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魔王LIFE  作者: フーミン
1章
34/62

34話 逃げ道

「ルト!!」


大勢の兵士を連れたミシェルが、俺を見つけると名前を叫んだ。


「久しぶり、ミシェル」

「今助けるからな!!」


そういうと、俺の横にいるサハルへと視線をやった。


「ミシェル、もういいんだよ」

「っ? 大丈夫だ! 僕達はルトを助けに来たんだよ!」

「もう助けなくても大丈夫。私はここでの生活が好きだから」

「何言ってっ……」


確かに、ミシェルにとっては辛いことかもしれない。

ㅤ連れ去られた想い人を、やっとの思いで戦力を掻き集めて助けに来たのに、助けなくていい、と。

ㅤでも、それは今の俺の正直な言葉だ。サハルと一緒に生活して、国を創り上げて、世界一の国にする。それが魔王のするべき事だ。


「ミシェルには言ってなかったね……。実は私、魔王なの」

「お、おい! 冗談はやめてくれ……。もしかしてソイツに洗脳されているのか!? お、おい確かめろ!」

「は、はいっ……」


洗脳……か。もしかすると、今の俺は本心じゃないのかもしれないな。


「洗脳というより……脳自体を弄られていて……」

「何っ!? 戻せるのか!?」

「時間はかかりますが……」

「分かった」


ミシェルが剣を抜いた。今からサハルと戦うつもりらしい。

ㅤ他の兵士達もそれぞれ武器を手に持った。


「貴方ではサハルには勝てない。だから戦う事はやめて」

「待ってろ……絶対に助けてやるっ!」


俺の言葉にも耳を貸さないようだ。どうせ負けてしまうのに、無謀にも戦おうとするミシェルに少しだけ怒りを感じた。


「サハル、戦わないで」

「分かってるよ。ここで戦ったら街がボロボロになっちゃう」


いつもの様子で、軽く冗談を言ってみせるサハルに安心した。


「ミシーー」

「かかれっっ!!」

「「おぉぉぉぉおおおおっっ!!!!」」


言葉を遮られ、目の前の兵士達が一斉にこちらへと走り出した。

ㅤその武器は完全に人を殺す為の物。サハルを殺そうと集まった人間達だろう。


「許せない……」


サハルの事を何も知らないのに、ただの『悪』というレッテルを貼り付け、とにかく殺そうとやってくる。

ㅤそれは虐めと何ら変わりがない。こいつらはサハルの苦しみを知らずに虐めているのだ。


「ルト、どうする気?」

「とりあえずこの大軍、止めてくれる? ミシェルと話がしたい」

「分かった」


次の瞬間、こちらへ迫ってくる大軍だけ時が止まったように、ピタリと静かになった。


「ほら、話してきていいよ」

「ありがとう」


俺は大勢の人々の合間を掻い潜って、ミシェルの元へやってきた。ちゃんと説得すれば、ミシェルもサハルの国の国民になれるかもしれない。


「ルトッ……逃げよう!」

「ミシェル」

「すぐに逃げて、どこか遠くで安全な場所にーー」

「ミシェル聞いて」

「っ……ルト、君は一体どうしてしまったんだ……」


ミシェルの気持ちも分かる。でも、それはただの我が儘だ。大事な人を救いたい、それだけで1人の子供を殺す。

ㅤその子供がどういう想いで、俺と一緒にいるのか。どういう想いで生きているのか。それをミシェルは分かってない。


「ねぇミシェル……サハルは子供だよ」

「でも魔王じゃないか。国の人々を、そしてルトの大事なリアンも奴隷にした」

「でも、リアンは記憶を戻していつもの様に私と一緒にいる。国の人々はこの国で、何の不自由もない生活を送ってる」

「っ……でも……」

「でも、じゃない」


昔を取り戻すんじゃない。幸せを創るんだ。

ㅤ俺とサハルは互いに協力して、助け合って理想を作ってる。人が虐められない、人を差別しない。魔物と魔族と人間が共存できる理想の国。理想郷を築き上げている。


「ミシェルが一番大事なのは何?」

「それは……ルトだよ」

「そうじゃない。今後生きていく時、必要な物は?」

「……平和」

「そう。私とサハルはこの国で、本当の平和を作ろうとしているの」


ミシェルなら、分かってくれると思った。


「でも! 国民を洗脳して、無理矢理作った平和なんて間違ってる!! 本当の平和は、皆が自分の意思で幸せだと思える生活じゃないか!」

「国民を洗脳してる、なんて一言も言ってないよ」


