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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-王都編-
6/18

グラディアス公爵家②


 ──あのヴィエラが男に興味を持った。


 兄弟たちの衝撃に、母セラフィアも深く頷く。


「この前、ストーンリッジ伯爵家のお茶会に連れて行ったのだけど、そこで出会ったご令息を今日招待しているのよ。勝手に」

「勝手に?!」

「あ! それで父上が朝からバタバタしてたのか……」


 父親である『アルノア・ロ・ヴァルディア・グラディアス』はこの家だけでなく、国内の軍事力をすべて統括する偉大な大黒柱だ。そんな父親が今朝方慌てた様子で使用人たちに指示を出していた。どうやら賢いが故に黙っていた娘の『無断招待』に急いで用意を整えようと指揮を執っていたらしい。


 元より邸宅内は美しく保たれているが、それはそれ。どんな形であれ『客人』を迎え入れるのであれば相応のもてなしは必要である。公爵家としても手を抜くことは出来ない。


 巻き込まれる形で知ることになったセラフィアもようやく一息ついたところで、精神的疲労も相まって非常に疲れた顔をしていた。


「なあ、兄上。こっそり見に行ってもいいと思うか?」

「ダメだろう。ヴィエラに気付かれたら怒られるぞ」

「でもドアは閉め切らないだろう? 通りすがる振りしてチラッと見るのはありだろう」

「ヴィエラにバレたらどうなるか……。はあ、僕は知らないからな」


 心配しているのか興味があるだけなのか。それとも兄としてからかいたいだけなのか。イリアスはニヤリと笑って窓辺に近付く。そうしてガラガラと音を立てて入ってきた馬車に視線を落とすと目を細めた。


「流石にここからじゃ中は見えないな」

「当たり前だろ。それより、無鉄砲に突っ込んでヴィエラを怒らせるなよ」

「分かってるよ。それじゃあ偵察に行ってくるぜ!」


 意気揚々と出て行った次男を呆れた顔で見送りつつ、長男であるエルディオンは手にしていた書類を抱えなおす。


「これから来客があるのでしたら、この書類はまた後程お持ちしますね」

「はあ……。そうして頂戴」


 額を抑える母親に苦笑いを返し、エルディオンは退室する。


 母親は元王女ではあるが、王家にしてはかなり気さくな人である。『ルファリエ』という、王族にのみ名乗ることを許された尊称に加え、褐色の髪に赤い瞳と王家を象徴する色をすべて持ち合わせている。そんな高貴な色を一色たりとも受け継がなかった自身とは違い、ヴィエラは母親と同じく赤い瞳を持っている。


 それでも自分も王家の血を引く身だ。王家の男のみが名乗れる『ラディウス』の頭文字である『ラ』の尊称を名乗ることを許されている。

 基本的にこの尊称を名乗れるのは『親族に王家の血が入っている者』のみだ。その点父親は王家の血が薄いため、一人だけ『ロ』と尊称を変えている。これは『ラ』の名を名乗るのは恐れ多いからと、敢えて『ロ』を使うことが慣例だからだ。


 そんなことを考えつつ歩いていると、玄関口付近にまで来ていた。エルディオンはそっと階下を見下ろし、恐る恐ると言った様子でドアを潜る親子を見つめた。


(あれがストーンリッジ伯爵夫人と息子か……。それにしても、何故ヴィエラがあんな子供を?)


 ヴィエラ・ル・ルナリエ・グラディアスは非常に矜持が高く、苛烈で潔癖な少女だ。

 芸術を見分ける審美眼を持っているせいか、好き嫌いがハッキリとしており、嫌いな相手には容赦がない。そんな少女がわざわざ真新しいドレスに身を包んでまで挨拶をしている。


 エルディオンとて気にならないわけがない。


 幸いにして弟のように部屋まで行かずに済んだが、母親の隣でたどたどしい挨拶をする少年には目を見張るほどの魅力はない。クルクルとした天然パーマ気味の頭に、凡庸な茶色の髪にヒョロリとした体。顔立ちも自分達のように整っているとも言えない。

 容姿に恵まれているエルディオンは「あの少年のどこに惹かれたんだ?」と首を傾けるしかなかった。



二話目が長かったので分割しました。

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