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原動力

 ステージのライトを浴びると、直哉こと倉田ナオは自然と笑顔になる。数えきれないファンの歓声、揺れるペンライトの波。その光景はいつだって夢のようで、彼を奮い立たせた。

 ──けれど、最近の彼はさらに変わっていた。

 「ナオ、今日すげぇキレてたな!」

 リハーサルを終えた控室で、佐伯悠真がタオルを首にかけたまま大声を上げる。

 「わかる。動きも声も…正直、別人かと思った」

 低く落ち着いた声で言うのは、リーダーの神谷蓮。表情はクールだが、その瞳には驚きが宿っていた。

 「おいおい、ナオが調子乗るけんあんま褒めすぎんなよ」

 黒川翔がからかうように笑い、コンビニ袋からインスタント豚骨ラーメンを取り出す。

 「…けどマジで、今日のナオはヤバかったわ。なんつーか、“魂”入ってた」

 「ふーん。やっと本気出したんじゃないの?」

 白石輝が冷静に言い放ち、スマホをいじりながらも淡々と続ける。すかさず悠真が口を開いた。

 「ちょ、輝。その言い方はどうかと思うぞ」

 「別にナオくんのこと批判してるわけじゃないし。前より表情がいい意味で緩んでたから。恋でもした?」

 「ぶっ……な、なんやそれ!」

 直哉は思わず水を吹き出し、盛大にむせてしまった。

 「え、図星?」

 輝が首をかしげる。

 「いやいや、図星ちゃうから…!」

 焦る直哉とは裏腹に、悠真が冷静に声を上げた。

 「でもさぁ、ナオって昔から“完璧に見せる”のに必死だったじゃん?」

 「でも今日は違った。パフォーマンスに必死さがなかった」

 直哉は言葉に詰まり、タオルで汗を拭いながら笑うしかなかった。

 「…恋かどうかは正直微妙。仮に恋やとして、それでパフォーマンスのクオリティが変わるんやったら俺はアイドル失格やな」

 直哉が乾いた笑いを見せると同時に、リーダーの蓮がわずかに目を細めた。

 「…なるほど。まあ、うちの事務所は特に恋愛禁止って掲げてる訳じゃないし、ナオの抱く恋心がパフォーマンスに良い影響を与えるなら好きにしたらって思うよ」「ただ、好きな相手のことばっか考えすぎてファンを疎かにするのは絶対やめろよ」

 クールな口調に、悠真と翔が「うわ、リーダーかっけぇ!」と騒ぐ。

 輝は肩をすくめつつも「ふーん、やっぱ恋じゃん」と誰にも聞こえないくらいの小声で突っ込んでいた。

 直哉は照れくさく笑いながらも、胸の奥で強く思った。

 《自分の気持ちにもう嘘をつかない》と。


  「ところで、ナオの好きな子ってどんな子なん?」

 翔が身を乗り出し、興味津々な眼差しを向ける。直哉は一瞬言葉に詰まったが、照れくさそうに笑って口を開いた。

 「とにかく可愛い。何してても可愛い」

 あまりに真顔で言い切るものだから、部屋の空気が一瞬止まった。

 「はぁ?もっと可愛い以外にないの?」

 輝が呆れ気味に吐き捨てる。それに対し蓮はふっと笑い、肩をすくめた。

 「輝はお子ちゃまだからまだ知らないんだろうけどね。男が女に本気で恋したら、相手のどんな仕草も全部可愛く見えるってわけ」

 「お子ちゃまって失礼な! 俺だってもう16歳なんだぞ」

 むきになる輝に、蓮は余裕の笑みを浮かべた。

 「16歳なんてな、19の俺からしたらまだまだ子どもよ」

 売り言葉に買い言葉で噛みつき合う二人を横目に、翔が楽しそうに笑った。

 「ナオのことやけん、“巨乳が好き!”とか“すっげー美人!”とか、そういう答えが返ってくるんかと思ったから意外やったな」

 「おい待て。翔の中の俺の人物像どうなってんねん」

 直哉は思わず声を荒げる。

 「そもそもあの子、モデルで天下取れるくらい美人やしスタイル抜群やけどな、そういうとこで惚れたわけやない」

 「じゃあ好きなのは認めると?」

 翔がにやりと笑うと、直哉は一呼吸置いて、真剣な声で答えた。

 「認める。けど、俺は別に面食いちゃうからな。あの子の根っからの真面目さ、努力家なとこ。あと、小さなことでも気遣いできる優しさ──そこに惚れたんや」

 「ふーん…」

 翔の含み笑いに、直哉はカッとなってさらに熱弁する。

 「あのな、さっきからバカにした感じで俺のこと見とるけどな。こっちは片思い歴十三年なんや!俺のあの子への“好き”を舐めとったら大怪我すんで」

 「つか、さっきからあの子あの子って言いよるけど、名前はなんて言うと?」

 「なんでお前なんかに言わなあかんねん」

 「名前分かれば『あー、あの子ね』ってなるやん」

 「結局“あの子”やんけ。ほんなら言わんでも変わらんやろ」

 直哉はタオルを肩にかけ直し、わざとらしくため息をついた。

 「そもそも勝手に人の名前教えるって、プライバシーの侵害、個人情報漏えいや。本人がおらんところで俺が言うわけないやろ」

 「…ケチやねぇ」

 翔が肩を落とすと、直哉は即座に言い返した。

 「ケチで結構」

 

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