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主人公日記  作者: ちぇるみなーとる
3/4

2日目

2日目。この日はメーレスとの特訓から始まった。能力を生かすためには必要最低限の身体能力が必要らしいが、俺はその必要最低限の能力が皆無なようだ。




「「ごちそうさまでした!」」


俺とメーレスは一旦教会に戻り、リセスの用意してくれた朝食をごちそうになった。朝食といっても日本で食べていたような質の良いものではないが、リセスの愛情のようなものを感じられた。


「お粗末さま」


「おいしかったよ」


「あ、ありがとう」


「さて、ではすぐにでも次の特訓に入りましょう!」


勢いよく立ち上がるメーレス。


「まてまて。気合い十分なのはいいが食後すぐに動くのはキツイぞ?」


「ナオキさん。あなたの双肩にはこの世界の命運が掛かっているのです。こんなところでたるんでいては他の者に差をつけられてしまいます!」


「ご、ごめん。でも他の者って誰だ?」


「あ、いえ、ただの比喩です。言葉の綾です」


「あっそう」


丁寧に誤魔化したあたり怪しさ満点だが今は放って置いてあげよう。


「じゃあメーレス先生のお言葉に従って早々に特訓に入りますか!」


「はい!」






「さて、ナオキさん。命を懸けた戦いの中で一番大切なものはなんですか?さっきの私の戦いを参考に考えて下さい」


「相手を圧倒する攻撃力、かな?」


さっきのメーレスの戦いっぷりを見ているとそう思えてならない。


「違います」


「ならスピード?」


「それも違います」


難しいな。彼女のさっきの戦いぶりから察せることは全て言ったはずなのだが。


「いいですか、答えは防御です」


「防御?」


先ほどの立ち振る舞いから防御の重要性を感じさせるようなポイントはなかった気がする。


「防御、というよりは回避能力と言った方がいいかもしれません。大切なのは敵の攻撃を受けないことです。攻撃は最大の防御と言いますが、それはこの世界では通じません。ここでは1度では倒せない数の敵がいますから。1体多は戦いの常です。その中で死なない立ち回りをあなたには覚えてもらいます」


「難しそうだな」


「考える必要はありません。体に覚えこませるんです。ではさっそくいきます!」


「え?」


気付いた時には俺は後方へ2メートル近く吹っ飛んでいた。


「避けてください!」


「そんなこといっても…」


「早く立ち上がってください!次々いきます!」


「ッ!!」


俺にはメーレスの動きは全く見えてなかった。自分が何をされて吹き飛ばされているのか。立ち上がっては吹き飛ばされ、立ち上がっては吹き飛ばされ。しかし、なぜか痛みは地面に倒れたときしか感じなかった。

距離が離れていても一瞬で距離を縮められ、それに気づいた時には仰向けになって宙に浮いている。

そのまま地面に落ちて背中や後頭部に痛みが走る。


「じ、次元…が…ちごう…」


ボロボロになった体を気合いで起こし、次に備える。これでは避ける練習ではなくサンドバッグの練習だ。

次こそは、と何度も繰り返すが未だ何をされているのかすら認識できていない。


おそらく1時間くらいたった。

回を重ねる度に立ち上がるのが苦しくなっていった。体中に走る激痛のせいだ。それにより攻撃を受けて、立ち上がるまでの時間がだんだん伸びていった。


「一旦休憩にしましょう」


地面に崩れ落ちるように倒れた。疲れたとかより身体が痛い。それに尽きる。


「ダメダメですね。身体能力の特に動体視力と反射神経の向上は今後の最重要課題になりそうです」


「は、はぁ…」


「休憩の間に魔法についての説明をします。よく聞いてください」


「お、おう…」


「大丈夫ですか?ちゃんと集中してます!?」


この状況で集中しろってのも無理があるだろうに…鬼教官か。


「まず、魔法にはいくつかの領域があります。その領域によって魔法の規模や特性、その発動条件などが大きく変わってくるのですが、どの領域でも魔力を消費して魔法が発動するという流れは一緒です」


魔力=MPって認識でいいんだな。領域ってのはよくわからんな。


「領域の数は数多あり説明するのは面倒なので今回はこれからあなたに使ってもらう、光域魔法についての説明だけします。光域魔法というのは神や精霊との契約を必要とせず、個人で発動できる魔法です。ではさっそく…」


「コホン」と咳ばらいをした後、メーレスは少し顔を紅くして言った。


「ダ…ダメージ、ダメージ、フライアウェイ…です」


いつの間にか痛みなど忘れて起き上がっていた。そしてメーレスの顔を本気なのかと問うように見つめていた。


「な、なんですかその目は!?"ダメージ・ダメージ・フライアウェイ"は立派な光域魔法クラス1の初歩的な回復呪文です!!あっ!クラス1というのはですね!魔法のレベルみたいなものでしてね!?光域魔法はクラス3まであるのですが……」


