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主人公日記  作者: ちぇるみなーとる
1/4

1日目

頑張って書きました

1日目。この日は異世界に来た。何を言っているのかわからないと思うが俺も何が起こったのかわからなかった。





ある日突然。

いつも通う学校が正体不明の敵に襲われて、タイミング良く自分の体に芽生えた特殊能力で戦うことになったり。事故に遭い、ファンタジックな異世界に転生してチートな人生を送ったり。


そんなアホみたいな展開は妄想でしかない。


中二病を拗らせた残念な男子中高生が、暇で暇で仕方がない授業中とかに頭の中で巡らせているような荒唐無稽な夢物語でしかないのだ。

そもそもおかしいだろ?悪に属するサムシングがさして重要でもない施設である学校を襲うことなんてありえないし。死んだら異世界に行けるなら、こっちで災害が起きるたびにあっちじゃ急な人口増加で経済崩壊だし。


まあいいだろう。百歩譲って、奇跡的に絶望的な展開になるとする。

非武装の学校に敵襲とか。

目がさめるとそこには両親、兄弟、近所の方々、その他大勢と一緒に被災者様御一行という旗を掲げて異世界を練り歩くとか。

しかしだ。


何よりおかしいのはそこじゃない。


何よりの問題は、その全ての妄想での主人公は自分だということだ。

結論から言おう。

この世に主人公なんていない。

いや、主人公になれる奴なんていない。

人間みな平等に不平等だし。1人1人がオンリーワンでも能力のピラミッドは確実に存在する。ご都合主義で主人公になれるほど主人公は甘くない。


というブーメランを投げる俺。

そうとも、俺は主人公になりたかった。主人公に憧れる無垢な少年の1人だった。


俺の物語は普通に普通をなぞったような。なんの変哲もない。誰かの作ったテンプレみたいな日常の物語。面白くない訳ではなかったがそうじゃない。

これじゃ俺の物語じゃない。

俺という名のどこにでもいる男性Aの

物語で、自分自身だけの物語ではない。それは嫌だ。


しかし俺はそんな現状を受け入れるしかなかった。


妄想は妄想。夢は夢。

いくら主人公になりたくても概念の存在でしかないものになる方法なんてわからない。

そもそもどこからどこまでが?どうすれば主人公なのかだってわからない。


俺は主人公になれない。


最初は絶望した。しかし、ある程度諦めがつき、社会の歯車としての生活への抵抗心も薄れてきた頃。

早見(はやみ)直輝(なおき)、現在26歳。独身。






俺は教職に就いていた。

先日遂に副担任を務めていたクラスが卒業式を迎え、初仕事を無事終えられたことで達成感やら安心感やらで一杯になっていた。

現役中学生の思考になかなかついていけなかったり、担当教科の成績の話で保護者(モンスターペアレント)と揉めたり、色々苦悩もあったが、まあ俺にしては良くやったと思う。

学年の先生方との打ち上げも済ませ床に着いた。


で、目が覚めるとあたりには石造りの建物が。しかもそれらは皆、過去に火災にでもあったのか、廃墟と呼ぶのが似つかわしい姿だった。


「なんじゃこりゃ?」


第一声にしては随分とシンプルだ。

だがその一言は俺の今の心情を的確に表していた。


周囲を少し探索してみたが人影は見当たらなかった。建築物の数や周りの雰囲気から察するに、ここは村だったのだろう。村の外はやけに背の高い森で覆われている。はっきり言って不気味だ。


あたりを見回していると。


「…ケヒヒヒ」


という不気味な声が俺の背後から聞こえて来た。


慌てて振り向いた先にいたのは一体の化け物。緑色のドロドロした液体状の体に、薄気味悪い笑みを浮かべた口がついている。


この光景を見て、察しの良い俺は一つの考えに至った。


「こいつ、スラ◯ムか?」


俺はゲームはまだドッド絵だった頃に卒業したから詳しくはわからないが、特徴は捉えていると思う。だとしたらこの不気味な怪物も倒せるかも知れない。ファーストエンカウントだ。チュートリアルみたいなもんだろ?

装備を確認。今の着ている服は昨日着ていたままのスーツだ。防御力は皆無だろう。

しかし問題ない。

とりあえず近くに落ちていた木の棒を拾い、構える。これでも俺は中学の時は剣道部だ。多少の心得はある。


「…ケヒヒ!」


「うおっ」


スラ◯ムが襲ってきた。間一髪で避ける。が、わずかに掠った左腕から血が垂れている。

意外と素早い。しかもあの口は開くと俺の頭を丸呑みできるほどに開く。牙も結構鋭いようだ。掠っただけでこれだ。あれに噛まれたら最悪、腕一本とかじゃ済まない。

これは流石に倒せないな。

逃げよう。


命あっての物種っていうだろ?別にスライムに負けたからって恥ずかしくないし。悔しくないし。それにあの怪物が本当にスライムかどうかもわかんないし、たとえスライムだったとしてもゲームと同じ感覚で倒せる確証もないし。俺の戦略的撤退は的確な判断だったと後の世は判断するだろう。


別にビビってはいないからな?


