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復活

「……やっぱり、歯が立たない」


部長の咲が、肩で息をしながら呟いた。 始まって数分。現役チームは、OGたちの熟練したパフォーマンスに圧倒されていた。派手な動きはないものの、彼女たちのコーラスは隙がなく、なぎさとみゆきの「変人コンビ」による強引な突破も、経験に基づいた冷静なフォーメーションで軽々と受け流されてしまう。


特に、ひかりを欠いた現役チームには、ここぞという時の「決定打」が足りなかった。


「……っ、なぎささん! もう一回!」 みゆきが叫び、ステージを縦横無尽に駆け抜ける。なぎさは限界までテンポを上げた超高速のリードを繰り出すが、OGたちは動じない。 「……無駄よ。今のあなたたちの歌には、芯がないわ」 OGの一人が放った冷徹な言葉が、みゆきの胸に突き刺さる。


その時だった。 ステージの袖で、マイクを握りしめたまま震えていた九条ひかりが、一歩前へ踏み出した。


「……代わってください」


消え入りそうな、けれど確かな声。 なおコーチがニヤリと笑い、音楽を一時停止させた。 「交代だ。……エース、お出ましだよ」


ひかりがセンターの位置に立つ。対峙するOGたちは、かつて自分たちが可愛がった後輩を、試すような目で見つめた。 再び音楽が鳴り始める。


ひかりは歌い出そうとする。しかし、喉が震えて声が出ない。一ヶ月前、伊達ヶ原の「鉄壁」に自分の歌がすべてシャットアウトされ、観客の視線が刃物のように感じたあのトラウマが、彼女の喉を締め付ける。


(……怖い。また、私の歌が誰にも届かなかったら。私の声が、このリズムを台無しにしてしまったら……!)


その瞬間、ひかりの背後から怒鳴り声が飛んだ。 「前だけ見てなさいよ、この弱虫エース!!」


夏木りんだ。彼女はひかりの真後ろで、地面に膝をつくほど低い姿勢から、OGの放った鋭いフェイクを完璧に拾い上げていた。 「後ろに私がいる! 横には、あんたの歌を信じて跳ぶ一年生がいる! 誰が一人で戦ってるって言ったのよ!!」


りんに弾かれた「音」が、なぎさの手元へと繋がる。 なぎさは、ひかりの目を見据え、かつてないほど高く、重厚な旋律を奏でた。 「……九条ひかり。これが、あなたへのパスよ!」


ひかりの目の前から、雑音が消えた。 視界に映るのは、なぎさが作り出した最高の旋律と、空中で自分を信じて「囮」として舞っているみゆきの姿。


「……ああ、そうだ」


ひかりは、大きく息を吸い込んだ。 自分は一人じゃない。このステージには、自分が打ち放つ声を、信じて、繋いでくれる仲間がいる。


「——っっっあああああああ!!!」


ひかりの喉から、爆発的なロングトーンが解き放たれた。 それは、重圧を、恐怖を、そして自分自身を縛り付けていた過去を、すべて粉砕するような「咆哮」だった。


OGたちの鉄壁のコーラスが、ひかりの圧倒的な声圧によって真っ二つに割れる。 レッスンルームの空気が震え、窓ガラスが共鳴するほどの衝撃。 エースの再臨。


「……決まった……!」 咲が、震える拳を握りしめた。


歌い終えたひかりは、肩を上下させながら、自分の掌を見つめた。 痺れるような感覚。けれど、そこにはもう「孤独」はなかった。


「……おかえり、ひかり」 りんと拳を合わせ、なぎさと視線を交わす。そして、目を輝かせて「すごいです、ひかり先輩!」と飛びついてくるみゆきを受け止める。


「……ただいま。……みんな」


ぴかりが丘学院アイドル部、六人の烏。 ついに、すべての翼が揃った。

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