という文章を、聞いてもいないのに早口で喋り始めた。顔はどんどん真っ赤になっていく。正直いってめちゃくちゃ可愛い。


にしても、これは呪文じゃなくておまじないの間違いだろうに…


「ダメージ、ダメージ、フライアウェイ…」


痛いの痛いの飛んでけ〜の容量で呪文を唱えながら特に痛みが激しかった後頭部をさすってみたところ、驚くことに痛みが飛んでしまった。

それに呪文を唱えたとき手から何かが出ていくような感覚があった。


「わぁお」


魔法成功だ。


「メーレス?魔法成功したぞ?」


「そ、それでですね。光域魔法以外にも聖域魔法とか、神域魔法とかがありましてね!?私が使っているのは神域魔法なのですが、これは"力"を持った者にしか使えない魔法の領域でして…」


よほどダメージ・ダメージ・フライアウェイ(今後は長いのでDDFとする)が恥ずかしかったのか。誰にとでとなく説明を続けている。


落ち着くまで身体中の痛む場所に片っ端からDDFをかけてみた。どうやらDDFを唱えると意識した方の手のひらから緑色の光が現れるようだ。おそらくここから出ていっているのが魔力なのだろう。


「メーレス。できたよ。魔法」


「え?あ、おめでとうございます」


「ありがとう。ところで魔力が出ていった感じはあったんだけど減った感じがしないんだけど。魔力の上限とかってどうなってるの?」


やっぱ魔法を使いすぎると急にぶっ倒れたりするのだろうか。


「魔力上限とかは気にせずともよいです。魔力は寿命を消費して生成されているので」


「は?」


「ですから魔力が尽きる時は命が尽きる時と同義なんです」


お、落ち着こうこういう時にこそ冷静に考えるんだ。クールになれ。


「ち、ちなみにDDFにはどのくらいの寿命を消費するんだ?」


俺はそんなこと知らずに身体のいたるところにDDFを使ってしまっている。確かな記憶があるのは6回。もしかしたらもっと使ってるかも。


「そうですね、だいたい1回につき1週間分くらいでしょうか?」


さすがに卒倒した。


「つ、つまり俺は何の気なしに2ヶ月分くらい寿命を縮めていたというのか…?」


「いえ、あなたに関しては例外です」


人が絶望してるというのに、メーレスは心を浄化させるような純粋な笑顔を向けてくる。


「え、どういうこと?」


「あなたの"力"は"不老"だと言いましたよね?あなたはいくら魔法を使用しても寿命は減りません」


俺は右手に刻まれていた中二くさい刻印を見た。


「それって簡単にいうとMPが無限ってことだろ?めっちゃ強いんじゃ?」


「だから言ったでしょう?かなり恵まれた能力だと」


「わぁお」


他の人が命を削って発動する魔法を俺は対価なしに発動できる。これはほとんどチートだろう。


「さて、回復ができるようになったのですから、午後の特訓はもっと厳しくいきますよ?」


前言撤回。全然足りない。もっとチート能力ください。




昼にリセスの作ったお昼ご飯を食べ、午後も吹っ飛ばされては回復し、吹っ飛ばされては回復するの繰り返しをした。


少しはメーレスの動きが見えるようになった気がしなくもない、気がする。成長できているのかはかなり疑問だ。



夜になるとまた魔物が湧くらしいので夕飯は教会の地下で食べた。


「この人たちは旅の冒険者。このお兄さんがナオキ。この女の人がメーレスよ。メーレスは上の魔物を倒してくれたの。少しのあいだここで一緒に暮らすことになったからみんな仲良くしてあげてね」


「「お姉ちゃんありがとう!」」


夕飯前に地下に隠れていた子供達に自己紹介と軽い挨拶をした。

異世界から来たとは言えないので(というより言っても理解してくれなさそうなので)俺たちは旅の冒険者ということにした。


リセスはまだメーレスのことを警戒しているようだが魔物を殲滅してくれたり、そこから手に入った硬貨を全部譲ったりしたせいか、ここに居候することだけは承認してくれた。


俺たちが特訓しているあいだ子供達は久々に外で遊ぶことが出来た。それもこれもメーレスが村に巣食っていた魔物を倒したからだ。そういうとこはリセスも認めてはいるのだろう。


ただ昨晩メーレスがリセスに与えた印象が悪すぎたんだろうな。


「右からマーク、ジゼル、カイト、リンティア、マリーよ。歳はみんな私より低いわ」


男の子が3人。女の子はリセスを入れて3人。計6人でよくここまでやってこれたと思うな。


みんないい子だった。歳にして小学3から6年くらいだろう。好奇心旺盛で活力がある。


今日はそんな子たちの面倒を見ながら一緒に寝た。


リセスはこんな子たちのことを面倒見ながら大人の1人もいないのに周りは魔物だらけというこの状況を必死に生き抜いてきたんだ。


自分の無力さを感じずにはいられなかった。



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