姿勢
『気持ちの切り替えには髪型の変化が最も有効であると聞く。失恋を経験した女性が、気持ちの切り替えの為に、髪をバッサリと切り落とすというのは、よく聞く話だと思う』
「ねぇ……。勉強の途中、悪いんだけど……」
この女は『ノックは常識でしょ!!』と言いながら、ノックもせずにいつも隣にやってくる。
「何!?」
俺はいつもの事なので、無愛想に返事した。
「その頭……」
『また頭の話か……』俺はうんざりした。今日、学校でも散々言われてきたばかりだ。それを家に帰ってきても、このノックを知らない女に言われるとは……嫌になる。
「頭がどうしたの!?」
相変わらず無愛想に聞く。
「どうして、河童なの?」
どいつもこいつも、俺の頭を見て河童、河童と言いやがって……。バカじゃないのか!?
「河童?」
そう聞き返すと、
「河童じゃない!! てっぺんハゲにして、周りの髪だけ残すなんて、どこからどう見ても河童にしか見えないわよ!」
呆れているのか、怒っているのか分からない口調でまくし立てられた。
「西暦1549年。日本にキリスト教を伝えた偉大なる宣教師……。フランシスコ・デ・ザビエル」
そう答えると
「ザビエル? あぁ、フランシスコ・ザビエル。えっ! ザビエルカット!?」
と小首を傾げた後、納得したのか、半ニヤの状態で「ザビエル……ね……」と言いながら出ていった。
まったく! どいつもこいつも【フランシスコ・ザビエル】などとぬかしやがって!! 正式名は【フランシスコ・デ・ザビエル】だ!
『ザビエルカット、そんなに目立つか?』