建物を駆使しながら逃げるが、奴は素早く飛び跳ねながら追跡してくる。

ふと、振り返ると俺を追いかけるスライムは二体になっていた。


「やばい…」


それだけなら良かった。

俺の前方には更にもう一体のスライムが待ち構えていた。挟まれた。左右は建物。逃げ場はない。3対1。希望もない。

俺は恐怖からその場にへたり込んでいた。まさかこんなところで死ぬことになるとは。今はこれがただの夢であることを祈るばかりだった。


あと数メートル。スライムが一斉に俺に喰い掛かろうとした瞬間。


みすぼらしい服を着た、小さな女の子の赤い髪が俺の目の前に飛び込んできた。


その少女は持っていたナイフを一閃。一瞬で群がるスライムを全て真っ二つにした。スライム達はぼとりと地面に落ちて動かなくなる。


「お兄さん」


赤髪の少女は振り向きながら聞き取りやすい英語で、こう言った。


「こんなの素手でも倒せるよ?」


砂や泥で汚れた華奢な体。節々に擦り傷も目立つ。しかしそれでもまだ光を写すその幼い瞳は地面にへたり込む俺を呆れたように見下ろしていた。


俺は驚いた。

口から出た言葉が英語であることには驚いたがそれは今はどうでもいい。


少女だったのだ。


俺が副担を務めたクラスの子なんかよりもひと回りもふた回りも小さい。歳にして12、3才だろう。

こんな幼い少女が土と泥にまみれた服を着て、ナイフを片手にあんな化け物を切り殺しているなんて現実を、簡単に受け入れられるほど俺のメンタルは鋼ではない。先日まで教師をやっていたならなおさらだ。


「…あ、ああ」


状況が、情報が、頭の中で整理できていない。とりあえず助けてもらったのだから礼を言わないと。


「あ、ありがとう。助けてくれて」


「別に、死なれると面倒だっただけ」


そっけなくそう言うと、赤髪の少女はスライムが黒い煙になって消えるのを確認した後にその場に残った硬貨のようなものを拾うと、そそくさと歩いて行ってしまった。


「ま、待ってくれ!!」


「まだなにか?」


つい大声を出してしまっていた。しかし、今更気にしてられない。彼女は貴重な情報源だ。


「こ、ここはどこなんだ?」


「見ての通りただの廃村です」


「そういうことじゃなくてっ!」


「あまり大きい声出さないでよ。また魔物がくる」


「…すまない」


俺が謝ると、ため息の後、語り出してくれた。


「……まだちゃんとした村だった頃の名前はレイジッド・ビレッジ。それともこの国の名前を聞きたいんですか?」


呆れ顏の少女の問いに俺は無言で頷いた。


「国の名前は…確か、ジュピテラ、ジュピテラ王国です」


聞いたことのない国だ。

だが察しの良い俺はなんとなく理解していた。にわかには信じ難いが。

廃墟の村。襲い来る謎の怪物。左腕を滴る血。荒んだ身なりの赤い髪の少女。そして、聞いたことのない国名。


これが異世界転移でなかったら一体なんだというのだ?

ドッキリ?夢?

そんな馬鹿な。俺は死にかけたんだ。血だって出ている。

異世界転移以外なにかあるなら教えに来い。代わってはやらないがな。





こうして俺は異世界にきた。そしてこれが主人公、ナオキ・ハヤミの物語の始まりだった。






スーツの上着は脱いだ。単純に動き辛い。ハンカチを破いて包帯状にして傷口に巻きつける。これで血は止まるだろう。


左腕に負った傷の止血をしているうちにさっきの少女はいなくなってしまっていた。


これからどうしようか?


見ず知らずの地で行くあてなんてないし、だからといってここにとどまっていてまた化け物に襲われるのも勘弁だ。

とにかく、慎重にさっきの少女を探そう。それしかない。


どれほど時間がたっただろうか。村中を探し回ったが、化け物しか見つけられなかった。


ファストルック・ファストエスケープ。この世界にもしスキルの概念があるなら、"逃げる"のスキルは最速でカンストさせられそうだ。

そんなこんなで村のはずれに教会?のような建物を見つけることができた。


察しの良い俺は早速、あの怪しさ満点、廃墟同然の教会に行ってみることにした。おそらくあそこになにかあるのだろう。ストーリー的に考えて。


近くで見るとその建物は遠目で見るよりもはるかにボロだった。


窓は割られ、壁はヒビだらけで崩れそうで怖い。


正面の入り口は建て付けがおかしくなっているのか、どう頑張っても開かない。外側を一周回って裏口を見つけたが、そこも正面同様、開かない。

それにしてもだ…

俺は無教徒だから教会事情に詳しくない。だからこの教会が広いのか狭いのかはわからない。が、学校の教室三個半分くらいはあると思う。外見も一応、村の家屋と比べると手の込んだ装飾などで飾られている。ほとんど焦げて黒ずんでいるが。


