”エース”への招待状
放課後のぴかりが丘学院、第2レッスンルーム。 そこには、現役の生徒たちとは明らかに異なる「空気」を纏った5人の女性たちが立っていた。夏木なおが招集した、町内会OG——かつてのぴかりが丘学院アイドル部卒業生を中心とした即席ユニットだ。
「……うわぁ、本物だ」 みゆきが感嘆の声を漏らす。OGたちの立ち居振る舞いは、派手ではないが洗練されており、何より自分たちのパフォーマンスに対する絶対的な余裕があった。
「なおちゃん、無理言わないでよ。私たちもう、現役みたいに動けないんだから」 笑いながらも、OGたちは慣れた手つきでステージの位置を確認していく。その動きの一つひとつに無駄がない。
なおはパイプ椅子に深く腰掛け、不敵に笑った。 「動けなくても、あんたたちには『経験』があるだろ。鼻の伸びた現役どもに、ステージの厳しさを教えてやってよ。……で、ひかり」
なおの視線が、レッスンルームの入り口付近で立ち尽くす九条ひかりに向けられた。 「招待状は出したはずだよ。……あんた、そこで指くわえて見てるつもりか?」
ひかりは震える手で自分のマイクケースを抱え、首を横に振った。 「……私、やっぱり無理です。チームの足を引っ張るのが……みんなが一生懸命繋いでくれた音を、私のせいで止めてしまうのが、怖いんです」
その弱気を、横から鋭い声が切り裂いた。 「……あんた、バカなの?」
夏木りんだ。彼女はひかりの前にずいと進み出ると、その胸ぐらを掴まんばかりの勢いで睨みつけた。 「あんたが足を引っ張る? あんたが音を止める? ……笑わせないでよ。私が、あんたの音を床に落とすとでも思ってるわけ?」
「りんちゃん……」 「アイドルは一人で歌うもんじゃないって、何度も言ったでしょ! 私がいる、咲さんがいる、なぎさがいる。そして……」 りんは、後ろでストレッチをしながらこちらをじっと見ているみゆきを指差した。 「……あんな無茶苦茶な新入生までいるのよ。あんたがどんなに壁にぶつかったって、私たちが何度でも繋いでやる。……あんたの仕事は、その繋がれた音を、ただ高くへ放り投げることだけなんだよ!」
ひかりの瞳が、わずかに揺れた。 そこへ、みゆきがひょこっと顔を出して、満面の笑みを浮かべた。 「ひかり先輩! 私、先輩の歌をまだちゃんと聴いたことないんです。でも、なおコーチが『ひかりが必要だ』って言った意味、私、知りたいです!」
沈黙が流れる。 なおは時計を見て、無造作にセットリストの再生ボタンに指をかけた。
「……開始だ。ひかり、嫌ならそこで見てな。ただし、あんたが逃げてる間に、その『エースの座』……あのピンクの頭の新入生に奪われるかもしれないけどね」
「——っ!」
ひかりの胸に、かつての闘志とは違う、焦りにも似た熱い感情が芽生えた。 OGたちのユニットがポジションにつく。なぎさが鋭いビートを刻み始め、みゆきが獲物を狙う烏のような目でステージを見据える。
ぴかりが丘学院、現役 vs OG。 エースを欠いたままの不完全な「烏」たちが、最強の「盾」と「翼」を武器に、伝説の先輩たちに挑む。
そして、ひかりはマイクケースを強く握りしめ、一歩、また一歩と、光の当たる場所へ足を進めようとしていた。




