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『大王様』のステージ、あるいは支配の旋律

七色ヶ丘商業という「鉄壁」を打ち砕いたぴかりが丘学院の前に、ついにその巨大な影が立ちはだかった。


私立ノーブル学園。 県内屈指のお嬢様校でありながら、アイドル部門においては「常勝」を義務付けられた絶対王政のユニット。その中心に君臨するのが、なぎさのかつての先輩であり、現・県内No.1ディーヴァ、青乃美希だった。


「……さて。ヒナ鳥たちの学芸会は、ここまでよ」


メインステージのバックヤード。美希がマイクチェックを兼ねて放った一節だけで、周囲の空気がキンと凍りついた。なぎさは無言で、その圧倒的な存在感を見据えている。


「なぎささん、あの人の声……スピーカーを通さなくても、心臓に直接響いてくるみたい」


みゆきが、思わず自分の胸を押さえて呟く。 美希の声は、ただ美しいだけではない。聴く者の感情を強制的に掌握し、ひれ伏させるような「支配」の響きを持っていた。


「ジャパン・ドーム・フェス、県予選準決勝。ぴかりが丘学院対、ノーブル学園。——スタート!」


ステージの照明が一斉に、ノーブル学園のテーマカラーであるロイヤルブルーに染まった。 先制攻撃を仕掛けたのは、ノーブル学園だった。美希が指先一つで合図を送ると、五人のメンバーがまるで美希の意思を拡張したパーツのように、完璧なシンクロ率で動き出した。


「なっ……速い!?」


日向咲が息を呑む。彼女たちのスピードは、みゆきたちの「変人速攻」のような荒削りな爆発力ではない。無駄を一切削ぎ落とし、最短距離で観客の視線を奪い去る「洗練された暴力」だった。


美希のソロパートが始まった。 その瞬間、会場のボルテージが跳ね上がる。 なぎさは、美希の放つ旋律の裏側を読み取ろうと必死に神経を研ぎ澄ませた。


(美希さんは、チームの能力を100%……いや、120%引き出してる。あの人に合わせるだけで、凡才さえも天才の動きをさせられてるんだ)


これこそが、なぎさがかつて「独りよがりの王様」と呼ばれていた頃に到達できなかった、真の司令塔セッターの姿だった。


一方、みゆきはステージ上で、これまでにない壁にぶつかっていた。 なぎさの超高速パスに合わせて跳んでも、着地した瞬間に美希がそこに立っている。美希は歌いながら、みゆきの視線、筋肉の動き、呼吸のタイミングまでを完全に予測し、ダンスのフォーメーションで彼女の「着地点」を潰しに来るのだ。


「……残念。あなたの『跳躍』、もう飽きちゃった」


美希が、みゆきとすれ違いざまに冷たく言い放つ。 みゆきの心が、一瞬だけ折れそうになった。自分の武器が、すべて見透かされているという恐怖。


「——みゆき!!」


なぎさの怒声が、ステージを貫いた。 「前を見なさい! 視界が狭まってるわよ! 相手の計算を上回れないなら、あんたはただの『跳び跳ねるだけの置物』よ!」


なぎさの言葉に、みゆきはハッと我に返った。 そうだ。自分一人では敵わない。けれど、自分にはこの「最強に性格の悪い、けれど最強に頼りになる司令塔」がついている。


なぎさは、あえてリズムを乱した。 美希の予測を外すため、ジャズのような不規則なシンコペーションを楽曲に混ぜ込む。その「崩れた音」に、みゆきが必死に食らいついた。


空中。 みゆきの瞳に、初めて「美希がいない空間」が見えた。 なぎさがこじ開けた、ほんの一瞬の空白。


「……ウルトラ、ハッピーーー!!」


みゆきの咆哮と共に、ぴかりが丘が反撃の一撃を叩き込む。 ノーブル学園の支持率が、初めて僅かに削られた。


美希は、乱れた前髪を払いながら、不敵に目を細めた。 「……ふふっ。いいわね、なぎさちゃん。ようやく、私を楽しませてくれるレベルまで堕ちてきたじゃない」


美希の瞳に、本気の「捕食者」の光が宿る。 ここからが本当の地獄だ。 烏たちの翼は、大王様の支配する空を、どこまで高く飛べるのか。


準決勝、第一トラックは、怒涛の展開と共に加速していく。

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