魔女との契約
「そうねえ……」
ラーナはカードを横に置くと、目だけで笑った。
「方法はなくはないけど……お高いわよ」
「料金ですか? おいくらでしょう」
「五百万」
「五百万!? そんなお金ありません!」
「そりゃ高校生だから、今は無いでしょうよ。だから、三十歳までに分割で払って
くれればいいの」
「三十歳まで……それも無理です! 五百万なんて大金」
「そんなことないわ。風俗で働けば」
「風俗!?」
「そうよ。高校を卒業してすぐに始めれば五百万ぐらい稼げるわよ」
「清純派の私が風俗……」
「嫌ならいいの。すっぱり彼をあきらめれば済むことよ」
「優介をあきらめるなんて、できません!」
「それじゃあ、風俗でも何でもできるだろう!」
ラーナが鬼の形相でカウンターをたたき、沙織はびっくりして泣き出した。
「また泣いているのかい。全くグズグズした子だねえ。嫌われている相手を自分だ
けのものにするなんてのは、大変な魔術なんだ。お前さんがどうしてもって言うか
ら、私もリスクを冒してやってみようと思ったんだよ。高くて当然じゃないか。そ
れが嫌なら、やめときな」
沙織は一生懸命嗚咽を止めると、深く息を吸い、小さな声で答えた。
「分かりました……必ず三十までに払います」
ニヤリとする魔女。
「よろしい。それでは必ず優介をあなた一筋にしてあげましょう」
「私一筋に……? 先生、そんな事ができるんですか?」
「ええ、一生あなたから離れないようになるわ。それでもいいのね? あなたの方
の覚悟はどうなの」
「もちろん、いいです! 優介と結婚できたらサイコーです」
「そう。それだけ覚悟ができているなら、やりましょう」
ラーナは赤い口から白い犬歯をむき出して笑った。沙織は悪魔を見たかのように
ゾッとしたが、自分の望みを叶えてくれるのは、この人だけなのだ。望みを叶えて
くれる人=自分にとって良い人なのである。この時の沙織は、そう思い込んでいた。
「さあ、これにサインして」
ラーナは契約書を沙織の前に出した。
震える手で自分の名前を書く沙織。
「素敵なお名前ね」
そう言えば、まだ名前も教えていなかった。それなのに、自分は親以上にこの見
ず知らずの女性を信頼しきっている……一瞬、そんな考えがよぎったが、すぐに打
ち消した。
(渡したら駄目!)
心の中で自分に叫びながら、沙織は震える手で契約書を差し出した。
引ったくるようにして受け取ったラーナは、名前を確認するとニヤリと笑った。
「それでは、優介さんを生涯あなたにつなぎ止める方法を教えますね。これには、
あなたの協力も必要なの。できるかしら」
「はい。彼と一緒になれるなら私、なんだってやります」
「そうよねえ……風俗嬢にもなろうってんだから」
沙織は顔を赤くしてうつむいた。
「先生……私、心配なんです。風俗嬢になった私を優介は愛してくれるでしょうか。
彼、清純そうな子が好きなんです。同じクラスの留奈って子が好きみたいなんだけ
ど、その子も彼氏を作ったことも無いんです」
「沙織さん。心配しなくて大丈夫よ。あなたが風俗嬢だろうがオナベだろうが、彼
はあなた無しでは生きられなくなるんだから」
「えっ、そんな事ができるんですか」
「ええ。私の魔術でね」
ラーナは不気味な笑みを浮かべると、悪魔の計画を話し出した。
聞き入る沙織の顔から、次第に血の気が引いていった。




