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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

レミングの常識人

作者: tismo
掲載日:2014/01/21


いやはや、あなた方にはご存知ない話かもしれませんがね?

人間に集落があり、国を作って、文明を築いたように、どんなケモノにも同じようなのがあるんですよ。


もちろん、あなた方の住まう世界ではありませんよ。

世界は小さく不器用ですからね、一つの世界で繁栄できるのは一つだけ。

あなた方の世界はたまたま人間だったんでござんす。


世界は無限にありまして、そん中の一つ。

ケモノの中でも特にの変わり者。

『レミング』っちゅー種族がいたわけですわ。

確か『旅鼠』とも呼ばれる慌ただしい連中ですな。

その世界では奴らも人間と同じようにしゃべりまして、火を起こし、道具を使うようになるんであります。

でも、人間のと違って、奴らの文明はいつまで経っても成長しないんすわ。

なぜだかわかります?


奴ら自殺するんすよ。


奴らには『美徳の数字』というレミングだけの独自の概念がありましてね。

奴ら美徳の数字に従って、人口を調節してるわけです。

赤子が生まれるたび無作為に贄を選んで、選ばれたやつは喜んで崖から落ちるわけですわ。


自殺をするから人口が増えない。

人口が増えないから、文明も発達しない。


いやはや、悪溜まりですな。

それでいて、奴らは満足。幸せなわけです。



さて、話はここから始まるわけですがね。

ちょっと寝ないでお客さん。金払って聞いてんでしょ?退屈なんはわかりますから。


変わり者なレミングにもまた常識人がいるわけですよ。


これはおかしい。

何故死ななければならんのかってね。


頭を回転させるわけです。

この慣習に反対しまして、自殺者に選ばれても文句をつけて拒否したんです。

まぁ、他の奴は「おお、順番を譲るか。謙虚なやつめ」と喜ぶわけです。


この常識人はまたも戸惑う。だから問うたのでした。

「慣習なのに断ってよいのか」

「はぁ。慣習じゃなくて願望でし。我等、早く死んでより良い来世を望むので」

「来世もレミングならまた死ぬぞ?」

「されば、またより良い来世が待っており。良いこと尽くしの輪廻転生。いずれ死ぬなら、自ら死のうホトトギス。できるならまたレミングに生まれ変わりたいですなぁ」


はっはっはと笑うレミングに呆れる常識人。

理解できぬことですが、奴らにとっては『名誉の自殺』

日本人にもあると聞きますね、ハラキリーカミカゼー。

もちろん、常識人にも理解できませぬ。

しかし、常識人は優しく彼らを見捨てたくない。

隣人、皆愛せよ。

同胞達をみな生かしたいと思うのは、エゴなのか?


そこで常識人はうんうん唸りながら考えた。


みんな死にたがるのは、現世がダメだからでは?

来世に希望を託し、現世を諦めているのでは?


文明が発達していないレミング社会。

人口を規制しているのは食料が足りないからかもしれない。貧しいからかもしれない。必要だからかもしれない。

生き延びる為の人身御供。

ならば、ならばならば。


ならば、現世を良くしてやるまでよ。


男前な常識人レミング。

皆々様のために行動を起こす。

考えもすごいが行動力もすごい。

行動力もすごいが、才能も努力も兼ね備えている。

挙げ句の果てにレミング達の人望も得て、社会のトップに成り上がる。

瞬く間に文明は発展し技術革新、食料の危機もなく、レミング達は幸せになった。

いやはや、鼠ごときがやりおる。素晴らしい。


「これで同胞が死ぬこともあるまい。自殺の制度がようやく終わるか」

「何をおっしゃいますか、王様、我等の在り方止めますな」

「何をいいおる。大臣よ。死ぬ必要などどこにある」

「必要など元からありませぬ。必要など意味がありませぬ。我等は望んで死ぬのです」

「我等の大敵、飢餓も病気も戦争も。発達した文明の前に消え絶えた。皆が幸せであろう。より良い来世など、これ以上あるまい」

「いえいえ、王様。勘違いなされるな。それは言い訳です」

「言い訳とはなんぞ?」

「より良い来世など誰も信じてはおりませぬ。ただ理由であるだけ」

「理由だと?」

「そう、我等は『来世を信じるにて自殺する』わけでなく、『自殺する理由にて来世を信じた』ので」

「何を言う。まるで我等レミング。死ぬ為に生まれたような言い草よ」

「さいで。我等の本能は死を望んでおり。しかして、我等の本能は種族を生き延ばすことを望んでおり。自殺の歯止めにて、この制度をあれり」

「なんと」

「皮肉にも、王様には死の本能が薄く、故にレミングたる所以も薄く、我等が同胞の気持ちに疎かったのかと」

「馬鹿な。ならば、同胞はこれからも死ぬ、と」

「しかり。貴方の作った社会のおかげで、より多くレミングは死ねる、かと。赤子は多く生まれ、その分同胞は多く逝く。感謝いたしますぞ、王様よ」


あわれ常識人は文明を発達させた結果、同胞をより多く殺すこととなりまして。

いやはや、レミングの業は深く、生まれが多くなれば死ぬ者も多くなる。

『美徳の数字』に従いて、人口は変わらずまた文明は停滞す。

レミング達は荒波に揉まれ、海の藻屑と消えていく。


また一人、レミングが崖の淵に立ち、憂いの瞳で大海を眺め見る。

常識人と呼ばれた彼は、他のレミングと違い絶望に抱かれている。

天に向かって小さく鳴くと、ふらりと揺らめきレミングの業に従いて波間に消えた。

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