激し過ぎる思い込み
還暦過ぎのラーナからすれば、他愛もない思春期の失恋話だったが、ウブな沙織
にすれば、自殺したくなるほどつらい体験だったのだ。
ラーナは沙織の手を握ると、
「あなたの年頃の女の子はみんな経験する悩みよ」
「そうですか」
「そうよ。自分だけが悩んでいるんじゃないの。みんな報われない恋に悩んでいる
のよ」
「それを聞いて少しホッとしました」
ラーナは微笑んでうなずくと、タロットカードを取り出した。
慣れた手つきでカードを切ると、沙織の前に並べた。
「さあ、一枚引いて。カードがこの恋の結末を教えてくれるわ」
沙織は手を組んで祈った。
「ハートのエースが出ますように」
「ハートのエースは無いわよ。トランプじゃないんだから」
これで自分の運命が決まるような気がして、沙織は手が震えた。
「さあ、勇気を出して目に止まったカードを引いて」
沙織はうなずいて一枚引くと、裏返しのままラーナに差し出した。
占い師はカードの絵を見ると、沙織に見せて言った。
「これがあなたと彼の結末よ。死神」
「死神……それじゃ」
ラーナは気の毒そうにうなずき、
「残念ながら関係は終わるってこと」
「なんで!」
「そんなに驚かないでちょうだい。もともと付き合ってもいないんだから、そんな
に深刻に悩む必要は無いのよ」
「ええ! 確かに付き合っていたわけでも、告白したりされたりの関係ですらあり
ません。はた目には、ただのクラスメートです。でも、私は婚約者に捨てられた妊
婦みたいに悲しいんです!」
「それは思い込みが激し過ぎでは」
「これが私なんです! この悲しい気持ちを消すことなんかできません! 私、ど
うしても彼と付き合いたいんです! どうすれば優介を恋人にできるんでしょう。
先生、それを教えてください!」
ラーナは持て余し気味にカードを指差し、
「でもね、『終わり』を表す死神が出ているのよ」
「先生……占いの結果だけを聞くなら、ネットでいくらでもやっています。私は優
介との関係を復活させる方法を教えて欲しいんです!」




