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新学期

今年は少し早い開花だったため既に散り始めている桜並木を抜け、桜花は校門をくぐった。

 「サクラー!おはよー!」

そう言いながら突進してくるのは昨年仲良くなった松本琳子。

 「ちょいストーップ!人混みで突進してきたら怪我しちゃうでしょー」

 「ごめんごめん笑 あ、てかサクラもクラスまだ見てないしょ?…ま、見なくてもサクラはきっと3組か」

 「わかんないよ?そういう琳子だって3組じゃない?」

 「どーだろ、私去年ちょびーっとサボっちゃったからさぁ」

そう談笑しながら昇降口に張り出されている新しいクラスを確認した。2年3組、文理コースで成績が上位40位までの面々が揃うクラスだ。琳子も無事に桜花と同じ3組となった。


 「私の席は…っと」

 教室に着き、座席表を確認する。自分の席を見つけて向かおうと振り返ると、一際目立つイケメンが桜花の目に映った。

 「ナオ…くん、?」

 桜花の最推しアイドル、LUMINOUSの倉田ナオに瓜二つだったのだ。桜花の通う八重咲高校は芸能人御用達学校のため、アイドルが同じクラスにいることは何ら不思議ではないし、昨年も同じクラスに複数名人気芸能人がいたくらいだ。しかし、最推しのアイドルがいるとなると話が変わってくる。

 ─けれど、座席表には【倉田ナオ】なんて名前はなかった。彼が座っている席には【高倉直哉】と書いてあったのだ。

 「まさか、ね。ただのそっくりさんだよきっと」そう心の中で自分を納得させ、ナオ似の男子を横目に桜花は席に着いた。

席に着いたことに気づいたのか、高倉直哉が桜花に声をかけた。

 「おはよ!俺、高倉直哉!しばらく隣の席やろうし、よろしくな」

 びっくりするほどコテコテの関西弁、二カッと笑う時に見える八重歯。間違いなく倉田ナオだ。けれど、隣の席の女子が自分のファンだなんて知って、距離を取られたらどうしよう…などと悶々としていると、不思議そうな表情で直哉が口を開いた。

 「ん、どないした?」

 「あ、いや…なんでも」

 「なんでもないわけないやろ笑 なんでもなかったらそんな目泳がんて」

 そう言われてしまうと聞くしかないじゃないか、と思いながら恐る恐る直哉に尋ねることにした。

 「あの、その…違ったらごめんなさい。倉田ナオくん…ですか?LUMINOUSの」

 訊いた途端に直哉の表情が固まった。あ、間違えた。

 「ち、違いますよねっ!いやぁー、すごく似てると思っちゃって笑」

 「…せやで」

 「へぁ?」思ってもいなかった返答に変な声が出てしまった。

 「俺、LUMINOUSの倉田ナオ。本名は高倉直哉なんよ」

 「え、えぇー!?」

 「ちょい、そんなびっくりすること?!笑 ここは芸能人がいるのなんて割と普通ちゃうん笑」

 「えだって、LUMINOUSの倉田ナオくんでしょ?!今日本で1番売れてるBIGな新人じゃん!さすがにそんなすごい人に今まで会ったことないっていうか…その…」

 あまりの驚きに息巻いてしまい、ハッと我に返った頃にはクラス中の注目の的になっていた。それに気づいた桜花は急に空気が抜けたかのように大人しくなった。

 「桜花っておもろいな笑」

 「そ、そんなことない…!」

 おもろい、と言われ赤面する桜花をみて直哉は一層笑った。

 「んーん、俺が今まで出会った人の中でいちばんおもろい笑」

 HR後、休憩時間に琳子が桜花の席に来て小声で話しかけてきた。

 「ねぇ!サクラの隣の席ってやっぱ倉田ナオ?!ほらサクラの大好きな!」

 「そうみたい。でも、私がナオくんのファンだなんて知られたら距離取られちゃうよね…」

 「いや、案外そうでもないかもよ?ほら、見てみ」

 琳子が指を指した方を振り返ると、直哉が気持ち悪いくらいの満面の笑みでこちらを見ていた。

 「え、なんでずっとこっち見てんの?!」

 「知らないよ!けど、なんか…テレビの感じと全然違うね」

 「もしかして…琳子のこと好き…とか?」

 「ちょ、まって?笑なんでそうなんの笑」

 「だって、琳子のことずっと見てるし…?」

 琳子はやれやれ、という表情をした。

 「見られてるのは私じゃないよ、絶対サクラだよ」

 そう言った途端、桜花は驚いた顔をした。

 「なんで?笑琳子の方が私よりよっぽど美人だし、実際モテてるんだから、琳子のこと見てるんでしょ」

 そんな話をコソコソとしていると、なぜか直哉がこちらにやって来た。

 「なあなあ、もしかしてさっきから俺の事話してくれてる感じ?」

 満面の笑みでそう言われると、桜花と琳子は震え上がってしまった。

 「いやそんなビビらんといて?笑 俺そんな怖い人ちゃうし」

 「それ自分でいいます?」

 「というか、逆に聞きますけど…さっきからなんでこっちのこと見てるんですか」

 「おお、急に壁作るやん笑 可愛いなあって思って見てたんやけどマズかった?」

 「ほら、やっぱ琳子のこと見てたんだって」

 「あ、キミ琳子ちゃんって言うん?俺、高倉直哉!よろしくな!」

 突然の自己紹介にたじろぐ琳子。その様子をよそに直哉が桜花の言動を訂正した。

 「あ、ちなみに俺が可愛いなぁって思って見てたんは桜花な?」

 しれっと爆弾発言をし、琳子はなんとも言えない表情をしていたが、当の本人である桜花は告白まがいな直哉の発言に気付かずにいた。


 始業式で校長のくだらなくて長ったらしい話を聞いたあと、クラスに戻ってからはクラスメイトが和気あいあいと雑談を交わしていた。桜花も例に違わず雑談にふけていたが、ふと思い立って直哉に話しかけた。

 「あの、高倉くん。ちょっと聞いていい?」

 「ん、なんや桜花か。どないしてん」

 「うちの高校って順位でクラスが決まるし、その順位も大して変動しないじゃない。だから3組も去年とほぼ同じ面々でしょ?けど高倉くん去年クラス違ったから。なんでかなって思ったの」

 「ああ、そのこと。去年は芸術科におったんやけどな?桜花がここの学校の普通科におるって知って転科してん。したらたまたま上位40位に入っちゃったってわけ」

 「私がいたから?」

 あまりにも想定外すぎる返答に桜花は言葉に詰まった。

 「せやで。今朝から話してる感じやと何も覚えてへん感じやけどな笑」

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