優介の決心
「おい、昨日は余計なことをしてくれたな」
翌朝、教室に入った佳治は、沙織に向かって肩をそびやかした。
「今日は、ぜってー来るなよ」
「脅す気? 私が何をしようと私の自由でしょ。それに優君の頼りない姿、見たで
しょ。あの人は私がいないと駄目なの」
「そんなことはない!」
いつの間にか佳治の後ろに優介が立っていた。何かを決意したかのような厳しい
表情だ。
「確かに昨日は美人OLのせいでセリフが飛んでいってしまった。しかし、君がい
たからって思い出すわけでもない。君がいればうまくなるわけでもない。てか、わ
ざとらしい笑いを入れられて集中できなかった。だから、もう来ないで欲しいんだ。
プロになるための修業をすることに決めたんだから」
「マジか!」
佳治が喜びに顔を輝かせ、優介の肩をつかんだ。
「うん。昨日じっくり考えて、やることにした。卒業したら東京に出て、勝負だ」
「ここは東京だ」
「そうだったな」
沙織は愉快そうに笑い合う二人を睨み、
「ひどい! 今まで一生懸命応援してきたのに、『もうお前はいらない』だなんて!
一体、何様のつもり!? もう女優も相手をしてくれるような大スターにでもなっ
たつもりなの!? もとからいたファンを大事にしないと、成功なんかできないから
ね」
優介は沙織の剣幕に驚き、なだめるように言った。
「悪かったよ。君がいらないってわけじゃない。ただ、君には遠くから見守ってい
て欲しいんだ。目の前で馬鹿笑いされると困るんだよ」
「どうせ私は馬鹿よ!」
沙織は教室から飛び出すと、トイレに駆け込み鍵をかけた。
(今まで優君のことだけ考えて、一生懸命応援してきたのに)
あふれる涙を拭いながら、沙織の悲しみは憎しみに変わっていった。




