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シンクロ

 「小説ってさ。長い文章の事だけだと思ってたら、短い文章でも短編とか掌編っていうのもあるんだってさ。でよ! 俺もその掌編ってのを書いてみたんだ。見てくれよ」


 俺はそう言って、数枚の原稿用紙を姉に差し出した。姉は「ふぅ〜ん」と言いながら、原稿用紙に目を落とした。




【暗い夜道を一人の女性が歩いていた。彼女は仕事帰りらしかった。女性が家の近くの公園の側まで行くと、公園の中で蠢く影を発見した。女性は不思議に思い、近付いていった。すると、突然その蠢いていたモノは彼女に襲いかかった。それは口から血を滴らせた男だった。彼女はとっさにポケットの中の携帯を取り出すと、男から少し離れた所へ行くと電話で何やら話始めた。暫くして、男の傍へ戻ってくると

「大丈夫ですか? 今救急車を呼びましたので!」

と男の背中をさすり始めた。男はどうしていいか分からず、その場にうずくまると、女性にただただ背中をさすられていた。暫く経って救急車がやってきた。救急隊の人はその男に近付くと、少し話をしてから女性に話し掛けた。

「犬。喰ってたんですよ。吐血じゃありませんでした。今度からよく見て通報して下さい!」

そう言い残して去って行った。

「犬。食べてたんですか……?」

彼女が尋ねると、男は

「腹が減って」

と答えた。

「そう。時間を無駄にしたじゃない!」

そう言って女性は男に一蹴を浴びせると、家に帰っていった。

 男はただ、口から犬の血を垂れ流しながら立ち尽くしていた。】




 「これ。何が面白いの?」


読み終えたのか姉が聞いてくる。


「なんとなく書いてみた」


そう答えると、


「バッッカじゃない!? 時間の無駄ね!」


と言い残して部屋から出ていった。



 俺は投げ捨てられた原稿用紙を、ただ見詰めているだけだった。






『……っておい! これ、犬喰ってたヤツと俺同レベル?』




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