ライチ
『ぉお!! こ、これが……! かの有名な楊貴妃が食べたという……。ん? いや……クレオパトラだったな? いやいや、違う違う。……小野小町って事は……、ないないないない。うん。やっぱりそうだ! 楊貴妃であってる。……これを食べれば俺も……』
「あんた何泣きながら、ライチ貪り食べてるの!?」
いつの間にか、俺の前に姉が立っていた。
「あっ! アネキ! ………聞いてくれよ! 俺、この前のバレンタイン。一つもチョコ……貰えなかったんだ」
「で……、ライチを食べて美男子になろうと?」
「そうさ! かの有名な楊貴妃も美しさの秘訣の為に食べたという幻のフルーツ! これで来年、女子達を見返してやるんだぁ!」
「本っ当に、あんたバカね。そんなの食べたからって、美男子になるわけないでしょう」
「アネキに俺の気持ちが分かるのかよ!」
「だからぁ~。泣きながら食べなくても、いいじゃない……。それに、あんたチョコレート貰ったじゃん」
「いつ!? 誰に!?」
「あげたじゃん。わ・た・し・が……」
そう言って姉は部屋から出て行った。
『……チョコって、ポッキー1本じゃねぇか!! 俺ってどこまで、惨めなんだ……』
ライチを食べる手も止まり、ただうなだれるしかなかった。
「ねぇねぇ母さん聞いてよ。あいつったらさ、バレンタインにチョコ貰えなかったからって、泣きながらライチ食べてるのよ。バカだと思わない?」
「そう? あっち見てご覧なさい。父さんもチョコ貰えなかったらしくて、今泣きながらレモンパックしてるわよ」
「も〜! 父さんまで! 私がポッキー1本あげたでしょ!!」