婚約破棄。無表情公爵令嬢には猫耳と猫尻尾が生えている。
ああ、猫耳様と猫尻尾様が、今まで以上に荒ぶっておられる。
場面は、貴族学園の卒業パーティーが妥当だろう。
「ペルシャ公爵令嬢、婚約破棄するっ」
「真実の愛に目覚めたのだ」
アルフレッド王太子が叫んだ。
叫んだ先には白銀の髪。
切れ長で赤い瞳。
怜悧な美貌を持つ令嬢。
ついたあだ名が、氷雪の令嬢。※1
六歳から十八歳まで。
十二年間続いた婚約を破棄されてもペルシャの表情はピクリとも動かない。
ピンと伸びた背筋は微動だにしなかった。
厳しい王太子妃教育の賜物である。
しかし、頭上の猫耳が、
『そんなこと聞いてないよう、どうしよう、どうしよう』
といわんばかりに、ぴこぴこぴこぴこせわしなく動いている。
「…………」
アルフレッド王太子がしばらく、動き狂う猫耳を見た。
「……フェリシア男爵令嬢をいじめたな」
「教科書を隠したり、机を汚したり、階段から突き落としたりしたな」
「いや~~ん、怖かったですゥ」
ピンク髪で胸部装甲の厳つい小柄な令嬢が、いろいろなものを押し当てる。
「しておりませんわ」
言葉少なく答えるペルシャ令嬢。
無表情だ。
が、瀟洒なドレスから出たしなやかな猫尻尾が、
『やってないっ、やってないわっ、冤罪よ~~』
と、ペしぺしぺしぺし左右に揺れながら床を叩いていた。
「…………」
アルフレッド王太子がしばらくリズムよくたたかれる床の音を聞いた。
「下級貴族をいじめるようなものに王妃は適さない」
「国外追放とする」
「そうですよう、あやまってください~~」
甘ったれた声を出すフェリシア男爵令嬢。
「この婚約は政略です。王陛下は知っているのですか?」
相変わらず平坦な声。
無の境地だ。
猫耳がピンと立った。
『これならどう? どう?』
ドヤ~ッという擬音まで聞こえてきそうな天晴れな立ちっぷり。
おもわず、後ろにいた側近たちが拍手を送りかけ、必死に止めた。
「…………」
アルフレッド王太子が拍手しそうな側近を睨みつける。
「王陛下は外交のため遠征中である、今自分が王の代理だっ」
「そうですか、婚約破棄はお受けします」
何の感情の感じさせない棒読みのセリフ。
ペタリ。
猫耳がこれ以上ないくらい伏せられる。
『もう無理なの~、だれか、だれか助けて~~』
見るものすべての庇護欲をそそらざるを得ない、見事な猫耳の伏せだった。
「「「「た、助けてあげるよおおお」」」」※2
「おいっっ」
側近たちを一喝して止めるアルフレッド王太子。
「…………」
「そこまでわかりやすかったら、違う意味で王妃は無理なんじゃないかな?」
アルフレッド王太子が真顔で言った。
「いらないなら俺がもらおうっ」
「あなたは?」
無表、以下略。
「隣の国の第一皇子、エルバートだ」
ぴこぴこぴこぴこ
ブワアアアアアア
「ああ、猫耳様と猫尻尾様が、今まで以上に荒ぶっておられる」
アルフレッド王太子が悟りをひらいた様に言った。
猫耳が暴れ、猫尻尾が三倍近く膨れ上がる。
「あなたの色々なところに惚れました」
特に頭と腰あたり。
「婚約してください」
膝まついてペルシャの手を取るエルバート第一皇子。
「……お受けしますわ」
怜悧で無表情な美貌。
頭と腰回りはとんでもないことになっていた。※3
ペルシャは正式に隣国の皇子に嫁いだ。
アルフレッド王太子が、勝手に婚約破棄し冤罪を押し付けた罪もあるが、国民に圧倒的に人気のあったペルシャを他国に追いやったとして、特にNEKOMIMI党とNEKOSITTUPO団※4に目をつけられ、廃嫡に追いやられた。
国の至宝をたやすく他国にわたしてしまった罪は重いと言わざるをえない。
今回の件でフェリシア男爵令嬢は、すっかりペルシャ(の猫耳と猫尻尾)のファンになり、自分から国外追放を宣言して(←セルフ国外追放)隣国まで追いかけて行った。
その後、エルバートはペルシャをこの上なく溺愛し、二人の間に五人の子供を産み幸せに暮らした。
五人の子供には大層愛らしい、猫耳と猫尻尾がついていたという。
めでたしめでたし。
※1:正確には氷雪の令嬢(笑)。
※2:宰相の息子、騎士団長の息子、大商人の息子、魔法師団長の息子の四人。
※3:モザイクが必要かもしれない。
※4:国内の二大派閥であり二大秘密結社。普段はあまり仲がよろしくない。高位貴族から大商人、庶民まで身分を問わず在籍している。王陛下はNEKOSITTUPO団、王妃はNEKOMIMI党で、王宮で猫耳、猫尻尾戦争が勃発するという噂だ。
ドリフターズのコント「もしも、悪役令嬢に猫耳と猫尻尾が生えていたら」
お後がよろしいようで。




