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決戦の号砲、そして繋がる想い

六月の朝、県立体育館の駐車場は、各校のユニット名が書かれた色とりどりのマイクロバスで埋め尽くされていた。ぴかりが丘学院アイドル部の六人は、黒いジャージに身を包み、独特の緊張感を纏ってバスを降りた。


「……ついに、来たね」


部長の日向咲が、会場から漏れ聞こえてくる複数の楽曲のリミックスと、観客の地鳴りのような歓声を聴きながら呟いた。その隣で、星空みゆきは緊張で顔を真っ白にしながら、何度も「ウルトラハッピー、ウルトラハッピー……」と呪文のように繰り返している。


「みゆき、あんた顔が死んでるわよ。ステージに上がる前に倒れないでね」 「だ、大丈夫ですなぎささん! 足がちょっと、生まれたての小鹿みたいにプルプルしてるだけです!」


なぎさは呆れたように肩をすくめたが、その瞳の奥には、これまでになく鋭い闘志の火が灯っていた。


一回戦の相手は、観星みほし学園。 咲にとっては、中等部時代に共にアイドルを目指した親友、佐々木たちが所属するチームだ。会場のロビーで、咲はその佐々木と再会した。


「咲! 本当にアイドル部に戻ったんだね。……でも、悪いけど今日は私たちが勝たせてもらうよ。私たちは、この日のために三年間のすべてを懸けてきたんだから」 「……うん。わかってる。私たちも、負けるつもりはないよ」


握手を交わす二人。しかし、その手はどちらも微かに震えていた。アイドルという残酷な世界では、どちらかの「最後」を、もう一方が引導を渡すことでしか終わらせられない。


「第3ステージ。ぴかりが丘学院対、観星学園。リハーサルを開始してください」


アナウンスが響き、六人は光溢れるステージへと足を踏み入れた。 観客席からは、かつての「落ちた強豪」に対する冷ややかな視線や、観星学園を応援する大声援が降り注ぐ。しかし、なぎさがポジションにつき、ヘッドセットのマイクを直した瞬間、ぴかりが丘の空気は一変した。


「……いくわよ。あんたたちの『翼』が、どれだけ高くなったか。世界に見せつけてあげなさい」


なぎさが再生ボタンを叩く。爆発的な重低音がスピーカーから放たれた。 先制攻撃はぴかりが丘。なぎさの放った超高速のリズムに、みゆきが反射的に反応する。東京合宿で桃園ラブに攻略され、そこからさらに磨きをかけた「変人速攻(超抜ダンス)」。


「——っっ、跳べ!!」


なぎさの声と同時に、みゆきが最高到達点で空気を蹴った。観衆が何が起きたか理解するより早く、みゆきの鋭いキメポーズと「一撃」の歌声が、観星学園のフォーメーションを真っ向から貫いた。


静まり返る会場。 そして、その直後に爆発的な歓声が上がった。


「な、何今の!? めっちゃ速い!」 「あの黒いジャージのセンター、誰!?」


一撃で空気が変わる。咲は、親友の佐々木が驚愕に目を見開いているのを見た。彼女たちの「普通に努力してきた三年間」を、みゆきとなぎさの「異常なまでの才能と進化」が、一瞬で置き去りにしていく。


「……ごめんね、佐々木。でも、これが今の私たちの、ぴかりが丘の『形』なんだ」


咲は心の中で謝罪し、すぐに次のステップへと意識を切り替えた。 夏木りんの完璧なカバー、九条ひかりの重厚なバラード、東せとなの精密なコーラス。六人の歯車が、かつてないほど滑らかに、そして残酷なほど完璧に噛み合っていく。


観星学園も必死に食らいついてきた。彼女たちは泥臭く、涙ぐましいほどの努力で音を繋ぎ、咲たちの背中を追う。けれど、なぎさが作り出す「絶望的なまでのリズムの支配」の前に、点数(評価点)は残酷に離されていった。


最後のサビ。みゆきがなぎさのアイコンタクトを受け、もう一度高く跳ぶ。 その瞬間、みゆきの脳裏には、合宿で見たラブの瞳や、会場で見かけた美希の冷笑が浮かんでいた。


(まだだ。こんなところで、止まってなんていられない!)


ドォォォン! という衝撃音に近い低音が響き、パフォーマンスが終了した。 モニターに表示された勝者は、ぴかりが丘学院。


鳴り止まない拍手の中、咲はネット——もとい、ステージの境界線を挟んで佐々木と向き合った。佐々木の目からは、堪えきれない涙が溢れていた。


「……咲。あんたたち、本当に……強くなったね」 「……佐々木」


「私たちの分まで、……絶対、ノーブル学園まで辿り着きなよ。負けたら承知しないからね!」


去っていく背中。それが、彼女たちのアイドルとしての終幕だった。 みゆきは、その光景を黙って見つめていた。勝つということは、誰かの夢を終わらせるということ。その重みを、初めて肌で感じた瞬間だった。


「……みゆき。浸ってる暇はないわよ」


なぎさが、冷たく、けれどどこか優しい声で呼びかける。 「次の相手は、もう向こうのステージで待ってるわ。『鉄壁』——七色ヶ丘商業よ」


みゆきは強く頷き、流した汗を乱暴に拭った。 一回戦突破。 烏たちが再び大空へと舞い上がるための、血と涙で綴られた序曲が終わった。 次なる敵は、かつてひかりの心を折った、あの絶酷なまでの守護神たち。


ジャパン・ドーム・フェス予選、本当の戦いはここから始まる。

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