ミシェルは、無理矢理自分の意見を正当化しようとしてる。そんなのただの我が儘だ。


「でも……恐怖による支配は洗脳に代わりはないじゃないか」

「恐怖に……」

「……ルトも最初は怖かったんだろう?」


俺は……確かに怖かった。でもその後、サハルと分かり合えたんだ。


「もしかして……苦しみから逃げる為に、こんな事をしてるのかい……?」

「っ……違う……けど……」


苦しみから……。あの時、俺は痛みをサハルに消してもらった。本当に辛かった。その痛みはサハルが原因であるけど、痛みを消してもらった。

ㅤその時に、俺はサハルを好きになった。脳を弄られたから……。


「でも……」

「でもじゃ……ないよね?」

「っ……」

「そうだ。この首飾り、無くしたんだね」


ミシェルは、自分の首から首飾りを取って俺に付けてくれた。それは竜の爪、俺とミシェルがお揃いで付けていた首飾り。

ㅤ俺のはサハルに消されたけど、ミシェルはずっと持っていた。


「ルト、僕と一緒にサハルから逃げよう」

「駄目……サハルを裏切りたくない……」


俺はサハルを信用すると誓った。だからサハルも俺を信用してくれている。俺はサハルを裏切らないと誓った。

ㅤサハルの過去に、辛いことがあったのが分かるから。俺はサハルを守りたい。だからサハルと一緒にいるんだ。


「そうか……それはとても残念だよ」

「っ……! あ゛っ゛……ああぁっっ!!?」


突如、激しい全身の痛みにその場に倒れ込んだ。


「ル、ルトッ!? ち、違うんだ! ……これは……その首飾りは洗脳を解除する効果があって……だから……」

「あああああああぁぁぁっっ!! あ゛ああああああっっ……痛いぃっ……!!!!!」


ㅤ全身の筋肉がガチガチに硬直し、身体を曲げる事すらできず。ただ全身に力を入れて痛みに耐える。狂いそうな程痛い。


「あ〜あ。いままで蓄積された痛みがまとめて来たみたいだね」

「お前っっ!!」

「どうしてそんなに怒ってるんだい。これは君がしでかした事だろう?」


サハルが二人の元にやってきた。


「君が何もしなかったらルトは苦しまなかった」

「ぼ、僕はルトを助けるためにしたんだ! お前がルトを洗脳しなければ……こうする必要も無かった!」

「君は、ルトから幸せを奪った」

「っっ……違うっ!!」

「痛いっっ……い゛だいぃっっ!!」

「ほら、こんなにも苦しんでる」

「お前のせいだ!」


ミシェルは感情のままに、サハルを罵倒している。


「いたい…………」


俺は涙を流しながら、二人の間に寝そべり苦しんでいる。


「君は自分の幸せしか考えないんじゃないか? ルトから幸せを奪い、自分の幸せの為に行動した結果、こうして人を苦しめる」

「それは……元々お前が悪いんじゃないか!」

「違う。現にルトはこの国で幸せに生活していた。君がした事でルトは…………ルト……?」


サハルが目線を下に落とすと、言葉を無くした。

ㅤミシェルも突然サハルの反応が変わり、目線を下に落とした。


ㅤそこには、自分の首に剣を刺したルトがいた。

ㅤそれは生きているとはいえない、首や口から大量の血を流し、苦しみながら死んだ者の姿。

ㅤ苦しみから逃げる為に、力を振り絞って自殺したのだろうか。

ㅤ今のサハルとミシェルには、そんな冷静な判断ができない。愛する人が死んでしまったのだから。


「ルトッ! ルトッッ!!」

「ち、違う……僕はただ……助けたくて…………」


サハルはルトの肩を揺すって、ただ名前を呼び続ける。

ㅤミシェルは現実から逃げるように、1歩ずつ後ずさりしてその場に倒れ込んだ。


「お前のせいだ…………」


サハルが物凄い形相でミシェルを睨みつけた。


「ひ、ひぃっ……ち、違う……! 違うっっっ!!」

「ルト……僕のルト…………どうして……」


サハルは涙を流しながら、死んだルトに抱きついた。


「今……助けるから……」



ーーーーー



「ーーがっ……げほっ…………。あ……」


俺はいつの間にか真っ暗な空間にいた。

ㅤということは、つまり俺は死んだという事だ。


「そうか……俺……」


まだあの世界には未練がある。サハルが生きている間、俺も生きてなければいけない。

ㅤでも、あの苦しみから逃れる為にはこれしかなかった。無我夢中で逃げることを考えた。正直、何が正解で何が間違いなのか分からない。ただ一つ言える事は、俺はサハルとミシェル、どちらか片方の味方をしているだけだった。

