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ゾンビの恋人  作者: 鳥原 麻生
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浮気

 家に帰った沙織は、自分の部屋に駆け込むと、枕をつかんでベッドに何度もたた

きつけた。

「優介の馬鹿! 自己チュー! 今までずっと想ってきたのに! もういい! 死

ね!」

 ぐったりとベッドに伸びた沙織の脳裏に優介の青白い顔が浮かぶ。

「駄目駄目! あいつのことは、もう忘れるんだ」

 ところが優介を想うことが習慣になっており、消そうと思っても消せなかった。


(好きな人を作らなきゃ、優介は消せない)

 想いを他の人に移すということは、優介の死を意味する。


 構うもんか。私の愛を踏みにじって、勝手なことをやり始めた優介が悪いのだ。

 付き合うのを誰にしようか。

 沙織はクラスの男子を次々と思い浮かべた。


(山田……ブサイクなくせに彼女いるんだ。西岡……時々万引きやってるってウワ

サ。田辺……大食漢。デートは大食い選手権になる。飯田……ウツボみたいな顔。

でも、タコの私にはお似合いかも)

 沙織は好きでもない飯田勝彦を付き合う相手に決めた。


 翌日、ソッコーで勝彦にデートを申し込むと、沙織は学校内でも平気でいちゃつ

き始めた。

「勝ちゃーん」

 いきなりなれなれしい呼び方をして、優介の反応を盗み見る。

 ゾンビのような冷静さで宿題をやっている。


 高級官僚になる、という沙織の言い付けを守っていた頃は、宿題など家で全て片

づけていたのだ。今は勉強はおろか宿題すらやらず、家ではもっぱら台本の暗記に

明け暮れているのだった。


(ムカつく。死んでもいいっての?)

「勝ちゃーん」

「なんだよ」

「呼んでみただけ」

 芝居がかった媚びように、勝彦は当惑気味だ。


「明日、映画行かない?」

「いいよ。君がチケット買ってくれるなら」

 沙織はムカついた。そう言えば勝彦はケチで有名だった。こんな男、愛せるだろ

うか。でも、他の男を愛さないと、優介への想いを断つことはできない。


(ケチなんじゃなくて、経済観念が発達していて、頼りになるのよ。浪費家より、

よっぽどいい)

 そう思うことにして、自分を無理に納得させた。


 しかし、優介を想う習慣はなかなか消せず、映画の大画面を見ている時でさえ、

脳裏から彼の映像が消えることはなかった。


(なんでこんな馬鹿なことをしちゃったんだろう)

 彼を独占できれば幸せになると思ってしたことが、今は苦しみのモトになってい

る。

 悩んでいると、隣に座っている勝彦が手を握ってきた。

 沙織はウツボにかまれたようにビックリして、思わず手を引っ込めた。


 何なのだろう、自分で誘っておいて拒否するとは。

 沙織は自分で自分に当惑した。

 もしかして、優介を支配したつもりが、実態はその逆で、ゾンビの呪いに掛けら

れているのではないか。


 沙織はゾッとして、勝彦の手を取り、頬を寄せた。拒否したはずの自分の手にス

リスリする沙織に、今度は勝彦が当惑した。女心はさっぱり分からない。


 映画館から出ると、沙織は勝彦と腕を組み、タコのように吸いつきそうな目で彼

をジッと見た。勝彦は何かゾッとしたが、いちおう歯を出してニタッと笑った。そ

のとがった口がウツボにそっくりで、今度は沙織がゾッとした。お互い何をやって

いるのか、よく分からなかった。恋愛のはずなのだが。


 家に帰っても、優介の映像がウツボに代わることはなかった。

 やっぱり今も優介が好きなのだろうか。


 目を閉じれば暗闇に彼の端正な顔が浮かんでくる。そこへ突然、岩陰からウツボ

が飛び出し、彼の頭に食いついた。

「何するのよ、あっち行け!」

 いつの間にか自分は海女のかっこうをしており、手にしたモリでウツボを突いた。

「あっ、なんてことを」

沙織は自分に絶望して顔を覆ったが、それでも優介の顔は消えなかった。


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