10
その夕ぐれ、どうぶつたちが、かしの木じいさんのおかに、いっせいにあつまりました。
たくさんのどうぶつたちは、まつぼっくりをひとつずつ手に、または口にくわえて、じいさんのみきのまわりに、とおまきに円をえがくようにならびました。鳥たちもその円の外がわで、くちばしにまつぼっくりをくわえて、日がおちるのをまちます。
かしの木じいさんは、もうおこる気力もないのか、だまってどうぶつたちのようすを見つめていました。
やがて、うすぐらくなった空に、いちばん星がかがやき出し、それにつられてふたつ、みっつと星がかがやき出しました。
鳥たちはいっせいにとび立って、かしの木じいさんのまわりをとび回ります。
すっかり日がおちると、空一めんをおおうような星が現れました。
鳥たちは星をさそうように、まつぼっくりをくわえて、高くとんだり、ひくくとんだり。
どうぶつたちは、手にしたまつぼっくりを高くかかげて、または、それをくわえた口を空にむけて、ゆっくりゆっくりとじいさんのまわりを回りはじめました。
ころっと夜空から、小さなかがやきがおりてきて、かしの木じいさんのこずえにとまりました。
こずえでちかちかと光をはなっているその明かりをおうようにして、また小さな光がながれ、そのすぐ下のえだにとまりました。
またひとつ、またひとつ……。
いくつかの明かりが、えだ一本にひとつずつというぐあいにとまったとき、ぶわっとふくれ上がるように空がまぶしくかがやいて、たくさんの明かりが、かしの木目ざしてまいおりてきました。
鳥たちは、おどろいてじめんにおり、どうぶつたちは、うごきを止めて、みんな、ぽかんとかしの木を見つめていました。
星の光にはおもさがないので、たくさんの星をえだにのせていても、おれることはありません。葉がおちて、すき間だらけになってしまったえだからは、星のかがやきは、なんにもさえぎられずに、とおくまでとどきます。
かしの木じいさんは、大きな光の木になって、あたりの山々をまぶしくてらしました。それに……。
「ああ、あったかい。気もちがいいなあ」
かしの木じいさんのつぶやきが聞こえてきました。
星の明かりは、ほんのりあたたかいらしく、葉がおち、かわききって、さむさにこごえていたじいさんの体を、あたためくれたようです。
「みんな、ありがとう。ありがとう……」
ひさしぶりに、じいさんのやさしいおだやかな声がひびいてきました。
どこからともなく、やさしい歌声が聞こえてきました。歌のとくいなモズたちが歌いだしたのです。やがて、鳥たちもどうぶつたちも、おもいおもいの声で、じいさんへ歌をおくりました。
にぎやかで明るい夜はふけていきました。
空が明るみはじめると、ひとつ、またひとつと星はきえていき、夜明けにはすっかり葉をおとしたかしの木じいさんだけが、ぽつんと立っていました。
いつの間にか、どうぶつたちは、そのまわりによこたわってねむっていました。朝日がさしてきて、どうぶつたちが目をさますと、じいさんは、みんなにしずかに言いました。
「楽しい夜じゃった。みんなとすごせて、しあわせじゃった。
ひとつだけ、たのみがあるのじゃ。これから冬がやってきて、雪がふりつもり、やがて雪がとける春がやってくるまで、このおかには、ぜったいにだれもちかづかないでおくれ。どこからかやってきたどうぶつがまよいこまないように、みんなで見はっていておくれ。わしからのさいごのねがいじゃ……」
かしの木じいさんはそうつげると、それっきり口をとざしてしまいました。
山々に冬がやってきました。
冬ごもりをするどうぶつたちが、したくをおえてそれぞれのあなぐらに入っていったあと、山には雪がふりはじめました。
雪はくる日もくる日もふりつづき、あたり一めんを、ふかい雪のそこにしずめていきました。
ふりつづいた雪がいったんやみ、ひさしぶりに星空がのぞいたあるばん、どうぶつたちは、おかの上からひびいてきたズズズンという大きな音を聞きました。
その音を聞いたどうぶつたちは、いっせいに声を上げてなきはじめました。
そう、その音は、かしの木じいさんがいのちを終えた音だったのです。