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沙織の驚愕
翌朝。
登校してきた沙織は教室の前まで来ると、びっくりして足を止めた。
優介が佳治と漫才をやっている。
沙織は笑っている女子達をかき分けて前に出ると、優介の胸倉をつかんだ。
「ちょっと! お笑いはやめる約束だったでしょっ」
優介はゾンビの冷静さで沙織の手をつかんで放すと、
「悪いが、僕に公務員は無理だ。やっぱ漫才をやらせてもらう」
不敵なツラがまえで言い返した。沙織は目が飛び出るほど見開き、
「信じらんない! なんでそんなこと言えるわけ!? 優君のこと嫌いになっち
ゃうよ。それでもいいの!?」
優介は沙織に顔を近づけると、ひとこと言った。
「どうぞ」
沙織は黙って唇を震わせていたが、女子達が見ている中で優介を殴るわけにもい
かず、あきらめたように教室へ入っていった。
放課後。
校庭の隅に優介を連れてくると、沙織は怒りを爆発させた。
「いったいどーゆーこと!? 私、生活が不安定な芸人の妻なんて嫌だって言って
るでしょっ。もし、どうしてもやるって言うんなら、私、優君のこと嫌いになるか
らね! それが何を意味するか、分かってると思うけど」
「分かってるよ」
「あっそう! それじゃ、どうなるか知らないから覚悟しといてね。バイ!」
駆け去っていく沙織の後ろ姿を見つめながら、優介はもう一度つぶやいた。
「どうぞ」