周囲を見て回っていると教会の周囲には人の歩いた跡があった。しかも真新しい。サイズは子供。この場所に人が出入りしているのは間違いないだろう。中に入ろうとしたが入り口は前述の通りだし、窓は割れていて、入るには危険が伴う。




教会をぐるぐる周回して見つけられたのは入り口近く。壁に空いた人が1人入れるかくらいの穴だった。


小さな穴だったが俺もギリギリ通れた。


匍匐(ほふく)前進したせいでピカピカだったスーツは砂やら泥やらで汚れてしまった。帰ったらクリーニングだな。


教会の中は案の定というか、崩れた壁の瓦礫や砕けた椅子などが散乱していた。

一見したらただの廃墟だが聖堂の少し奥の方。一箇所だけ床の板の色が違っていた。


そこだけ埃もあまり被っていないし、明らかに動かした痕跡がある。


まあ後は考えないでも分かる。


隠し階段があった。


階段は木製だったが脆くなっている様子はない。

しっかりしている。

スーツのポケットからライターを取り出す。タバコは吸っていたが経済的にキツかったので数ヶ月前にやめた。しかしライターだけは偶然にも持ち歩いていた。

ライターを照明代わりにして暗闇の中、階段を降りていく。


足元を照らすのは右手に握られたライターだけだ。


「魔物が出たら詰みだな」


恐怖で足が震えているのがわかる。運が悪ければ死ぬ。体験したことのない恐怖がそこにはある。


階段の先には開けた空間があった。

壁際には木箱が積まれている。木箱は空だが、どこか嗅いだことのあるような匂いがする。


察しの良い俺はこの匂いがパンの匂いだということに気が付いた。

ここは食糧庫だったのだろう。


空箱ばかりの食糧庫。

腹が空いてきた。


木箱を夢中で物色していたため、俺は背後から近づく気配に気がつけなかった。


「なにをやってるの!?」


「っうおぁ!!」


その場で飛び跳ねてしまった。


そこにいたのはさっきの命の恩人の少女だった。右手にはナイフ。左手にはロウソクを使った照明(なんていうのかは知らない)が握られている。ライターよりは明るい。

彼女は先ほどと変わらず呆れたような顔をしているが、加えてそこには疑いの表情も混じっていた。


「まだなにかようなんですか?」


少女の瞳には警戒の二文字がわかりやすく映っている。


「いや、ようってわけじゃないんだけど…」


「ならなに?」


「…君はここに住んでいるの?」


「ええ、私だけじゃない。ここには生き残った村の子供たちが集まって住んでる」


「大人はいないのかい?出来れば話しがしたいんだ」


「…いない。大人はみんなオーク共に殺された」


「オーク?」


「知らないの?」


「うん」


「お兄さん、オークも知らずによく大人になれたね」


「ま、まあね…」


オークなんて知らない。とにかく誤魔化すしかなかった。

安易にこの子に異世界から来たなんて事も言っていいのかも悩みどころだった。


「ところで、こっちからも聞いていいですか?」


「うん」


俺が頷くと赤髪の少女は俺の背後を指差しながら怪訝そうな顔でこう言った。


「その後ろの女の人はなんなんですか?」


とっさに振り返ったその先には1人の女性が立っていた。


「私の"隠密"スキルを破るということはその少女はレベル10くらいでしょうか?」


顎に手を当ててながら、いきなり話し始めた。


「お前いつからっ!」


「さっきです。教会に入ってくのが見えたのでついてきました。あたりも暗くなって来てしまったので」


女性はさも当然のことを言うように答える。


「俺はお前のことなんて知らない。なんで俺についてきたんだ?」


「それは私があなたの補佐を任ぜられた者だからです。早見直輝あなたはこの世界に選ばれたんです。あなたになら、この意味がわかりませんか?」


普通に意味不明だ。

おそらく常人ならこの状況を、発言の意味を、理解出来ずにこの女性に質問を繰り返すだろう。


お前は何者だ?

ここはどこなんだ?

あの化け物はなんなんだ?

お前は今の俺の状況を説明してくれるのか?


聞きたいことは山のようにある。

顔も凛々しく。年齢も高校生くらいだろう。青がかった黒髪ロングヘアが大層美しいこの女の子と話すことは単純に男として望むところだろう。俺もそうしたい。


しかし、違う。


察しの良い俺は全てを悟った。


俺は主人公になったのだ。

いまこの世界は俺を中心にして回っている。世界という大合奏団の指揮者になったような気分だ。

俺の身の振り方次第で世界をどういう方向にでも導ける。たぶん。

そう思うと自然に笑みがこぼれた。

そして俺は目の前の黒髪の女性に向けてこう言った。


「じゃあさっそく、まずはレベル上げをしよう。手伝ってくれるんだろう?補佐係さん?」


黒髪はわずかに驚いた様子を見せたがすぐに、見る男を一瞬で魅了するような笑みを浮かべた。


「はい」
















反応見てから続き書きます

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