愛のシルシ
ひとあし早く、クリスマスの話を書きました(でも、そこまで関係してないかも)。愛が欲しい彼女と、不器用な彼の話です。
私の彼は、イジワルで冷たくて優しくなくて、甘い台詞をひとつもくれないような人です。
だから、私は決めたの。クリスマスまでに、なんとか愛の言葉を言わせるって!!
*愛のシルシ*
12月の気温とは程遠い私の暖かい部屋で、彼と一緒に過ごしていた。窓ガラスが曇っていて、外の寒さがよく分かる。屋内デートにして正解。
私は彼の肩に、コツンと頭を乗せた。彼は横目で見たけれど、それ以上なにも言わない。拒絶はしないから、嫌じゃないみたい。
(でも、彼女がこういう仕草したら普通肩抱くとかしない?
…別に期待はしてなかったけど。)
彼の表情を上目でうかがうと、彼も私を見てきた。少しドキッ、としたのは秘密。
「…なんだ?」
仏頂面で問われた。そんな怖い顔してるから、皆寄りつかないんじゃない。彼曰く、普通の顔らしいけど。
「冬は人肌恋しくなる季節なの。って事であっためて♪」
「なんだそれ…、くだらない。」
呆れた様にため息をつく彼。いつもなら気にしないのに、なぜか心に刺さった。きっと、こんなに寂しいのはこの季節のせいだ。どんなに暖かくしたって、どこか空気が冷めざめしていて、身体だけじゃなく、心まで凍える。
「…そろそろ帰るか。」
彼の声にハッとする。時計を見ると、短針が8時をさしていた。外は暗く、風でカタカタと窓が揺れてる。
「え、今日は泊まっていいよ?お母さん達いないし…。」
離れたくない、そう言いかけたところで、口を閉じた。そんな事言ったって、無駄な感じがして──。
「お前は良くても、俺はよくないんだよ。」
彼は淡々と言い放ち、立ち上がってコートを着る。
帰っちゃう
帰っちゃう
帰っちゃう
同じ言葉が頭の中を繰り返し巡った。でも、そんなワガママ言えない。
(らしくないや…。今の私、かなり女々しいかも。)
「冬なんか大嫌い。」
小さな声で呟く。
「ん?なんか言ったか?」
「べっつにー。」
わざとそんな言い方して頬をふくらませてみると、彼はフッ、と柔らかな笑みをこぼした。
「なんだよ、変な奴だな。」
そう言って、私の頭を撫でる。
(この表情、好き…。)
ポーカーフェイスの彼が時々見せる、優しい笑顔。胸の高鳴りが止まらない。安心と、幸せ。この度に私は、彼を好きだと再認識する。
「寒そうだね。マフラー貸そうか?」
玄関までの短い見送り、途中まで送ると言ったけれど、断られてしまったから。外は雨が降ったら雪になりそうな程、冷えてる。
「いや、いらない。それじゃまたな。」
「うん、バイバイ。」
彼が背を向ける。私は笑顔で手を振った。取り繕いの、笑顔で。
(もうすぐクリスマスなのに、何も言わないんだ?)
途端に寂しさがこみあげてきた。今すぐにでも、その背中に抱きつきたい。
ガチャ―…
そんな私の望みも儚く、ドアを開ける音が悲しげに響く。
「あ、」
「え?」
外へ出る前に、彼が振り返った。そして──
「そうだ、クリスマスどこか一緒に行くか?」
「!!い、行く!」
彼の予想外の誘いに、私は考えるより先に即答した。
「じゃ、行く所考えておけよ。じゃあな。」
そう言って彼は、寒い闇夜へと出ていった。
「や、やったぁー…。」
私は玄関に座りこみ、一人呟いた。自然と頬が緩んでしまう。はたから見たら、にやけてる変な人だ。
でも、それくらい嬉しい。クリスマスが最高の1日になるよう、私は今から予定を考えこんだ。
† † † † † † † † †
長いマフラーをたなびかせ、ミニスカートにブーツだというのに、私は全力疾走中。せっかく長時間かけてセットした髪も、おおいに乱れてるだろう。
(なんでこういう日に遅刻するの私っ!?)
時計の針は、約束の時間より30分も進んでる。無理矢理針を集合時間に戻したいと思ったけど、そんな無駄なことやってる暇はなかった。
(まだ彼がいますように!)
携帯はつながらず、なす術のない私は、すがるように何度も心の中で祈った。
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
集合場所に着いたのは更に10分後。息を整え、周りを見渡す。彼の姿は、ない。
(帰っ、ちゃった?)
真冬の中走ったせいか、肌は冷えてるのに体の中が熱い。 私は近くのベンチに座り、深呼吸をひとつ。冷えた指先を擦り合わせ、息を吹きかけた。
40分の遅刻。当然といえば当然かもしれない。だけど……
「──ッ、」
鼻がツンとして、目頭が熱くなる。今にも雫がこぼれそう。
「バカ、最低、冷酷男、女の敵、スケコマシ。」
思い付く限りの彼の悪口を、並べてみる。だけど空しさは一層積もるばかりで、瞳は更に潤う。
「結局私のこと愛してないんだ。」
「なんでそう思う?」
独り言なのに返された問い。
「だって、肩抱いてくれないし。」
「それは、嫌がられたくなかったから。」
「送らせてくれないし。」
「風邪ひいたらどうするんだよ。」
「私しか、好きって言ってないし。」
「…………。」
黙りこむ彼。ほら、やっぱ言えな───アレ?なんかおかしいよね?
『独り言なのに返された問い』?『黙りこむ彼』?
(えーと……。)
「えっ!?」
「遅ぇよバカ。」
驚いて振り返るとそこには、愛しい人が息を白くさせ立っていた。
「帰ったんじゃ…」
「なんでお前置いて帰れるんだよ。なかなか来ないから、近く少し探してた。」
「そっか…ごめん。」
彼は鼻を赤くさせ、額には汗がにじんでた。心配して探し回ってたのかもしれない。
(愛…感じるかも。)
遅刻した身だというのに、不謹慎な事を思ってしまう。
彼は照れ屋なのか、不器用なのかわからないけど、愛の言葉がないとやっぱり不安。
私は彼の瞳をじっ、と見つめた。彼の頬がほんのり染まる。
「…俺は、冬は嫌いじゃない。」
「はっ?」
検討違いの言葉。誰が季節の話などしただろう。
「お前が寒いって言って、俺に触れてくるから…。」
「……!」
彼の台詞を理解した途端、顔に熱が集まるのが分かった。だってそれは、『好き』の一言よりずっと愛を感じた。
「…私も、嫌いじゃないかも。触れる理由が、できたから。」
私はそう言って、彼に抱きついた。寒いと泣いていた体はいつのまにか火照り、じんわりとした熱を彼とわけあう。彼も私を抱きしめて、私の耳元で小さく囁いた。
『メリークリスマス』
━━━━━HAPPY END━━━━