面白いチーム
「……まさか、本当に連れてくるとはね」
放課後のレッスンルーム。二年生の夏木りんは、腕を組んで目の前の女性を凝視していた。 そこに立っていたのは、りんにとっても馴染みのある人物、商店街の駄菓子屋『ひなた屋』の店主・夏木なおだった。なおは少し面倒そうに耳をかきながら、部員たちを見渡した。
「夏木なおさん……。かつてぴかりが丘が全国を制した時の、伝説のセンターよ」 部長の日向咲が、誇らしげにメンバーに紹介した。 「ゴールデンウィークの七ツ橋戦までという条件で、私たちの『コーチ』を引き受けてくれることになったの」
なおは、おもむろにレッスンルームの隅に置いてあったパイプ椅子に腰掛けた。 「挨拶はいいよ。……で、これが今のぴかりが丘のメンツか」 なおの鋭い視線が、一人ひとりを射抜くように移動する。なぎさのところで少し止まり、最後はみゆきのところで静止した。
「……君が、なぎさを従えてるっていう一年生か」 「従えてるなんて滅相もないです! 私は、なぎささんのパスを……!」 「いいよ、説明しなくて。あんたの筋肉のつき方と、その落ち着きのない足。……見てればわかる」
なおは立ち上がり、おもむろにダンスシューズの紐を締め直した。 「いいかい、あんたたち。アイドルってのは、ただ綺麗に踊ってりゃいいってもんじゃない。自分たちの武器が何で、それをどう組み合わせれば相手の喉笛を噛み切れるか、それを知らなきゃ一生『飛べない烏』のままだ」
なおはホワイトボードを引き寄せ、即座に現在のフォーメーションを書き換えていく。 「なぎさのリードは確かに超一流だ。だが、今のあんたたちは、その『超一流』に振り回されてるだけだ。特に、そのリベロのりん。あんたのカバーは確かに正確だが、守りに入りすぎてる。もっと攻撃的な位置で音を拾いなさい」
的確な指摘に、メンバーの顔色が変わる。 「……流石ね。数分見ただけで、私たちの弱点を見抜くなんて」 なぎさが、不敵に笑った。
なおはニヤリと口角を上げた。 「面白いチームだよ。……欠けてるパーツがはっきりしてて、それでいて、とんでもない『爆弾』が二つも混ざってる。……これなら、あの七ツ橋の連中を驚かせるくらいはできるかもしれないね」
なおは再び椅子に座り、ポケットから携帯電話を取り出した。 「さて。……あんたたちの現状を確認するために、明日の放課後、練習試合を組んでやったよ。……相手は、私がかき集めてきた『町内会OGチーム』だ。引退してるとはいえ、昔取った杵柄。今のあんたたちがどこまで通用するか、お手並み拝見といこうか」
なおは少しだけ、視線をレッスンルームの入り口に向けた。 そこには、扉の影からじっと中の様子を伺う九条ひかりの姿があった。
「……ひかりも。明日、マイク持って来な。あんたを『招待』するように、あいつらに言っといたからさ」
なおの言葉に、ひかりの肩がびくりと跳ねた。 「面白いチーム」に、欠けている最後のエースというピース。 それをどう嵌め込むか。コーチとしてのなおの初仕事が、静かに始まろうとしていた。




