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ゾンビの恋人  作者: 鳥原 麻生
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葛藤

 翌朝から沙織の体の中で二つの意識が葛藤を始めた。

 服を着替えながら、悪霊の意識がつぶやく。

〈貧乳だなあ〉

「ほっといてよ!」


〈足も太い〉

「うるさいわね!」

 悪霊の言葉は沙織の脳内だけに聞こえており、はた目には独り言をつぶやいてい

るように見える。


 朝食では、悪霊のつぶやきはさらに大きくなった。

〈まずい! なんだこのパサパサの無味乾燥な食べ物は〉

「これは食パン!」

「そうよ」

 母親が怪訝そうにうなずく。沙織は笑ってゴマ化し、

「たまにはレーズンパンにして」


〈パンなどやめろ! 日本人は米だ! 米と納豆! これ常識!〉

「やだ、納豆なんて。臭いんだもん」

「何言ってるの? 納豆なんて出したこと無いでしょ」


「う、うん。ちょっと、こっちの話」

 にっこりすると、牛乳を飲んだ。


〈ぐえっ、まずい! なんだこれは〉

「牛のお乳」

〈ギャーッ! 四足の乳を飲むとは! 日本人はお茶だろう! これ常識!〉 

「うるさいっての!」

「うるさいのはあんたよ」

 気味悪そうに自分を見る母親に引きつった笑みを向けると、沙織は朝食を半分も

残して席を立った。


 学校に向かいながら沙織は悪霊と口論を続ける。

「あんたのせいで変に思われたじゃない!」


〈お前の食生活が変なのだ! わしの時代は〉

「わしの時代って、いつよ」

〈今から二百年ほど前だ〉

「そんなに古い霊なの。骨董品だ」


〈人を茶碗みたいに言うな!〉

「茶碗ならお宝鑑定に出すのに」

〈おい、ふざけるのはいい加減にしろ。お前には留奈を殺ってもらうから、そのつ

もりでいろよ〉

「なんで依頼主の私がそんなことを……」


 その時、沙織はコンビニの前を通りかかった。

〈朝早くから店が開いておるぞ。ここに飯は売っていないか?〉

「飯? おにぎりならあるけど……」

〈それを買って食うのだ〉


「いやよ! お昼は学食でサンドイッチを食べる予定」

〈サンドイッチ? まさかそれは〉

「肉や卵をパンではさんだものよ」

〈パンばかり食いよって、それでも日本人か!〉


「時代は変わったの! 今は外国の料理がいっぱい入ってきて」

〈愚か者め、日本料理の良さを忘れるとは! さあ、店に入って握り飯を買うのだ〉

「いや! いやだってば」

 いやだいやだと言いながら沙織はコンビニに入ってしまった。


〈さあ、握り飯のある場所に案内せい〉

「もう!」

 沙織はおにぎりのコーナーに行くと、「やめてやめて」と言いながら、次々とカ

ゴの中に入れた。

 全部で八個。

「こんなに買ってどうすんのよ!」

〈もちろん、食うのだ〉

「太っちゃうじゃないの! タコがブタになっちゃう」


 その日の学食。

 沙織の友人達は口をあんぐりと開けて、彼女を見ていた。

 焼き魚定食とともに、おにぎりを八個も出し、次々と食べ始めたのだ。「いやだ

いやだ」と言いながら。


「いやなら、やめれば」

 美奈子が眉をひそめて言った。

「止められないの……」

 沙織は涙を流しながら食べている。


「過食症になっちゃったの?」

「そ……そうなの、優介に振られて過食症になっちゃった」

 失恋のせいにしてゴマ化した。

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