校外学習-班決め
春の光が差し込む教室。二年生になって最初の大きなイベント――校外学習の班決めが始まろうとしていた。担任が「四人一組で」と声をかけると、教室内は一気にざわめき、あちこちで友達同士が手を取り合う姿が見えた。
桜花も、すぐに声をかけられる。
「サクラー!一緒の班、なろ!」
琳子が笑顔で手を伸ばしてくる。桜花も微笑み返し、その手を握った。
「じゃあ、あと二人だね」
「うん、誰がいいかな」
その時、後ろの席から聞き慣れた声が飛んできた。
「おー、桜花と琳子ちゃん、もう組んどるんか」
振り向けば、直哉が教科書を小脇に抱えて立っていた。ふわっとした笑みを浮かべて、当たり前のように二人の輪に加わる。
「直哉?」
桜花は一瞬、心臓が跳ねるのを感じた。まだ再会の余韻が続いている。小学生のころの“直哉”が、今は同じ制服を着て目の前に立っていることが、いまだに夢のようだった。
「俺も入れてや」
気楽な口調に、琳子が「いいじゃん!うちら3人なら楽しいし!」と即答する。桜花は苦笑しつつも頷いた。
「よし、あと一人……」
琳子が周りを見渡していると、少し離れた席からひょいと手が挙がった。
「お前らの班、空いてるか?」
現れたのは藤代竜星。桜花とは同じクラスだが、普段はあまり関わりのない男子だ。背は高く、少し不器用そうな雰囲気をまとっている。
「藤代くん?もちろん空いてるよ!」
琳子がぱっと笑顔を向けると、竜星は一瞬ぎこちなく笑い返した。その様子を桜花は横目で見て、「あれ?」と小さな違和感を覚える。
こうして、桜花・直哉・琳子・竜星の四人班が決まった。
***
その後、班ごとに集まって、校外学習での自主行動プランを話し合う時間が設けられた。行き先は歴史ある鎌倉。各班ごとに自由にコースを決めてよいという。
「じゃあ、まずは大仏見に行くのは鉄板でしょ!」
琳子が地図を広げて、わくわくした声をあげる。
「鎌倉は大仏が有名って聞くしな」
直哉は頷きつつ、ちらりと桜花を見る。その視線に気づかないふりをして、桜花は地図を覗き込んだ。
「でもさ、せっかく鎌倉行くなら小町通りとかも行きたいな。食べ歩きしたいし、あとは鎌倉といえばの鳩サブレ!」
「賛成ー!」と琳子が即答する。
「鳩サブレってなんや?」
直哉が桜花に向かって何気なく尋ねる。
「あ、そっか。直哉ずっと大阪にいたから知らないのか」「鳩サブレは鎌倉のお土産として有名な鳩をかたどったクッキーみたいなやつのことだよ」
「鳩をかたどったクッキー…。うまそうやな」
にっこりした直哉を見て、安心した桜花は話を進めた。
「じゃあ、大仏見て、小町通り行って…時間余ったら鶴岡八幡宮とか?」
桜花が提案すると、竜星が初めて口を開いた。
「いいんじゃね。鶴岡八幡宮、写真映えするし」
その言い方はぶっきらぼうだったが、琳子が「わー楽しみ!」と笑顔を見せた瞬間、竜星の耳がほんのり赤くなるのを桜花は見逃さなかった。
(……藤代くん、もしかして)
心の中で小さく呟く。彼の視線は明らかに琳子に向いている。
直哉はといえば、打ち合わせ中ずっと桜花にさりげなく話を振っていた。どんな道を通りたいか、どこに興味があるか、何を食べたいか。まるで班全体よりも、桜花一人の意見を優先しているように。
(直哉って、昔からこんなに積極的だったっけ……?)
心臓がまた高鳴る。けれど桜花は、自分に向けられるその熱量が「特別な好意」だとまでは思い至らなかった。ただの“久しぶりの再会を果たした幼なじみ”として、自分を気遣ってくれているのだと。
「よし、じゃあコース決定!」
琳子がノートにコースをまとめ、竜星もうなずく。直哉はにこにこしながらも、桜花の横顔をじっと見つめていた。
(気づいてほしいのに……まだ全然気づいてへんのか)
内心で小さく溜息をつきつつ、それでも彼の笑みは崩れなかった。




