嘘ぉ!
今日の俺はいつもの俺と少し違う。姉がいないから、ノックもせずに勝手に入ってくるバカもいねぇ。だから……、友達から借りたエロ漫画(雑誌)をベッドの上で読んでいるんだ。
『ぉお! うわっ! えっ、そんな事しちゃうの!?』
夢中で雑誌を読んでいると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。急いで枕の下に雑誌を隠すと、本棚から適当な漫画を取りながら
「誰ぇ? どうぞ〜」
と言って、また同じ姿勢に戻った。
入ってきたのは母だった。母は近くまで来ると、
「また、それ読んでるの? 飽きないわねぇ」
と言っていたが
「何? 何か用事?」
と訊くと
「ちょっと……ね。後で台所まできてくれる? ……それと、その本逆さまよ」
とだけ言うと、俺の返事も聞かずに部屋から出ていった。
『へ? 逆さま……って、あぁ!! 本当に逆さまに持ってる! ……しかも、本が枕の下からはみ出てるし……。もしかして……バレてる?』
なんて思いながら、雑誌をカバンに直すと、台所へ向かった。
『コレって【頭隠して尻隠さず】ってヤツだよな……』
台所に行くと、母が椅子に座って待っていた。
「何?」
と尋ねながら俺も椅子に座る。
「あのね……」
と暫くの間を置いて母が口を開いた。何を言われるのかと思うと、知らず知らずのうちに体に力が入る。
「あのね、アンタ医者になりなさい!!」
唐突に言った母の言葉の意味が分からずに
「は?」
と間の抜けた声が出た。
「だから、医者になりなさいって言ってるの!」
とまた言う。
「どうして俺が医者にならないと……ってか、なれないし!!」
と反論すると、母は真っ直ぐリビングを指差し
「あんな風になりたくないでしょ!!」
と言った。おもわずリビングへ目をやる。………そこには、ズボンの中に手を入れ、尻を掻きながら、片肘で寝転んで、おかきを食べながらTVを観ている父がいた。
「そうだぞ!! こんな風になりたくないだろ!」
と重ねて父も言う。
『いやいや、父さん。そこは反論するところじゃ……ないのか?』
と思っていると、
「という訳でコレ!!」
と母が言うとテーブルの上に《ドン!!》と音を立てて本の山が積まれた。
『えぇぇ!! マジでぇ!』
と思っていると、
「こんな風になるんじゃないぞ!」
と父が言う。
『だから、テメェがそれを言うなよ……』
と思いながら、本の山を持って部屋へと戻った。後ろから
「頑張って勉強してねぇ!」
という母の間の抜けた声と
「父さんみたいになるなよ〜!」
という父の声を聞きながら……。
『はあぁぁぁぁ……。前途多難だ。これから、どうしよう……。……ってか父さん!! 威厳も何もねぇんだな!』