久しぶりの尿意
沙織はネットサーフィンで毎晩二時頃まで起きていたが、留奈は勉強で起きてい
た。
優介のハート・コントローラーになってから、難しい数学の方程式を解いている
最中でも彼の顔が浮かび、正直しんどかった。でも、これが恋愛というものの定め
なのかもしれない。
たぶん、結婚すれば優介の映像は消えるのだろうが、それはまだ先の話だ。将来
の職種はまだ決めていなかったが、大学へは行くつもりだった。
自分は半分人情で優介のコントローラーになったが、沙織は自ら進んでなったの
だ。よっぽど彼が好きだったのだろう。
そうすると、沙織は今も優介を想っているはずだ。コントローラーが自分にチェ
ンジしていることを知ったら、どれだけ怒るだろう。留奈はそれを考えると、背筋
が寒くなった。
あなたは無駄なことをし続けている――と早く彼女に教えてあげるべきだろうか。
でも、真実を知った時の沙織のリアクションを考えると、怖くてできない。
だからって、ずっと黙ってるの? 想い続けるって、こんなに苦しいのに。しか
も、一生報われないのに、それをやらせておくの? そんなこと、人間として――。
「勉強できね―――っっ!」
留奈はノートを放り投げた。
「ああ、もう何も考えたくない! 寝よ寝よ!」
自分が寝ると優介の鼓動は止まる。でも、彼はもうベッドで寝ているはずだ。
私が目覚めれば、彼は死からよみがえる。
留奈はパジャマに着替えると、ベッドに入った。そして、眠りに落ちていった。
優介は珍しく尿意を催し、眠りから覚めた。少しずつでも尿が溜まり、膀胱が満
タンになったのだろう。
時計を見ると、午前一時四十分。留奈はまだ起きている。だからこそ自分の鼓動
も止まっていないのだが。
優介は急いでベッドから起き出し、トイレに入った。
すると、用を足している最中に心臓の鼓動が弱まり、気が遠くなっていった。
(もう寝るのかよーっ)
心の中で叫ぶと、優介は焦ってトイレから出た。
死体になる前にベッドにたどり着かなければならない。廊下で冷たくなっている
のを親に発見されたら一大事だ。彼はその時の光景を想像した。
「優介、どうした、優介! しっかりしろ!」
父親が自分を抱えて叫ぶ。母親が驚いて駆け寄り、
「優介、なんで死んじゃったの――っ」
って、死んだと決めつける前に、救急車呼ぶのがフツーだろう!
しかし、父親があきらめたように首を振り、
「まだ十六なのに……これも定めか」
葬儀社に電話する――って、なんでっ! 救急車でしょうが!
なんだかんだ考えているうちに自分の部屋に入った優介は、ベッドにダイブした。
そして死んだ。




