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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レミングの常識人

作者: tismo


いやはや、あなた方にはご存知ない話かもしれませんがね?

人間に集落があり、国を作って、文明を築いたように、どんなケモノにも同じようなのがあるんですよ。


もちろん、あなた方の住まう世界ではありませんよ。

世界は小さく不器用ですからね、一つの世界で繁栄できるのは一つだけ。

あなた方の世界はたまたま人間だったんでござんす。


世界は無限にありまして、そん中の一つ。

ケモノの中でも特にの変わり者。

『レミング』っちゅー種族がいたわけですわ。

確か『旅鼠』とも呼ばれる慌ただしい連中ですな。

その世界では奴らも人間と同じようにしゃべりまして、火を起こし、道具を使うようになるんであります。

でも、人間のと違って、奴らの文明はいつまで経っても成長しないんすわ。

なぜだかわかります?


奴ら自殺するんすよ。


奴らには『美徳の数字』というレミングだけの独自の概念がありましてね。

奴ら美徳の数字に従って、人口を調節してるわけです。

赤子が生まれるたび無作為に贄を選んで、選ばれたやつは喜んで崖から落ちるわけですわ。


自殺をするから人口が増えない。

人口が増えないから、文明も発達しない。


いやはや、悪溜まりですな。

それでいて、奴らは満足。幸せなわけです。



さて、話はここから始まるわけですがね。

ちょっと寝ないでお客さん。金払って聞いてんでしょ?退屈なんはわかりますから。


変わり者なレミングにもまた常識人がいるわけですよ。


これはおかしい。

何故死ななければならんのかってね。


頭を回転させるわけです。

この慣習に反対しまして、自殺者に選ばれても文句をつけて拒否したんです。

まぁ、他の奴は「おお、順番を譲るか。謙虚なやつめ」と喜ぶわけです。


この常識人はまたも戸惑う。だから問うたのでした。

「慣習なのに断ってよいのか」

「はぁ。慣習じゃなくて願望でし。我等、早く死んでより良い来世を望むので」

「来世もレミングならまた死ぬぞ?」

「されば、またより良い来世が待っており。良いこと尽くしの輪廻転生。いずれ死ぬなら、自ら死のうホトトギス。できるならまたレミングに生まれ変わりたいですなぁ」


はっはっはと笑うレミングに呆れる常識人。

理解できぬことですが、奴らにとっては『名誉の自殺』

日本人にもあると聞きますね、ハラキリーカミカゼー。

もちろん、常識人にも理解できませぬ。

しかし、常識人は優しく彼らを見捨てたくない。

隣人、皆愛せよ。

同胞達をみな生かしたいと思うのは、エゴなのか?


そこで常識人はうんうん唸りながら考えた。


みんな死にたがるのは、現世がダメだからでは?

来世に希望を託し、現世を諦めているのでは?


文明が発達していないレミング社会。

人口を規制しているのは食料が足りないからかもしれない。貧しいからかもしれない。必要だからかもしれない。

生き延びる為の人身御供。

ならば、ならばならば。


ならば、現世を良くしてやるまでよ。


男前な常識人レミング。

皆々様のために行動を起こす。

考えもすごいが行動力もすごい。

行動力もすごいが、才能も努力も兼ね備えている。

挙げ句の果てにレミング達の人望も得て、社会のトップに成り上がる。

瞬く間に文明は発展し技術革新、食料の危機もなく、レミング達は幸せになった。

いやはや、鼠ごときがやりおる。素晴らしい。


「これで同胞が死ぬこともあるまい。自殺の制度がようやく終わるか」

「何をおっしゃいますか、王様、我等の在り方止めますな」

「何をいいおる。大臣よ。死ぬ必要などどこにある」

「必要など元からありませぬ。必要など意味がありませぬ。我等は望んで死ぬのです」

「我等の大敵、飢餓も病気も戦争も。発達した文明の前に消え絶えた。皆が幸せであろう。より良い来世など、これ以上あるまい」

「いえいえ、王様。勘違いなされるな。それは言い訳です」

「言い訳とはなんぞ?」

「より良い来世など誰も信じてはおりませぬ。ただ理由であるだけ」

「理由だと?」

「そう、我等は『来世を信じるにて自殺する』わけでなく、『自殺する理由にて来世を信じた』ので」

「何を言う。まるで我等レミング。死ぬ為に生まれたような言い草よ」

「さいで。我等の本能は死を望んでおり。しかして、我等の本能は種族を生き延ばすことを望んでおり。自殺の歯止めにて、この制度をあれり」

「なんと」

「皮肉にも、王様には死の本能が薄く、故にレミングたる所以も薄く、我等が同胞の気持ちに疎かったのかと」

「馬鹿な。ならば、同胞はこれからも死ぬ、と」

「しかり。貴方の作った社会のおかげで、より多くレミングは死ねる、かと。赤子は多く生まれ、その分同胞は多く逝く。感謝いたしますぞ、王様よ」


あわれ常識人は文明を発達させた結果、同胞をより多く殺すこととなりまして。

いやはや、レミングの業は深く、生まれが多くなれば死ぬ者も多くなる。

『美徳の数字』に従いて、人口は変わらずまた文明は停滞す。

レミング達は荒波に揉まれ、海の藻屑と消えていく。


また一人、レミングが崖の淵に立ち、憂いの瞳で大海を眺め見る。

常識人と呼ばれた彼は、他のレミングと違い絶望に抱かれている。

天に向かって小さく鳴くと、ふらりと揺らめきレミングの業に従いて波間に消えた。

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