コントローラーのチェンジ
「優介さん。一度死んだという事実は変えられないの。でも、沙織の念を外して他
の人の念に置き換えることはできるのよ」
「えっ……どういう事ですか」
「つまり、一生一緒にいてくれる人と念を取り換えるの」
「そんな人……いません」
「それじゃあ、沙織さんと一緒にいるしかないわねえ」
「そんな……心変わりにおびえながら、あの身勝手な沙織と一生を共にするなんて
……」
優介は号泣したかったが、涙があまり出ない。
「可哀想にねえ」
摩耶が留奈をチラチラ見ながら、気の毒そうに言った。
「私……?」
留奈の顔がゾンビのように青くなった。
「私は別に優介君の恋人でも何でもないんですけど」
「そうよねえ、ゾンビの恋人なんて誰だって嫌よねえ」
「はい……てか、あの、そこまでの覚悟は」
優介は、この世の終わりが来たかのようなうめき声を上げた。
「ああ……いいんだ、留奈。それが当たり前だ。どうせ僕なんか誰にも愛してもら
えないんだ。一生タコの奴隷になる定めなんだ。奴はそれが愛だなんて言ってるけ
ど」
優介は嗚咽したが、相変わらず涙は流れない。
「葬式に来た女優みたいなウソ泣きだと思ってるんだろ……違うんだ、涙が出ない
んだ。オシッコもだけど……こんな半分死んでるような体、あったってしょうがな
い。いっそのこと心臓なんか止まればいい!」
優介は胸をドンドンたたき出した。留奈は彼の手首を必死で握り、
「やめて、優介君! 涙が出なくたって、オシッコが出なくたって、あなたはちゃ
んと生きてる! 生きている限り希望があるの! いろいろな本に、そう書いてあ
るじゃない」
「それじゃ……僕には君に愛される希望があるっての?」
「えっ……」
留奈はゴクリと唾を飲み込むと、一瞬ゾンビとの結婚生活を思い描いて固まった。
優介は首を垂れ、
「やっぱり僕には絶望しかないんだ……」
留奈はぼんやりとその哀れな姿を見つめていたが、突然壊れたラッパのような声
で叫んだ。
「やったる!」
「えっ……」
「こうなったら、一生優介の面倒を見てやらあ! それでいいんだろ、クソった
れ!」
今まで聞いたことのない下品な言葉を並べながら、優介の肩をたたき続ける。
「わ、分かった、分かった、ありがとう、ありがとう、留奈! やめてくれ!」
留奈は手を止めると、荒い息をしながら優介を睨みつけた。
「だから、しっかりしろってんだよ!」
「はい」
茫然と二人のやりとりを聞いていた摩耶が、静かに口を開いた。
「話はつきましたか?」
「はい」
二人はそろってうなずいた。
「それでは早速、地下室で儀式を行いましょう。こちらへどうぞ」
一時間後、摩耶の屋敷から出てきた優介の顔は相変わらず青白かったが、満足げ
な笑みをたたえていた。
自分の心臓を動かす者がタコからクラス一の美少女にチェンジしたのだ。
もう沙織にやりたくないことを押しつけられる心配もない。留奈は芸人を目指し
てもいいと言っている。
(僕は自由と愛を手に入れた!)
優介は心の底からゾンビ・スマイルが込み上げてくるのを抑えられなかった。