ㅤどっちが悪くて、どっちが良い。じゃない。第三者の目から見て、どうしたら良いのかを考えるべきだった。


「んなの……死んでから分かっても遅いよな」


サハルとミシェルの顔が浮かび上がる。そして胸がギュッと苦しくなった。

ㅤ自殺ほど苦しくて悲しい死に方はない。せめて、サハルかミシェルどちらかに殺してもらった方が幸せだったのかもしれない。


「こんにちは」

「っ……こんにちは」


目の前に白い光が現れた。また来世を選ぶのだろう。


「記憶はありますか?」

「……ないです」

「では、貴方にはこれから3つの人生を選んでいただきます。


ㅤ1つ、剣や魔法を使う世界でエルフとして生きる。


ㅤ2つ、魔法のない世界で政治家として生きる。


ㅤ3つ、幽霊となり様々な世界を旅する」


どれも良さそうな人生がないな……。もう生きることに疲れたような、そんな気分だ。

ㅤ3つ目が、今の俺には良いのだろうか……。


「あ、ちょっ、ちょっと待ってください」

「?」


突然光が点滅し始めた。


「え、えっと……4つ目? の選択肢が出ました」

「4つ目?」

「えっと……ルトに戻る……。どういう事でしょう」

「どういうこと?」

「さぁ……ヤハウェ様にしか分からないんです」

「じゃ、じゃあ4つ目で……」

「分かりました。ではこれから技能を選択していただきます」


技能か。俺はどのくらいポイント貯めたんだろうな。

ㅤそれにルトに戻る、か。戻れるのならもっと良い技能が欲しいな。


ㅤ目の前に技能が描かれたカードが大量に現れた。しかし数枚、前世で俺が選んだ技能のカードが消えている。

ㅤ引き継がれてるのか?


「現在貴女のポイントは……28772ポイントですね」


大体30000か……。すげぇ溜まってんな。


「25000以上あるので、ボーナス技能が得られます」

「ボーナス技能か……」

「ポイントが溜まっているほどレアな技能が貰いやすくなります。ただ今のポイントだと……レアの確率は低いですよ?」

「大丈夫。ボーナス技能をください」


人生初のボーナス技能。なんでもいいから欲しいな。


「では……」ガラガラガラガラ


何かくじ引きを引いているような音が光からするな。


「あ、良かったですね。レアが出ましたよ」

「どんなの?」

「《世界の神》ですね。これはポイントで手に入れる場合……2,000,000ポイント必要になる技能です。喜んでください」

「どういう効果か分からないからねぇ……」


まあ《世界の神》っていう名前から、確実に最強の部類には入るんだろうけど。


「えっと……その世界で2番目に偉い神様になれる技能です。その技能があれば、基本その世界内で出来ない事はありません。

ㅤ例えば新たな生物を作ったり、重量を変えたり。とにかくなんでもやりたい放題。ただ世界を管理する一番偉い神様に怒られる可能性もありますけどね」


なんでもできる……なんでも? ふ〜ん……そりゃ凄い。チートだな。


「喜ばないんですか?」

「あ、いや……まだ現実と受け入れれてないだけ」

「そうですか。では他の技能も選択してください」

「あ、はい」


どんどん話を進めてくるな。この光はもしかして面倒くさがりか。


ーーーーー


とりあえずこんな構成だ。


《世界の神》- 2000000

《モテモテ》- 200

《カリスマ》- 250

《透明化》- 500

《全能力2倍》- 2000

《冷静な心》- 100

《仲間外れにされない》- 20

《ラッキースケベ》- 1000

《痛覚遮断》- 10000

《戦神》- 5000

《洗脳されない》- 3000


28772

10772


これでルトとして生きる人生は乗り切れるんじゃないか? 次こそはサハルとミシェルを和解させて……難しそうだな。


「では、良い神様ライフが送れることを心より祈っております」

「はい」


そこで俺の意識はプツンッと切り替わった。

ごめんなさい……最強になってしまいました。

ㅤで、ですがルトの精神的弱さはそのままなので今後とも俺TUEEEEE系は書きません。

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