1日目夜〜2日目朝
2話目になります
1日目は非常に長い1日だった。化物に襲われるだけならまだしも主人公の能力とかメーレスとリセスの関係とか頭の整理が追いつかなかった。
「では、まず最初にあなたの能力を判定します。右手を出して下さい」
俺は言われるままに右手を差し出した。
黒髪の少しひんやりとした手が俺の右手を包む。するとそこから青い光が発せられた。暗い地下室が海のような青の光に照らされる。
「はい。終わりました」
光が消え、彼女の手が離れる。
俺の右手には黒魔術の刻印みたいなのが残っていた。
かなり中二くさい。
「あなたの能力は"不老"です。おめでとうございます。かなり恵まれた能力ですよ」
「"不老"?不老不死じゃなくて?片方だけ?」
「そうですが?」
「それじゃあ大して強くない気がするんだけど?」
「まあその説明は後ほど…まずは外に出て、辺りの魔物の掃除から始めましょうか」
「ちょっと待って!?」
突然部屋に響き渡る大声を出したのは完全に空気になりつつあった赤髪の少女だった。
空気とか言うなよ、命の恩人だぞ。
「なにそれ、さっきから全然意味わかんない!あなたたちなんなの?ここは私たちの家なのよ!?」
「申し訳ありません。ただ、世界の命運がこの方にかかっているかも…っ!?」
丁寧な口調で話していた黒髪だったが赤髪の少女の顔をまっすぐ見た瞬間様子が変わった。
「…リセス?あなたリセスですよね?生きていたのですね!!」
「え?まあ私の名前はリセスだけど…」
突然黒髪が目に涙を浮かべながら赤髪の少女リセスに抱きついた。
黒髪は死んだと思っていた友人が実は生きていた、みたいな反応をしているがリセスは完全に困惑している。
「私です!メーレスです!覚えていませんか?なにがあったのですか?あなたほどの力がありながら、こんな姿になってしまって…」
全然状況がつかめない。とりあえず黒髪の女はメーレスと言うのか。
「あの!人違いじゃないですか?私はあなたを知らないし、力っていうのにも心当たりがないです…」
「そんなはずはありません!私たちがリセスを見間違うはずがありません!それに、あなたから微かにですが"姫"の力を感じます」
「そんなこと言われてもっ!」
"姫"の力か。"不老"の力よりは強そうだな…
翌日になった。
壁に寄りかかって寝ていた俺をリセスが起こしてくれた。掛けられていた少し汚れた毛布はおそらくリセスが掛けてくれたのだろう。
「すまない、ありがとう」
「いえ、別に…」
メーレスは俺から少し離れたところで同様に寝ていた。
「昨日も本当にありがとう。それに成り行きとはいえ、勝手に押しかけて、勝手に泊まってしまって…」
「別に…あのメーレスって人に比べたらあなたの事なんて大したことじゃないわ」
「あはは」
メーレスは相当リセスを困らせたらしい。それでもちゃんと泊めてあげた上に俺同様、彼女にも毛布が掛けられているあたりにこの娘の優しさが見える。
昨日、俺は色々あって疲れていたので周りの状況など構っていられず、あの二人が記憶がどうこうと言い争っている間に寝落ちしていた。
おかげで体があちこち痛い。尻とか特に。
「あ、そういえば。俺はナオキ・ハヤミ。ナオキって呼んでくれていいよ。よろしくリセスちゃん」
「私もリセスでいいわ」
俺が寝た後、結局どうなったのかを聞いたが、メーレスはリセスの記憶がおかしいのは、彼女の記憶と"姫"の力になんらかの封印がほどこされているからだと結論付けた。更にリセスをメーレスが保護するとまで言い出したらしい。
もちろんリセスは断ったがメーレスも引き下がろうとはしなかった。
「おはようございます、ナオキさん。リセスもおはようございます」
うわさをすればである。
「昨晩リセスと話し会ったのですが、リセスは私が保護することにしました。あ、ナオキさんが心配する必要はありません。私が一人でなんとかできますので」
リセスは即、反抗の言葉を発したがメーレスは譲るような様子はないらしい。すぐに言い争いになった。たぶん昨晩は遅くまでこんなやりとりをしていたのだろう。
姉妹喧嘩を見ている気分になった。
「リセスお姉ちゃん?」
地下室のさらに下に続く階段。その入り口から1人の少年が顔を出す。リセスよりも幼いその少年の肌はしばらく日の光に当たっていないのか、やけに白かった。
