残酷な希望
「お前、優介に何をしたんだ」
佳治は休み時間に沙織を廊下に連れ出すと、声を落として聞いた。
沙織の後ろには、優介がゾンビのような顔で立っている。彼女が学校にいる間は、
ほとんどこうしてつきまとっているのだ。
「沙織に手を出すな!」
「出さねえ! ちょっと聞きたい事があるだけだ」
「変な難癖つけないでよ。優君は私といることが幸せなんだって気付いただけ。そ
れから佳君には悪いけど、優君にはもう漫才やめてもらう」
「なんだって!?」
「私達、そのうち結婚するの。優君には大学を出てもらって、公務員になってもら
うつもり。芸人なんて不安定な仕事、私イヤなの」
「お前、『優君は立派な芸人になれる』って言ってただろっ」
「それはただのクラスメートだった時のことよ。結婚相手になったんだから、下積
みの長い芸人になってもらっちゃ困るの」
「公務員……」
優介は口の中でつぶやいた。
客から笑いを取る快感を覚えた自分にとって、退屈極まりない仕事に思えた。
佳治はうなだれている優介の肩をつかんだ。
「お前、それでいいのか。一緒にお笑いで天下を取ろうって二人で誓ったのを忘れ
たのか。こんなタコのどこがいいんだ!」
「別にいいわけじゃない」
「それじゃ、どうしてタコにつきまとっているんだ」
優介は切羽詰まった顔を佳治に向け、
「そ、それは……タコに聞け!」
捨てゼリフを残すと教室に入ってしまった。
「お前に聞けってよ」
肩を怒らせて迫る佳治に、
「私は何も知らない」
沙織も捨てゼリフを残し、トイレに入っていった。




