悪魔の所業
「先生。優介が私の言うことを聞かないで、お笑い芸人になるつもりなんです。あ
んなに私にまとわりついて、他の男に嫉妬していたのに、数日前から私には見向き
もしなくなったんです。私、ムカついて彼とは縁を切ってやろうとしました。
でも、できませんでした……先生! なんとか彼のことを忘れる方法は無いでし
ょうか」
「忘れる方法って……あなたが優介さんを忘れたら、彼は死んでしまうのよ。それ
でもいいの?」
「だって、彼の心はもう完全に私から離れているんですよ。てか、命懸けで反抗さ
えしているんです。彼がそこまで私を嫌っているなら、私もお望み通り忘れてやり
たいんです。それができなければ私の人生は終わったようなものじゃないですか!」
「それは彼の人生を終わらせた報いじゃないの?」
沙織はハッとしてラーナの顔を見た。化粧をしていないので、いつもより目が半
分の大きさもない。その垂れ下がったまぶたの奥にある地獄の暗闇から自分をのぞ
いている。沙織には悪魔の呼び声が聞こえてくるようだっだ。
こっちゃ来~~~~。
「キャーッ!」
「どうしたの」
「悪魔の声が」
「悪魔の声? お仲間の声が聞こえたの?」
「お仲間……変なこと言わないでください!」
「だって、悪魔のような事をしたじゃない。我欲で人の命を奪って」
「だだだって、しぇんしぇい! あろろきは、わらし、どーもれけんれ」
「落ち着いてちゃんとしゃべりなさい。何言ってるのか全然分からないわよ」
沙織はコーヒーを飲むと深呼吸を繰り返し、ようやく気を静めた。
「先生……確かに私は悪魔的なことを頼みました。でも、やったのは先生で、私は
お金を出すだけです」
「何それ、図々しい。頼んだあなたは同罪なのよ。あなたも悪魔の所業をしたのと
同じなの。やったやらないより、心根の問題なの」
「だって……だって……」
「泣いてゴマ化すのはやめなさい。言い訳しないで、自分を見つめたらどうなの」
「だって、先生……自分じゃどうする事もできないんです。この苦しくて悔しい気
持ち、なんとかしてください」
「しょうがないわねえ。またお金が掛かりますよ」
沙織はビクッと肩を震わせた。
「おいくらぐらい……」
「それはまだ分かりません。今、水晶球で優介君の状態を見てみましょう」




