厚化粧のファン
優介と佳治が路上ライブを始めて十日が過ぎた。
ギャラリーも今では二十人ほどになり、中にはファンになってくれたOLもいた。
ほとんどがイケメン優介のファンだ。
彼らの漫才は時々ボケと突っ込みが逆転することがあったが、だいたいにおいて
優介が突っ込みを担当しており、あまり面白いことは言わない。しかし数少ないギ
ャグを飛ばした時は、ファンのOLが盛大に笑ってくれた。優介は内心ありがたく
思いながらも、このOL達が沙織化するのではと恐れていた。
どんな美人が来ても、今ではほとんど貧乏揺すりも「●×△◆◎□」も無くなっ
ていた。しかし、留奈に対してだけは相変わらずこの症状が出るため、告白はでき
ないでいた。
優介は残念に思いながらも、焦らず自己改革を進め、そのうち必ず彼女と付き合
おうと心に決めていた。沙織が付きまとわなくなったので、急いで彼女を作る必要
も無くなったのだ。
佳治はコンビ名を「イケメンズ」にしようと提案したが、優介に「お前はどう見
てもイケメンではない」と主張され、しぶしぶ引っ込めた。
優介が「イケメン&サル」にしようと言ったが、佳治がマジで怒ったので、これ
もお蔵入りになった。
最終的に佳治がパソコンに貼ってあったシールから「インサイド」という名前を
提案し、優介も承認した。
その日もインサイドは路上ライブをしていた。
OL達を前に優介が気持ちよくしゃべっていると、派手な化粧をした新顔の女性
が足を止めた。
ラフカールロングの金髪に付け睫毛を何枚も重ねた大きな目。素顔が想像もつか
ないほどの厚化粧だ。キャバ嬢だろうか。
金髪のキャバ嬢は時々笑ってくれたが、沙織のような馬鹿笑いはしなかった。あ
まり豪快に笑うと、化粧が雪崩を起こすのかもしれない――などと考えつつ、優介
はファンになってもらおうと気を入れてしゃべった。
「ありがとうございましたー」
しゃべり終えた優介が汗を拭いていると、例のキャバ嬢が声を掛けてきた。
「すいませーん、サインしてくれる?」
「えっ、サインですか」
こうしてたまにサインを求められるのは、いつも優介のほうだった。
佳治は面白くなさそうに顔をしかめると、
「俺、帰るぞ」
さっさと駅に入っていった。




