仏への道
『この世の真理は、無限の宇宙に在り。……今、眼に映る現実が、この世の真理の現実ではない筈だ! 俺は今、無限の宇宙と同化を行い、凡人には見えぬ、世界の真理を我が眼に映しだすのだ! ………心頭滅却すれば火もまた涼し。………疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵し掠めること火の如く、動かざること山の如し。………光陰矢の如し。……いや、これは違う。……悟りだ。悟りをひらくのだ!! ………ほら、……見えてきた。……見えてきたぞ。………ばあちゃん……、ばあちゃんが手招きしてる………。あぁ! ここは違う! 悟りをひらくつもりが、死後の世界へ通じてしまった………。無心。………無心に徹するのだ!!』
「……!! ちょっ………!!」
「………」
「あん………! ……てるの!!」
『何やら、うるさい小蠅がおるようじゃの。無心じゃ。無心なのじゃ!!』
「こ……!! もう!! ………!!」
『ようやくどこぞへ行きよったか。無心。無心に徹するのじゃ!』
「お母さ〜ん!! アイツが! アイツが!! 井出らっきょになっちゃった!!」
『誰が井出らっきょだ!! あ!! 無心……が………』
「へ〜、そうなの? あの子ったら、井出らっきょになっちゃったんだ」
『母さんまで!! あ〜!! 悟りが遠ざかっていく……』
俺は座禅を組むのを止め、部屋から顔を出すと大声で叫んだ。
「誰が井出らっきょだ!!」