「ジゼルっ!部屋から出ちゃダメって言ったでしょ!?」
「でもリセスお姉ちゃんが怖い声出してたから…」
少年は今にも泣き出しそうだ。母親に叱られた子供の反応だな。
「えーっと…ジゼル?心配掛けてごめんなさい。私は大丈夫よ。今はお姉ちゃんこの人達と大切な話があるから下で他のみんなともう少し待っていて。できる?」
少年の頭を撫でながらまるで母のように語りかけるリセス。
「う、うん。わかった」
リセスはほんとにしっかりした娘だった。
俺とメーレスは外に出て、村の方へ戻った。リセスは他の子供の面倒を見なくてはいけないらしい。
日差しはポカポカしていて気持ちいい。太陽の位置は真上。昼寝したい気分だ。
いまからする事を思い出せば即、憂鬱になれるが…
「さて、早速始めていきましょう!準備はいいですか?」
「うーん。出来れば着替えたいな」
いま着ているのは下はスーツ。上はワイシャツ。運動に適しているとは到底思えない。
「そうでした。ではこれに着替えて下さい」
そう言ってメーレスが差し出してきたのは世界観ぶち壊しの金属製アタッシュケースだった。
開けてみると青を基調にした、侍の着物のような服が入っていた。
あと野球選手が着ているようなピッチピチに身体に張り付く黒い服も入っていた。世界観さんはどこに逃げてしまったのか。ここに石油商品が蔓延っていますよ?
「修行着です。それの下にアンダーシャツもきちんと着てください。安全性が上がります」
「そういえば、メーレスも似たようなの着ているんだな?」
メーレスも青基調の着物を着ている。メーレスのは俺のより生地や作りが上質なものである上に柄とかがすごい綺麗なようだが。
「偶然似ているだけでなんの関連性もありませんよ?それより早く着替えて下さい。その廃墟の裏の方なら魔物もいませんから」
ここで着替えちゃダメかと聞いたら、顔を赤くして。
「ダメです」
と、怒られてしまった。
単に反対を向いていてくれさえいれば良いと思うんだが。
「着心地はどうですか?」
「いい感じだ」
サイズもなぜかジャストフィットしていた。
「では着替えも終わりましたし、早速この辺りの掃除から始めていきましょう!私がこの辺りの魔物を片付けていきますから、しっかり見ていて下さい」
メーレスが両手を合わせると、地下で見たような青い光がメーレスの両手を包んだ。手が離れていくと光は棒状になっていき、やがて日本人なら誰もが知っているだろう日本刀になった。刃は鞘に収められている。さらに丈夫そうな紐が巻かれ、封じられている。しかし鞘の上からでもその刀の凄みが伝わってくる。
「では、いきますっ!」
メーレスは刀を掴み走り出した。俺も慌てて後を追って走り出す。
が、彼女の背中には翼でも付いているのか、速すぎて今の俺には到底追いつけない。
「はぁぁぁぁ!!!」
液体の化け物が蹴散らされていくのが遠目で見える。
彼女が刀を振り下ろすたび、昨日の液状の化け物が跡形もなく吹き飛んでいく。
メーレスは圧倒的な存在感を放っていた。凄まじく豪快で大胆。全てを飲み込むような迫力。しかしどこからか繊細な美しさをも感じる。
まあ、具体的に何が起こっているのかはわからんがな。
メーレスの掃除は10分程度で終わった。俺のやったことはメーレスの活躍を遠目で見ながら化け物の落とした硬貨を回収することだけだった。
それにしてもとんでもないスピードだった。人間のなせる業ではない。
「ちゃんと見てました?」
「すまんが、目で追うのが限界だったよ。次元が違い過ぎる」
「まあそんなものでしょう。早くこの速度に慣れて下さい。そうしないと死にますからね」
彼女の言葉からは冗談のじょの字も感じなかった。本気だった。
「これ、どういうこと?」
掃除が終わったところでリセスが来た。化け物が蹴散らされたこの惨状を見てかなり驚きが隠せないようだ。
「メーレスがやった」
「やったって…これだけの数を?」
俺とリセスの目の前には俺が地道に集めた硬貨の山があった。コインゲームでもこれだけ集めるのは大変だろう。ゲーム台に入っているコインが全部出てきたと思えるほどの量。
「俺もビックリだよ」
黒髪の少女メーレスの実力に、今は驚嘆するしかなかった。