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第十四章 偽りの光

ミレイユの言葉が現実になるまで、そう時間はかからなかった。

 数日後の夜、王都全域で魔石灯が一斉に明るさを増し、止まっていた噴水が突然動き始めた。城内は歓声に包まれ、役人たちは「祭壇の部分再起動が成功した」と浮き足立った。

「誰が許可したんですか」

 ひまりが声を荒げると、セレナが悔しそうに唇を噛んだ。

「緊急対応として宰相権限で押し切られましたわ。ヴァルドです」

 王都の表面だけを見れば、成果は劇的だった。

 夜道は明るく、工房の魔道具は安定し、広場の水も勢いを取り戻す。民は喜び、新聞のような触れ文では“王都復興の第一歩”と持ち上げられた。

 だが、ひまりには違和感しかなかった。

 光が明るすぎる。水は走っているのに冷たすぎる。精霊たちは城の隅へ隠れ、まるで大きな音を嫌う鳥のように震えていた。

『いや』

『引っぱられてる』

『息できない』

 トトが青ざめたように小さく丸まり、ピィさえ暖炉の奥に潜り込む。

 ひまりはレオンと共に、王都外縁の畑へ向かった。表通りの繁栄とは逆に、外れの森では葉が一層色を失い、川辺では魚が浮いていた。

「王都へ集めすぎてる」

 ひまりは呟いた。

「周りから奪って、真ん中だけ光らせてる」

 レオンの表情が硬くなる。

「やはり祭壇は、共鳴ではなく吸い上げの装置として使われている」

 セレナは歯がみした。

「技法を半分だけ真似るとこうなるのですわ。場を整える過程を省き、力だけ取り出した」

 王城へ戻ると、ヴァルドが自信満々に成果報告をしていた。

「ご覧ください、巫女殿。現実に必要なのは結果です。王都は息を吹き返した」

「息を吹き返してなんかいません」

 ひまりは思わず言い返した。

「苦しくて無理やり呼吸させられてるだけです」

 会議の場がしんと静まる。

 ヴァルドは穏やかな笑みを崩さない。

「詩のような表現ですな。しかし民は光を必要としている」

「でも、このままだと周りから枯れていきます」

「周辺の調整は後で行えばよい」

「後じゃ遅いんです!」

 レオンが一歩前へ出た。

「祭壇の運用は停止する。直ちに」

「殿下」

「私は王都全体を見ている。目先の成果に酔うつもりはない」

 二人の視線がぶつかる。

 だが、その場では決着がつかなかった。宰相派も多く、祭壇停止は“民心を冷やす行為”と反発される。

 会議後、ひまりは悔しさのあまり中庭でしゃがみこんだ。

「私、もっとちゃんと説明できたらいいのに」

 言葉が足りない。感覚だけでは、人は動かない。

 そんなひまりの前へ、レオンが膝を折った。

「充分だ」

「でも」

「私は、おまえの言葉を信じる」

 真っ直ぐな声だった。

「だから、説明の足りない部分は私が補う。おまえは、おまえにしかできないことを探せ」

 その言い方が、ひまりの胸の奥をじんとさせる。

 守られているだけじゃない。信じられている。

 それが、こんなにも力になるなんて知らなかった。



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