこなったってのかい!?」

「すいません」

「すいませんで済むかい! 仕事を終わらせていないのに、なんで帰ってくるのさ。

マジいい加減だねえ。そういう態度だから、仕事に挫折したんだよ」

「グサッ」

 両手で胸を押さえる太兵衛。


「私ゃ、もう沙織と報酬を受け取る契約を取り交わしているんだよ。沙織の依頼を

やり遂げてもらわないと困るんだ」


「それが沙織に憑依して奴に留奈を殺らせようとしたんですが、沙織の気持ちが萎

えちまって」

「なんだって、沙織に!? なんでそんな事をしたのさ!」


「留奈は他のもっと立派な魔女からお守りをもらっちまって、肉体を持っていない

俺には手が出せなかったんですよ」


「もっと立派な魔女とはなんだい!」

「すいません。もっと徳の高い、力のある」

「同じだよ! あんた、私を馬鹿にしてるね?」


「いえ、滅相もない」

「ああ、どうせあんたの思ってる通り、私には大した力は無い。だから、あんたみ

たいな格の低い悪霊しか使えなかった。もういい、お前は用無しだ。どこにでも行

っちまいな」


「なんだって? 俺がどれだけ苦労したと思ってるんです。これでも、留奈を殺る

ために最善を尽くしたんですよ」

「ふん。お前さんの最善なんて、大した事ない。ちょっとやって駄目だと、すぐに

あきらめるんだろう。だから噺家としても挫折したのさ」


「なにっ! お前みたいな強欲魔女に説教なんか、されたくねえ。俺のために墓を

建てて酒を供えるって約束はどうなったんだ」

「あんたね、墓を建てるんだって金が掛かるんだよ。仕事をきちんとやらなかった

お前のために、誰がそんなまねをするかい」


「おのれっ、さんざんこき使っておいて、タダで追い返そうったって、そうはいか

ねえぞ」

「そうはいかねえって、どういうことさ」

 ラーナはギョッとして、後じさりした。


「そう怖がるな。どうってこたねえ。お前が飲んでる、そのうまそうな酒。お前の

体を借りて丸々一本飲みてえんだ。それだけよ」

「丸々一本!? 冗談じゃない! 私ゃもうトシだし、水割り二、三杯がせいぜい

なんだ。ブランデーを一本も飲んだら、死んじまうよ」

「そんなこと知るか」

 太兵衛は黒い顔に赤い不気味な笑みを浮かべ、近づいてきた。


「おやめ、おやめよ!」

 ラーナは両手で防御の体勢をとったが、相手が霊では防ぎようがない。太兵衛は、

あっと言う間に老魔女の体に踊り込むと、酒ビンを手に取った。


「これは西洋の酒か。いい香りだ」

 一口飲むと、顔をしかめ、

「うーん、これは強い。だが、うまい」

 ブランデー一本をラッパ飲みした。

「きくう~」

 ラーナは真っ赤な顔で床に倒れ込むと、二度と起き上がることは無かった。

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