魂の相談者
中にはカウンターの他テーブルが二つだけあり、客は一人もいなかった。
木製のシェードのついたペンダントライトが、店をほの明るい光で包んでいる。
「いらしゃいませ」
カウンターのほうから、しゃがれた声がした。
声の主は黒いドレスを着た、六十ぐらいの女性だった。落ちくぼんだまぶたにブ
ルーのアイシャドーを塗り、真っ赤な口紅を付けている。
沙織は魔女を見たような気持ちになり、足が震えてきた。
老女は沙織のおびえを見抜いたように、不気味な笑みを浮かべた。
「怖がらなくてもいいのよ。私の名前はエル・ラーナ。さあ、ここに来てお掛けな
さい。いま誰もいないから、ゆっくり観てあげるわよ。あなたの悩み、苦しみ。な
んでも聞いてあげる」
「なんでも……」
沙織は、この人になら親にも友達にも話せないことを聞いてもらえると思い、涙
があふれてきた。
「よろしくお願いします」
すがりつくような目でカウンターに座った沙織にラーナは苦笑し、
「まあまあ、そんなにせっつかないで。今、アイスティーを作るからね。これを飲
むと気分が落ち着くわよ」
沙織は出されたアイスティーを一口飲むと、ホッと溜め息をついた。それと共に
悲しみが込み上げてきて、涙ぐんだ。こんな気持ちになったことは初めてだ。楽し
く高校生活を送っているつもりだったのに、いつの間にこんなネクラになってしま
ったのだろう。
「分かるわ……『一人ぼっち』っていう気分なのね」
ラーナの慈愛のこもった言葉に、沙織は思わず涙をこぼした。
「先生……なんで分かるんですか?」
「それぐらい分からないで占い師は務まりませんよ」
沙織はラーナが親より自分を分かっている人間なのだと心の底から感動した。き
っと私を救うために、神様が引き合わせてくださったのだ。沙織は魂の親に再会し
たかのように嗚咽した。
「さあさあ、泣きやんで」
ラーナは沙織の肩に優しく手を置いた。そのぬくもりが心に沁み込んでくるよう
に感じられ、沙織の涙は止めどなく流れた。
「いいわ。泣きたいだけ泣きなさい」
「いえ……」
沙織は一生懸命泣くのを止めようとした。深呼吸を繰り返し、ようやく涙を止め
ると、
「すいませんでした」
ハンカチで顔を拭きながら謝った。
「いいのよ。あなたの悩み……だいたい分かるけど、詳しく話してくれるかしら」
沙織はうなずくと、優介との一部始終を話した。




